コラム

COLUMN

宇宙とVR ~Epic GamesのUnreal Engineと宇宙~

人気ゲームのFortniteを提供するEpic GamesとAppleの課金をめぐる論争の一環として、Epic Gamesは、開発者アカウントなどの削除に伴うアクセス遮断により、同社が開発しているゲームエンジン「Unreal Engine」にも影響が出ると指摘しています。このUnreal EngineがNASAのVR制作でも利用されているとの記事があったため、今回、宇宙とVRについて調べてみました。

 

 

 人気ゲームのFortniteを提供するEpic Gamesが、Appleプラットフォームでゲームを展開する場合の手数料(30%)の高さに不満を持ち、モバイル端末向けの課金システム「Epicディレクトペイメント」の運用を開始したことから、AppleはApp StoreからFortniteをダウンロードできなくしたと大きく報道されました[i]。さらには、iOSやmacOSの向けのソフトウェア作成に必要となる開発アカウントが削除されるとの報道もあります[ii]。もし、同社の開発者アカウントなどが削除されてアクセス遮断が実行された場合、多くのゲーム開発に使用されているUnreal Engineにも影響が出るとの指摘もあります。このUnreal EngineはEpic Games以外の他のゲーム関係者にも影響を与える可能性があります。例えば、2020年発売予定のPlayStation 5に向けて、多くの会社がUnreal Engine 5を使用した開発を行っています[iii][iv]

 このUnreal Engineはゲーム以外にも様々な分野で利用されています。

 Unreal Engineを利用するメリットとしては、① 画像、映像および音声などを生成するレンダリング時間の短縮と反復作業の容易化、② プレーヤーとゲームとのインタラクティブ性付与機能、が指摘されています。②のインタラクティブ性により、VRにおけるリアルタイム入力(例えば、走行中のバーチャルカーにおける日光のリアルな反射など)に対応することができるようです[v]。このようなメリットを活用して、以下のような用途で使用されています。

・バーチャルショールーム:Audiでは、顧客は車が実際に目の前にあるような映像により、あらゆる角度から車を確認することができます[vi]。Unreal Engineによって高品質な光の反射を表現することで質感を実現するとともに、製品データの変更への対応も容易になったとのことです[vii]

・自律走行車の安全性確立:Mechanical Simulation社は自律走行車のテストをより効率的かつ安全に実施するため、実際の物理的なテストコースでのテスト前にバーチャル自動車を使ってテストすることを可能にしました。バーチャル自動車には、全ての物理的な自動車のセンサーが搭載され、視覚的なデータも物理的なテストと同じようにセンサーに供給され、障害物や天候、時刻、道路のコンディションをさまざまに変更して素早く安全に繰り返しテストが行えます[viii]

・カメラ内でのVFX(Virtual effect):Lux Machinaのスタジオで構築されたプロジェクトのセットでは、LEDウォールによって実世界の俳優やプロップに対する環境とライティングや反射の投射も行い、カメラ内で最終出力ピクセル相当の結果を得ることができます。つまり、カメラ内VFXの機能により、俳優が演じる背景をリアルタイムで別背景に差し替えて、演技を確認することが可能となります[ix]

・建築設計やバーチャルモデルルーム:高忠実度リアルタイム環境で高速にイテレーションを行うことで、デザイン意図を顧客に伝達することができます。建築ビジュアライゼーションスタジオのBuildmediaは、タッチスクリーンとVRを活用して完成前のマンションのデジタル3Dモデルをリアルタイムで見せることで、まだ建設されていない住宅の魅力を伝えることを可能にしました[x]

・新薬の開発:C4X Discoveryは、医薬品をデジタルの世界で開発しようとしており、分子の3DモデルをVR内で操り、多様な見方や角度から調査し、新しい形で分子とインタラクションする方法で医薬品を発見しようとしています[xi]

・火星のVR:2030年代に初の火星有人探査を計画しているNASAは、2016年にはUE4(Unreal Engine4)を用いて、VRのヘッドセットで火星探検が体験できるThe Mars 2030 Experienceの開発を始めました[xii]

 

 最後に、宇宙におけるVR活用が出てきましたので、本題に入りましょう。

 NASAは1980年代からVRのプロトタイプ開発に取り組んでおり、宇宙飛行士の訓練やガイドにも重要な役割を果たしてきました。NASAの最新のプロジェクトでは、Unreal Engineを利用した複合現実(MR:Mixed Reality)を実現しており、宇宙飛行士の訓練に使用される国際宇宙ステーション(ISS)の複合現実シミュレータを開発しました。

 NASAが一人の宇宙飛行士を宇宙に送る前に、輸送機や国際宇宙ステーション(ISS)の無重力状態に備えて、厳しい授業とシミュレーションから構成される2年間の訓練を受けなければなりませんでした。以前はISS外での作業訓練は、自然浮力実験室と呼ばれる場所で行われていましたが、これにはスペースシャトルと国際宇宙ステーションの内部の実物大モデルとを組み合わせたものが使用されていました。しかしながら、この複合現実アプリは、無重力下での作業を効果的にシミュレートする物理的ツールと組み合わせて使用され、臨場感の高い訓練が実施できるとのことです[xiii]

 

 日本では、「世界初、国際宇宙ステーションの宇宙アバター“space avatar”操作体験の実証始動」を、ANAホールディングス株式会社、avatarin株式会社、JAXAが連名で発表しました[xiv]

 そして2020年5月21日に打ち上げられた宇宙ステーション無人補給機「こうのとり」の最終号機となる9号機で「きぼう」に運ばれ、5月29日「space avatar」が設置されました。今後、space avatarの操作を一般の方が行うことで「きぼう」船内から宇宙や地球をリアルタイム眺めることが可能になります。

 avatarinは、今後の宇宙アバターを活用した事業化に向けた取組みとして、以下のような検討を行っているとのことです。

フェーズ0:「きぼう」を利用した、宇宙アバター技術の実証、一般向けの体験価値の実証

フェーズ1:宇宙ステーション船内における、小型分散型のアバター技術の実証、実装

フェーズ2:宇宙ステーション船外における、小型分散型のアバター技術の実証、実装

フェーズ3:月面及び月周回有人拠点における、小型分散型のアバター技術の実証、実装

 

 先に述べたようにVRは車の自動運転から建設設計や新薬開発など様々な分野で活用されています。これを踏まえると、VRやMR、XRは今後の宇宙開発にとっても強力な武器になることは想像に難くありません。宇宙ビジネスを手掛けようとする方々にとっては興味津々ではないでしょうか。

 

写真:flickr.comより掲載

https://www.flickr.com/search/?text=Fortnite

[i] Yahooニュース等:https://news.yahoo.co.jp/byline/kawamurameikou/20200818-00193845/

[ii] TechCrunch等:https://jp.techcrunch.com/2020/08/18/2020-08-17-epic-games-apple-injunction/

[iii] Yahooニュース:https://news.yahoo.co.jp/articles/d08e23f2db37247f15c835224d37e0e903fb94f4

[iv] Impress Watch「「PS5+Unreal Engine 5」驚異の画質とゲームに留まらない革新」:https://www.watch.impress.co.jp/docs/series/nishida/1252924.html

[v] CAPA「Unreal engineをビジネス利用して成功した事例4つ」:https://www.capa.co.jp/archives/32987

[vi] Audi:https://www.audi-sales.co.jp/showroom/virtual.html

[vii] Unreal Engine:https://www.unrealengine.com/ja/spotlights/creating-a-digital-showroom-audi-and-mackevision-choose-ue4

[viii] Unreal Engine:https://www.unrealengine.com/ja/blog/making-autonomous-vehicles-safer-before-they-hit-the-road

[ix] Unreal Engine:https://www.unrealengine.com/ja/spotlights/unreal-engine-in-camera-vfx-a-behind-the-scenes-look

[x] Unreal Engine:https://www.unrealengine.com/ja/industry/architecture

[xi] Unreal Engine:https://www.unrealengine.com/ja/spotlights/taking-pharmaceutical-discovery-to-the-next-level-in-unreal-engine

[xii] Unreal Engine:https://www.unrealengine.com/ja/blog/nasa-is-using-unreal-engine-4-to-make-mars-a-virtual-reality?lang=ja

[xiii] Tech Crunch:https://www.techradar.com/news/nasa-is-training-its-astronauts-using-mixed-reality

[xiv] JAXA報道発表:https://www.jaxa.jp/press/2020/05/20200518-2_j.html

2021.10.20
2021.10.19
2021.10.18