コラム

COLUMN

宇宙ビジネスとブロックチェーン

暗号資産の一つであるBitcoinサービスを提供するためのプラットフォームであるブロックチェーンは、蓄積しているデータベースの改ざんが困難であるという特徴があります。この特徴を活かして様々な分野で利用されています。今回は、色々なブロックチェーンの利用例から宇宙分野における適用まで、幅広く解説します。

 

 2008年10月31日(UTC:日本時間11月1日)、Satoshi Nakamoto がCryptography Mailing List[i]にBitcoinに関する『A Peer-to-Peer Electronic Cash System』[ii]を投稿してから10年以上が経ちます。本論文は日本語版も公表されていますので興味のある方はご覧ください[iii]

 

 仮想通貨(暗号資産)であるBitcoinの取引記録(トランザクション)、いわば取引台帳の改ざんや不正取引を防ぐためのデータベースプラットフォームがブロックチェーン(Blockchain)です。このブロックチェーンを実現するための技術としては以下のようなものが挙げられます[iv]

P2Pネットワーク:                    台帳を分散管理するネットワーク

コンセンサスアルゴリズム:      ネットワーク上の全員が合意形成の上、台帳情報を共有するためのアルゴリズム

スマートコントラクト:             自動的に契約を実行するためのプログラム

偽造防止・暗号化技術:             安全な取引の実現や台帳情報の共有による取引の透明性とプライバシー保護の実現

 

 Bitcoinでは仮想通貨に特化したブロックチェーンプラットフォームを利用しますが、ブロックチェーンは次のような様々な分野で応用されています。

Fintech: ICTを駆使した革新的、あるいは破壊的な金融商品・サービス。代表的なものとして、① 個人のお金に関わる情報を統合的に管理するPFM(Personal Financial Management)、② AI活用による投資助言サービスであるロボ・アドバイザー、③ 資金の貸し手と借り手を仲介するマーケットプレイス・レンディングサービス、④ スマートデバイスを利用してクレジットカードでの支払いを受け入れるモバイルPOS、などが挙げられる[v]

 

配送システム:2018年3月、小売業者のWalmartが、ブロックチェーン技術を使って荷物を追跡し、状態を監視する「スマートパッケージ」システムの特許を取得した。Walmartは、同社のサプライチェーン事業を強化するためのブロックチェーン構想にも取り組んでいる[vi]

 

医療・保健:2019年1月、ドラッグストアや薬剤給付管理を中心にヘルスケア事業を展開する米国のCVS Health Corp (CVS)のAetnaをはじめとする多数の健康保険会社は、IBMと提携し、ヘルスケア業界のコスト削減を目的としたブロックチェーン・ネットワークを構築すると発表した。両社はブロックチェーン技術を利用することで、コンピュータのネットワーク上でデータベースを共有し、請求や支払いを処理したり、ディレクトリを管理したりすることが可能になると述べている[vii]

 

自動車:2019年、デンソーは、ブロックチェーンテクノロジーと暗号化によってリンクされたデータトランザクションの分散レコードを通した革新的なモビリティサービスに特化したグローバルコンソーシアムであるMOBIに参加したと発表した。ブロックチェーンを活用して、より安全なモビリティエコシステムを構築し、データと支払いのシームレスな交換を促進し、シェアリングモビリティサービスを強化することを目指している自動車およびテクノロジーリーダーに参画する[viii]。さらに、2020年、トヨタ自動車は、ブロックチェーン技術の活用検討の取り組みを発表し、4月からグループを横断するトヨタ・ブロックチェーン・ラボを立ち上げ、あらゆるモノ、サービスを、安全・安心かつオープンにつなぐ新しいサービスに取り組んでいくと発表した[ix]

 

著作権保護:2018年10月、ソニーグループ(ソニー株式会社、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント、株式会社ソニー・グローバルエデュケーション)はブロックチェーン技術を応用したデジタルコンテンツの情報処理システムを開発したことを発表した。これは、著作物に関わる権利情報処理に特化し、電子データの作成日時を証明する機能と、ブロックチェーンの特徴である改ざんが困難な形で事実情報を登録する機能、過去に登録済みの著作物を判別する機能を有するもので、電子データの生成日時と生成者を参加者間で共有・証明することが可能になる。ソニーとソニー・グローバルエデュケーションが開発した教育データの認証・共有・権限管理システムをベースに、デジタルコンテンツに関わる権利情報を処理する機能を追加した[x]

 

個人ID保護:マイクロソフトは国連、NGO、政府、民間企業が協力して、IDを持たない人々にデジタルIDを提供し、人権を保護することを目的とするID2020と呼ばれる人権保護プロジェクトを支援している。出生登録もされておらず身分を証明する書類を持たない難民に対し、特定の政府のシステムに依拠することなく、独自のエコシステムを作り上げることで、人権が保護されていない人々にも身分証明を与えることを目指している[xi]

 

 これ以外にも、ブロックチェーンが活躍できる分野は多々考えられますが、基本的には強力なデータ改ざん対策として利用するものです。さて、本題の宇宙分野での取り組みはどのようになっているのでしょう。

 

 2020年4月29日のSpace.comに掲載された「How blockchain can change the space industry」の中でいくつかの取り組みやアイデアが紹介されています[xii]

① サプライチェーンとしての宇宙採掘中の資源の追跡

② 大規模な宇宙建設プロジェクトの管理

③ 宇宙システムによるエネルギー貯蔵およびエネルギーの生産と消費の制御

④ 衛星をブロックチェインノードとして利用することで衛星にデータを貯蔵しトランザクションを処理するためのインフラを構築

 このようなアイデアが挙げられる中、既に宇宙ビジネスにブロックチェーンを取り入れている企業もあります。

 一例として、Bitcoinをはじめとする暗号資産の保存や伝送のための製品やサービスを開発しているBlockstreamは、衛星ネットワークを利用して世界中にBitcoinのブロックチェーンを無料で配信(ブロードキャスト)することで、既存のネットワーク妨害に完璧に対応し、如何なる時にもBitcoinを使えるようにしています[xiii]

 もう一つの例として、2018年に行われた世界最大級のブロックチェーンベンチャー企業であるConsenSys[xiv]による小惑星採掘会社Planetary Resourcesの買収があります。当初、ConsenSysは物理資源をトークン化デジタルデータとしてブロックチェーンデータベース上に記憶することで採掘をサポートすると考えられていましたが、ConsensSysはPlanetary ResourcesのCEOであるChris Lewickiが率いるConsensSys Spaceを子会社として立ち上げ、衛星の軌道位置を監視するブロックチェーンベースのデータベースTruSatの提供を始めました。現在、TruSatはConsensSys Spaceの製品から独立したコミュニティ主導のオープンソースプロジェクトへと変貌しているようです[xv]

 

 ブロックチェーンは、NASAが月周回軌道に建設しようとしている国際的な共同プロジェクト「Gateway」のような大規模な宇宙プロジェクトに役立つ可能性がある、との指摘もあります。ブロックチェーンにより、より迅速かつ効率的に宇宙探査を商業化することができ、宇宙船のトークン化によって、さまざまな主体が宇宙船のさまざまな構成要素を構築できるようになり、NASAやESA(欧州宇宙機関)のような宇宙機関ははるかに透明性と追跡可能性が高く、効率的に物資を調達できるようになることが期待できる[xvi]とのことです。

 

 2019年、ESAが地球観測におけるブロックチェーンの応用に関するホワイトペーパー「Blockchain and Earth Observation : a white paper」を発表しました[xvii]

 ESAは宇宙開発を、① 天文学の時代(Space 1.0)、② アポロ月面着陸へとつながる宇宙大国による宇宙開発競争の時代(Space 2.0)、③ 国際宇宙ステーションによる協力と開発の時代(Space 3.0)と位置づけ、④ (Space 4.0)現在の新たな時代では、少数の宇宙大国の政府の手に委ねられていた宇宙分野に民間企業が進出し、学界、産業界、市民の参加、デジタル化、世界的な交流など、世界中で多様な宇宙関係者が増加している状況に変化しつつある、としています[xviii]。まさに、New Spaceの時代です。ヨーロッパが宇宙分野で世界的な競争力を持つためには、ヨーロッパの宇宙部門は社会と経済の構造と密接に結びつく必要があり、これを実現するためには、宇宙は安全でかつ容易にアクセス可能でなければならず、科学と技術における卓越性の基礎の上に構築されなければならないとしており、ブロックチェーンはこれを実現するための強力な武器となる、とみているようです。

 

 実際、ESAはKSIのブロックチェーン技術を利用して地球観測データセットの完全性と出所を検証し、エンドユーザーのデータセット採用をサポートする方法を実証するための契約をGuardtimeと締結しました[xix]。このGuardtime[xx]は世界最先端の電子国家であるエストニアの企業で、KSIは100%のデータプライバシーを維持しながら、ネットワークやシステム、データが侵害されないようにするために、世界中で利用されているブロックチェーン技術です[xxi]

 

 今後、大規模な宇宙開発やデブリ対策等、様々な局面でブロックチェーンが利用されることが予想されます。これからも、この分野の技術開発に注目したいと思います。

 

 

写真:Pixabay(https://pixabay.com/ja/)から掲載

https://pixabay.com/ja/illustrations/blockchain-3212312/

 

[i] https://www.metzdowd.com/pipermail/cryptography/2008-October/014810.html

[ii] https://bitcoin.org/bitcoin.pdf

[iii] https://bitcoin.org/files/bitcoin-paper/bitcoin_jp.pdf

[iv] https://www.nttdata.com/jp/ja/services/blockchain/002/

[v] https://www.fujitsu.com/jp/group/fri/businesstopics/fintech/definition/

[vi] https://innovation.mufg.jp/detail/id=322

[vii] https://www.reuters.com/article/us-health-insurers-blockchain/aetna-other-health-insurers-team-up-with-ibm-on-blockchain-project-idUSKCN1PI2K0

[viii] https://www.fnn.jp/articles/-/9115

[ix] https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2003/23/news043.html

[x] https://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201810/18-1015/

[xi] https://blogs.microsoft.com/blog/2018/01/22/partnering-for-a-path-to-digital-identity/

[xii] https://www.space.com/blockchain-cryptography-change-space-industry.html

[xiii] https://blockstream.com/satellite/

[xiv] https://consensys.net/

[xv] https://www.geekwire.com/2020/buying-planetary-resources-consensys-gives-away-science-asteroids-will-sell-rest/

https://trusat.org/

[xvi] https://www.space.com/blockchain-cryptography-change-space-industry.html

[xvii] https://eo4society.esa.int/2019/04/09/blockchain-and-earth-observation-a-white-paper/

https://eo4society.esa.int/wp-content/uploads/2019/04/Blockchain-and-Earth-Observation_White-Paper-April-2019.pdf

[xviii] http://www.esa.int/About_Us/Ministerial_Council_2016/What_is_space_4.0

[xix] https://guardtime.com/blog/european-space-agency-selects-guardtime-for-data-provenance

[xx] https://guardtime.com/

[xxi] https://e-estonia.com/solutions/security-and-safety/ksi-blockchain/

2021.10.20
2021.10.19
2021.10.18