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NASA SIMPLExプログラムのJanusプロジェクトとは?~NASAと小惑星~

コロラド大学ボールダー校(The University of Colorado Boulder)とロッキード・マーティン(Lockheed Martin)が、NASAのSIMPLExプログラムの下で、小型衛星を2重小惑星に接近させて撮影するというヤヌス(Janus)プロジェクトに取り組んでいます。NASAのSIMPLExプログラムとは何か、そしてJanusプロジェクトとは?今回はこれを取り上げます。

 

 コロラド大学ボールダー校とLockheed Martinは、2重小惑星(binary asteroids)に接近して撮影する、Janus(ヤヌス)と呼ばれる小型衛星ミッションに取り組んでいます。Janusでは、2022年に2機の衛星を打ち上げ、各々の衛星が2組の2重小惑星まで数百万マイルの飛行を経て接近するというものです。2重小惑星とは、お互いの周りを周回する惑星ペアです。このJanusプロジェクトは、NASAのSIMPLExプログラムの下で行われています。Lockheed Martinによると、Janusプロジェクトで開発した衛星の重量は約80ポンド(約36㎏)、大きさは機内持ち込みのスーツケースほどですが、これまでの小型衛星よりも遠くまで飛行できるとのことです[i]

 

 それでは、NASAのSIMPLExプログラムとは一体どのようなものなのでしょう。SIMPLExはSmall Innovative Missions for Planetary Explorationの略で、NASAが進める月、火星、深宇宙をターゲットとする小型衛星コンセプトの一つです。

 2019年6月、NASAは2018年に行われたScience Mission Directorate(SMD) Small Innovative Missions for Planetary Exploration (SIMPLEx)に提案された将来の小型衛星に関する12のコンセプトのうちから3つのミッションを選定しました。これらのミッションの概要を以下に示しますが、このうちの少なくとも一つは最終選考に残り実際の飛行を行うことになります。

1.Janus

 小さな“破砕集積体(rubble pile)”小惑星を研究し、2つの2重小惑星の正確なモデルを構築する。

2.EscaPADE(Escape and Plasma Acceleration and Dynamics Explorers)

 火星の大気から脱出するための加速プロセスと、太陽から降り注ぐ太陽風に対する大気の反応を明らかにする。

3.Lunar Trailblazer

 月面の水を直接検出してマッピングし、形状、量、位置が地質とどのように関連しているかを特定する。

 SIMPLExでは、重量が400ポンド(約180キログラム)未満の小型衛星を利用した、単独の惑星科学ミッションを遂行し、他のNASAミッションや商業的な打ち上げ機会を共有することになります。選定された提案は、コンセプトデザインのさらなる開発と完成に向けて最大1年間の資金提供を受け、NASAによるPDR(Preliminary Design Review:基本設計審査)に基づく評価が行われます[ii]

 

 そして、2020年9月3日、Janusプロジェクトが重要なマイルストーンであるKey Decision Point-C(KDP-C)を通過したとNASAが発表したのです[iii]。KDP-Cをパスしたことで、Janusチームがハードウェアの最終設計を開始する承認が得られたのです。この時点でミッションの公式スケジュールと予算も決定され、ミッション費用は$55M未満となりました。

 他の二つの提案である、EscaPADEとLunar Trailblazerについては、まだ正式決定されておらず、Lunar TrailblazerのKDP-Cが2020年11月、EscaPADEは2021年4月に予定されています。

 

 Janusミッションでは1996 FG 3と1991 VHと名付けられた2組の小惑星まで飛行し、小型衛星(SmallSats)に搭載されたカメラで小惑星の動きを追跡し、高解像度の科学データを持たない天体の1つである2重小惑星システムの正確なモデルを構築する予定です。

 Janusは、太陽系の起源、進化を理解するというNASAの目標に貢献するとともに、惑星防衛(planetary defense)の取り組みに関する情報をもたらし、NASAが月と火星の有人探査計画を進める上での、知識のギャップを埋めるのに役立つとされています。

 

 さて、惑星防衛という言葉が出てきましたので、小惑星衝突に関する話題について触れたいと思います。読者の皆さんはNASAに、惑星防衛に関するミッションを管理するPlanetary Defense Coordination Office(PDCO:惑星防衛調整局)[iv]があるのを御存じでしょうか。2016年1月に設立されたPDCOの役目は以下のようなものです。

・危険性のある物体(potentially hazardous objects:PHOs)の早期発見―地球の軌道から500万マイル(約800万km)以内に到達すると予測され、地球に重大な損害を引き起こす大きさ(30から50メートル)の物体の一部を発見する。

・PHOを追跡して特性を把握し、潜在的な影響について警告する。

・PHOの影響を緩和するための戦略と技術の研究を行う。

・実際の脅威に対応するための米国政府の計画の調整を主導する。

 

 そして、PDCOのミッションの一つにDART(Double Asteroid Redirection Test)があります[v]。DARTミッションはNASAの指示の下で、応用物理研究所(Applied Physics Laboratory:APL)が、ジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory:JPL)、ゴダード宇宙飛行センター(Goddard Space Flight Center:GSFC)、ジョンソン宇宙センター(Johnson Space Center:JSC)、グレン研究センター(Glenn Research Center:GRC)、ラングレー研究センター(Langley Research Center:LaRC)などの支援を受けて進めているものです。

 DARTは危険な小惑星による地球への影響を防ぐ技術を試験するもので、宇宙における小惑星の運動を変化させる動的インパクター技術(kinetic impactor technique)を実証します。DARTでは、2重近傍小惑星(65803)Didymosを目標としています。Didymos主天体の直径は約780mですが、2次天体(moonlet)の大きさが、地球に大きな脅威を与える可能性のある小惑星の典型的な大きさである約160mであることから、目標とされているようです。DARTに搭載するカメラ(DRACO)と高度な自律航法ソフトウェアにより秒速約6.6kmでmoonletに衝突させ動的衝撃を与えます。この衝突によって、主天体を回る軌道上のmoonletの速度が1%程度変化することで、軌道周期が数分程度変化します。これを地球上の望遠鏡で観測・測定するのです。

 打ち上げ後、DARTは電気推進システムに必要な電力を供給するためにNASAが設計したソーラーアレイであるROSA(Roll Out Solar Arrays)を展開します。DARTは、その宇宙推進の一部としてイオン推進であるNASA Evolutionary Xenon Thruster‐Commercial (NEXT-C)ソーラー電気推進システムの実証を行います。NEXT-CはNASAグレン研究センターで開発されたDawnの推進システムをベースにした次世代システムです。NASAは次世代イオンエンジン技術を将来のNASAミッションに適用することを目指して、電気推進システムの実証を行うのです。

 DARTのローンチウィンドーは2021年7月末から始まり、カリフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地からFalcon 9で打ち上げられ、1年以上の飛行を経て、Didymosが地球から1,100万km以内にある2022年9月下旬にmoonletに衝突させる予定です。

 

 宇宙探査と地球を小惑星から防衛するための実証、何とも壮大な話ですが、同時に新技術の検証も行うという欲張った計画です。NEXT-C推進システムはNASAやAerojet Rocketdyneから購入可能になる[vi]予定とのことですので、実証の結果も期待したいものです。

 

写真はLockheed Martin作成のJanusイラスト:NASAホームページから掲載

https://www.nasa.gov/feature/new-simplex-mission-to-send-smallsats-on-longest-deep-space-journey-to-date

 

[i] Via Satellite:https://www.satellitetoday.com/launch/2020/09/11/lockheed-martin-to-build-smallsats-for-far-off-binary-asteroid-mission/

[ii] NASA: https://www.nasa.gov/feature/small-satellite-concept-finalists-target-moon-mars-and-beyond

[iii] NASA:https://www.nasa.gov/feature/new-simplex-mission-to-send-smallsats-on-longest-deep-space-journey-to-date

[iv] NASA:https://www.nasa.gov/planetarydefense/overview

[v] NASA:https://www.nasa.gov/planetarydefense/dart

[vi] NASA:https://www1.grc.nasa.gov/space/sep/gridded-ion-thrusters-next-c/

2021.10.20
2021.10.19
2021.10.18