コラム

COLUMN

中国の宇宙開発と宇宙ベンチャー~海上打ち上げやリモートセンシング衛星~

中国では月や火星をはじめとする宇宙探査の準備を精力的に進めていますが、宇宙ベンチャーの活動も盛んです。商業リモートセンシングを展開するベンチャー企業の活動を中心に中国の宇宙ビジネスや宇宙開発について解説します。

 

 人民網日本語版(2020年9月16日)によると、9月15日、中国は黄海海域の海上プラットフォームから、長征11号(Long March 11又はChang Zheng 11)に搭載した「吉林1号」高分(高分解能)03衛星(Jilin-1 Gaofen-03)9機を打ち上げたと発表しました[1]。海上プラットフォームから打ち上げられた「吉林1号」高分03シリーズ衛星には、中国の宇宙ベンチャー企業である長光衛星技術有限公司(Chang Guang Satellite Technology Co., Ltd.)[2]が開発した「bilibili動画衛星」や「央視頻号」を含む動画衛星3機とプッシュブルーム衛星6機が含まれているとのことです。

 海上発射、宇宙ベンチャー企業、bilibili動画衛星などに興味を惹かれ、これらについて調べてみました。

 

 今回の海上発射は、2019年6月に続き、中国にとっては2回目の海上発射であり、中国山東省の東部沿岸の海陽市(Haiyang)の施設が使用されました。

 使用されたDe Bo 3と呼ばれる海上プラットフォームは、全長159.6m、最大幅38.8m、最大積載量20,500トン、12ノットで移動できるはしけ(barge)のようなもので、従来、損傷を被った大型船や軍艦の緊急救助などに使用されていたものです[3]。今回の打ち上げが、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と共通した方式を使用していることから、台湾を威嚇する意図や、台湾と連携を深め関係が悪化する米国に対するけん制効果を狙った可能性もあるとの見方もあるようです[4]。宇宙と軍事、やはり切り離せませんね。

 何はともあれ、中国は、海上からの打ち上げはコストや安全面で利点があるとしており、中国航天科技集団有限公司(CASC:China Aerospace Science and Technology Corp.)は、海陽市で宇宙港の開発を推進しています。この宇宙港は既存の4つの衛星発射センター(酒泉衛星発射センター、西昌衛星発射センター、太原衛星発射センター文昌衛星発射センター)に追加され、軽量の固体ロケットの発射基地になるようです[5]。これまで、海上発射は米国とロシアが実施していますが、中国がこれに続くことになります。

 

 さて、今回打ち上げられたJilin-1(吉林1号)の話に移ります。

 Jilin-1を開発している長光衛星技術有限公司は、投資家や中国科学アカデミー、吉林省などが資金を提供して2014年に設立され、人工衛星やUAV(無人航空機)の開発・運用、撮影画像データの販売などを行っており、2015年に初めて衛星の打ち上げに成功しました。2018年には、自社の人工衛星を使って、地上から打ち上げられたロケットを撮影し、また、国際宇宙ステーション(ISS)を撮影することにも成功しました。同社の衛星は100〜200kg程度の小型衛星で、開発拠点のある吉林省に因んで「吉林1号」と名付けられています。同衛星は、約1mの分解能で、カラーの4KHD動画や静止画が撮影できる能力を有し、また分解能70cmでの撮像もできるようです。2014年3月8日、クアラルンプール国際空港を出発し、北京に向かう途中で行方不明になったマレーシア航空370便の捜索などでも活躍したようです。

 社会主義国家の中国ですが、近年、起業ブームに沸いており、各地で大規模なインキュベーション施設が用意される[6]などベンチャー大国の様相を呈する中で、同社は乱立気味の宇宙ベンチャーの中でも大きな成果をあげているようです。地上から発射されるロケットの動画やISS画像を吉林1号から撮影したことを考えても、精度の高い姿勢制御技術を有することが分かります。

 今回打ち上げられた「吉林1号」高分03衛星では、軽量化、高度集積システム、高分解能化などの革新的な技術が採用されたことで、衛星重量は40㎏級に低減されたとのことです。これまで、少なくとも16機の「吉林1号」が軌道に投入されており、これに新たな9機が加わることになります。ご存じの方も多いと思いますがプッシュブルーム(Push Broom)というのは、衛星の軌道運動で1方向(進行方向)にのみスキャンする方式です[7]

 ところで、商用衛星での動画サービスとして、SkySatを思い浮かべる読者の方がいらっしゃると思います。SkySatを計画したSkybox Imagingは2014年にGoogleに買収され、2016年にTerra Bellaと改名しましたが、2017年Planet Labsに買収されました。Planet LabsのSkySatでは、衛星あたり1台のカメラを搭載し、30秒から120秒の動画撮影を行っています[8]。筆者は、Planet Labsとして動画ビジネスにはあまり注力していないのではないかとの感触を持っています。一方、中国の吉林1号では今後、ある特定地点の動画が準リアルタイムで見られる、といったサービスが提供されるかもしれません。

 

 もう一つ筆者が興味を持ったのが「bilibili動画衛星」です。

 bilibili(ビリビリ)は、中国のオンラインエンターテインメントブランドで、2009年6月にウェブサイトが開設され、2010年1月に正式に「bilibili」と命名された会社です。bilibiliは高品質のコンテンツと臨場感あふれるエンターテインメント体験を提供し、ユーザーとの強いつながりを目指しているとのことです[9]。bilibili動画衛星では、地球のオーロラ観測、月や土星などの天体の観察が可能で、主に動画共有サイトでの科学普及活動に利用され、またオーダーメイド画像撮影パックの提供も計画されています。2020年7月10日、bilibili動画衛星が中国の酒泉衛星発射センターから新開発ロケットである快舟(Kuaizhou 11号)に搭載されて打ち上げられました。しかしながら、ロケットに異常が生じて、bilibili動画衛星などの衛星が損失した[10]のですが、今回、再打ち上げが行われたというわけです。

 

 中国では、2020年9月7日、太原衛星発射センターから打ち上げられた長征4号ロケットにより、高分11号02衛星を所定の軌道に投入することに成功しています。この高分11号02衛星はCASCが開発した光学リモートセンシング衛星で、主に国土調査、都市計画、土地の権利確認、道路網設計、農作物の生産量予測、防災・減災などの分野に用いられ、一帯一路計画をサポートするとのことです[11]

 

 中国は、一帯一路の沿線国を中心に独自のグローバル衛星測位システムである北斗(BeiDou)の展開を図っており、リモートセンシングと併せることで一帯一路構築の強力なツールとなることが予想されます。

 

 中国は、「宇宙強国」となる目標に向けて、火星探査機の打ち上げ、独自の宇宙ステーション計画の推進、衛星測位システムとリモートセンシング衛星コンステレーションの構築などの国家的な宇宙開発を実行しています。筆者は中国の覇権主義を肯定するつもりはありませんが、優れた技術を持つ宇宙ベンチャー企業の躍進を見るにつけ、今後、中国が宇宙分野で独走するのではないかと思えてしまいます。

 

写真は2019年のLong March 11号の打ち上げ:SpaceNewsより掲載

https://spacenews.com/china-makes-progress-on-spaceport-project-for-sea-launches/

 

[1] 人民網日本語版:http://j.people.com.cn/n3/2020/0916/c95952-9760913.html

[2] 長光衛星技術有限公司:http://www.charmingglobe.com/EWeb/boot_page.aspx

[3] NASA:https://www.nasaspaceflight.com/2020/09/china-bounces-back-long-march-11-nine-satellites

[4] Yahooニュース:https://news.yahoo.co.jp/articles/f66bb77ac9fadbb3c2e551b2615b2ff15e1337ca

[5] Space News:https://spacenews.com/china-makes-progress-on-spaceport-project-for-sea-launches/

[6] 中国の起業ブームとベンチャーファイナンスの動向(日本総研):https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/rim/pdf/9741.pdf

[7] 超小型衛星プラットフォームと液晶スペクトルカメラ(高橋幸弘):

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl/55/9/55_792/_pdf

[8] SKYSAT VIDEO PRODUCT SPECIFICATION:https://assets.planet.com/docs/Planet_Combined_Imagery_Product_Specs_letter_screen.pdf

[9] bilibili:http://bilibili.co.jp/home

[10] Yahooニュースなど:https://news.yahoo.co.jp/articles/42707e162a6ce7bdc4eb309950c8a44d8adb7760

[11] 人民網日本語版:http://j.people.com.cn/n3/2020/0908/c95952-9757945.html

2021.10.20
2021.10.19
2021.10.18