コラム

COLUMN

小型衛星による量子通信ネットワーク構想

微弱な光を利用する量子通信を地上通信網で実現する場合、光ファイバーによる伝送損失を無視することができませんが、宇宙では遥かに遠方まで光子を届けることができます。さらに、光は電波の10万倍の帯域があり、また、ライセンスフリーという利点があります。このため、従来にない強力な暗号通信を実現できる手段として衛星量子通信が各国で開発されています。ここでは、その最新の情報について解説します。

 

 静止衛星や低軌道周回衛星から電波を送信する場合、無条件に電波を送信できるわけではありません。衛星ネットワーク(複数の衛星から構成される場合もあるためネットワークと称します)ごとに送受信できる周波数が決まっているのです。現在、赤道上空の静止軌道では数百機の衛星が運用されていると思われます。ここにリモートセンシング・地球観測衛星や米国のSpaceXが計画する衛星インターネット(Starlink)システムを構築するための低軌道衛星を加えると、衛星の数は数千、いや将来は数万機になろうとしています。これらの膨大な数の衛星が、有限資源である周波数を利用しようとしているのです。周波数獲得競争が激しくなることは容易に想像できます。さらに米国や欧州では、これまで衛星通信で利用されてきたCバンド(6/4GHz)の下部帯域を5Gアプリケーション用に開放することが議論されています。このように、衛星を利用したビジネスを展開するためにはデータを伝送するための周波数を獲得することが非常に大きな課題となります。

 

 レーザを用いる衛星光通信は周波数帯の広さと電力効率の高さから、周波数獲得競争を解決する一つの方法と考えられ、衛星通信ネットワークを構築するための重要な技術として各国で開発が進められています。2017年7月、光通信研究を進めている日本のNICT(情報通信研究機構)は、超小型衛星(SOCRATES)と東京都小金井市にあるNICT光地上局との間で、光子一個一個のレベルで情報をやり取りする量子通信の実証実験に成功しました。SOCRATESは、重量50kg、サイズ50cm角で、衛星量子通信用途としては世界最軽量・最小サイズの衛星とされています。地上局では光子一個一個の到来を検出しながら信号を復元することで、高度600kmを秒速7kmで高速移動する衛星との量子通信を実現しました。このような長距離・高秘匿化を実現する衛星量子通信の研究開発は、日本の他、中国、欧米各国で行われており、2016年8月には、中国科学技術大学を中心とするチームが600kgの大型の量子科学技術衛星を打ち上げ、2017年6月に1,200km離れた2つの地上局に向けて衛星から量子もつれ配信を行う実験に成功しました[i]。この量子もつれについては機会があれば説明したいと思います。

 

 2020年6月25日、シンガポールのCentre for Quantum Technologies(CQT)は、「2019年6月にISSから打ち上げた重量2.6㎏の超小型衛星“SpooQy-1”が、400kmの軌道上で、搭載された小型機器により量子もつれ信号を生成したことを確認した。」と発表しました[ii]。日本でも、平成30年度から総務省の主導で「衛星通信における量子暗号技術の研究開発」が進められており、また今年度からは「グローバル量子暗号通信網構築のための研究開発」が開始されます。CQTは「将来的には、このシステムは地球や他の宇宙船の受信機に量子信号を送信するグローバルな量子ネットワーク構成の一部となるかもしれない。」と述べており、今後、衛星を利用する量子暗号通信の研究開発競争が激化すると考えられますが、研究成果が軍用ではなく、安全安心なグローバル民間ビジネスに利用されることを願うばかりです。

写真:NASA

(https://www.quantumlah.org/about/highlight/2019-07-quantum-satellite-art-science

より掲載)

[i] NICTホームページ(https://www.nict.go.jp/press/2017/07/11-1.html)

[ii] https://www.quantumlah.org/about/highlight/2020-06-spooqy-quantum-satellite

2021.10.20
2021.10.19
2021.10.18