コラム

COLUMN

Rocket LabのPhoton衛星と総合宇宙戦略

Electronロケットを手掛けるRocket Labが、衛星の設計・製造、打ち上げ、軌道上運用を含むエンドツーエンドのミッションサービスの実証を開始しました。この実証内容と、今後のRocket Labの成長戦略をニュースリリースから紐解きます。

 

 2020年9月4日、小型ロケットElectronによる衛星打ち上げを手掛ける米国のRocket Labが、「2020年8月31日、ニュージーランドのRocket Lab Launch Complex 1から打ち上げたElectronの14回目のミッション、“I Can't Believe It's Not Optical”において、“First Light”と名付けた自社設計・製造の衛星を軌道に投入した。」と発表しました[i]。通常のElectronミッションとして、ロケット打ち上げ約60分後、Capella Spaceの100kgの小型衛星を放出しました。その直後、Electronのキックステージ(Kick Stage)をPhoton衛星モードに移行し、軌道上でのPhoton衛星の実証を行ったのです。

 

 Electronロケットは、9基のRutherfordエンジンを搭載する直径1.2m・高さ12.1mの第1段目、真空中での燃焼を考慮したRutherfordエンジン1基を搭載する直径1.2m・高さ2.4mの第2段目、そしてCurieエンジンを搭載する直径1.2m(~1.2m)・高さ50㎝(~50㎝)の第3段目すなわちKick Stageから構成され、上部にペイロードが入るフェーリング(直径1.2m・高さ2.5m)が置かれます[ii]。一般的に、Kick Stageは衛星を正確な軌道に投入し、また複数の超小型衛星を異なる軌道に投入するために使用されます。物理学者でありかつ化学者であったMarie Curieにちなんで名付けられたCurieエンジンを搭載したKick Stageは、Electronの補助ステージで、冷ガス反応制御システム(a cold gas reaction control system)を使用して自分自身の位置を正確に決定し、衛星を高精度に軌道投入するとともに軌道投入中に他の衛星と再接触するリスクを排除する役目を担います。通常、ペイロードを軌道に投入後、Kick StageのCurieエンジンを再点火して軌道離脱マヌーバを行い、大気圏に再突入するというシーケンスが実施されます[iii]

 今回は、Kick Stageを大気圏に再突入させるのではなく、Kick Stageに長期間の衛星運用を行うためのサブシステムを追加したPhoton衛星バスをFirst Lightとして軌道投入し、電力管理、熱制御および姿勢制御などのサブシステムの機能実証を長期間行うことで、今後の低軌道運用、月・金星探査などの将来ミッションに向けた実績を積み上げるとしています。

 

 Rocket Labはカリフォルニア州ロングビーチの製造施設でPhotonの生産体制を整えています。この施設には、Photonミッションのためのペイロード結合設備やミッション運用センターがありますが、Rocket Labは今回のFirst Lightミッションを通じて、ミッション設計、部品製造、宇宙船の組み立て・結合・試験(AIT:assembly、integration and test)、打上げ、地上設備、軌道上ミッション運用を含むエンドツーエンドサービスのデモンストレーションを行いました。また、軌道上で運用するPhotonを開発する過程で、より多くのPhotonを製造するための製造プロセスおよび試験プロセスの改良や合理化が行われました。

 製造施設の拡張に加え、Rocket Labは宇宙システム部門を強化するため、2020年4月、衛星ハードウェアの主要プロバイダーであるSinclair Interplanetaryを買収しました[iv]。Sinclair Interplanetaryの製品はPhoton衛星の重要な位置を占めており、また、Sinclair InterplanetaryはRocket Labのリソース、製造能力、革新的な技術を活用することで、衛星ハードウェアをより多くの顧客に提供できるようになることから、両者にとって意義のある買収であると言えます。

 

 ユーザーがElectronとPhotonを利用するメリットとして、打上げロケットと宇宙船を同時に調達することで、個別に衛星ハードウェアとロケットを調達することに伴う煩雑さ、リスク、遅延が解消されることつまり、Rocket Labが衛星バス、ミッションの設計、打ち上げ、地上の各部分を担当することでユーザーは最も重要なペイロード検討に集中できるようになります。確かに、筆者の数少ない経験から考えても、衛星を打ち上げる際のロケットとのインタフェース調整は面倒なものでしたので、これがなくなるだけでもメリットはあると思います。

 また、スタートラッカーやリアクションホイールなどのRocket Labの衛星コンポーネントをRocket Lab以外の衛星メーカがスタンドアロン製品として購入することもできるようです。

 

 2021年初めにNASAが打ち上げるCislunar Autonomous Positioning System Technology Operations and Navigation Experiment(CAPSTONE)は、Lunar Gatewayミッションに先立ち小型衛星を月周回の4,000km×75,000kmのNear Rectilinear Halo Orbit(NRHO)軌道に投入し、さまざまなパラメータを検証するもののですが、柔軟にカスタマイズできるように設計されたPhotonファミリがCAPSTONEミッションとして使用される見込みです。

バージニア州にあるNASAのWallops Flight FacilityからのElectron発射サービスとPhoton宇宙船の価格は$10Mということです[v]が、筆者の感覚としては「結構安いなあ」です。読者の皆様はいかがでしょう。

 なお、Rocket Labによる次回の打ち上げはCAPSTONE Photonミッションの先駆けとして9月以降にWallops Flight FacilityのLaunch Complex 2 (LC-2) から米国宇宙軍のミッションSTP-27 RMを搭載したElectronの打ち上げが予定されています。

 

 ロケット打ち上げビジネスからスタートし、衛星の設計・製造、打ち上げ、運用を一括して受注することでターンキー期間を短縮し、衛星コンポーネントの提供も行うという一気通貫、いやそれ以上のビジネスモデルを構築しようとする戦略には頭が下がります。安価な衛星を短期間でユーザーに提供するビジネスモデルは、新たなベンチャー企業を生み出す可能性もあるように思えます。Photonの活躍に注目したいと思います。

 

 

写真はKick Stage:Rocket Lab galleryより掲載

https://www.rocketlabusa.com/gallery/

 

[i] Rocket Labニュースリリース:https://www.rocketlabusa.com/about-us/updates/media-release-rocket-lab-launches-first-in-house-designed-and-built-photon-satellite/

[ii] Space Launch Report:https://www.spacelaunchreport.com/electron.html

[iii] Rocket Labホームページ:https://www.rocketlabusa.com/electron/kickstage/

[iv] Rocket Labニュースリリース:https://www.rocketlabusa.com/about-us/updates/rocket-lab-closes-acquisition-of-satellite-hardware-manufacturer-sinclair-interplanetary/

[v] https://www.nasaspaceflight.com/2020/09/rocket-lab-debuts-photon/

 

2021.1.18
2021.1.12
2020.12.21