コラム

COLUMN

衛星寿命延長ビジネスの動向

衛星の運用寿命は衛星の軌道制御や姿勢制御を行うための燃料が決め手になります。静止衛星などの運用を終了する場合、衛星を運用軌道から離脱(deorbit)させるための燃料を残しておく必要があります。また、一旦、軌道上に打ち上げられた衛星が故障した場合は修理することができないため、事業を継続するためには新たな衛星を打ち上げる必要があります。これに対して、軌道上の衛星の寿命を延長させようとするビジネスが考えられています。今回は、この衛星寿命延長ビジネスについて調べてみました。

 

 2020年8月15日、Arianespaceのギアナ基地からAriane 5によりIntelsatのGalax 30、Northrop Grummanの子会社であるSpaceLogistics LLC.のMEV-2そして日本のB-SAT 4bが打ち上げられました[1]。このMEVはMission Extension Vehicleの略で商標登録もされているようです。MEVは、他の衛星にドッキングして軌道や姿勢の制御を肩代わりするという、Orbital ATKが発案したアイデアです。2018年3月、Orbital ATKはMEVをベースとして燃料切れになった静止衛星のstation keepingを行うMission Robotic VehicleやMission Extension Podsの構想を発表しました[2]。2018年6月、Northrop GrummanがOrbital ATKを買収し、新たなビジネス部門としてNorthrop Grumman Innovation Systemを立ち上げたのです[3]。そして、完全子会社のSpaceLogistics社がMEVのサービス提供、Mission Robotic VehicleやMission Extension Podsの検討、DARPA (Defense Advanced Research Projects Agency)からの委託によるRobotics Servicing of Geosynchronous Satellite(RSGS)のプログラム検討を行っています[4]

 

 読者の皆様はご存じかと思いますが、2019年10月に打ち上げられたMEV-1が2020年2月26日、Intelsat 901とのドッキングに成功しました。軌道上における商用衛星のドッキングとしては初めてのことであり、静止軌道の衛星に寿命延長サービスが提供されることになりました[5]。そして、2020年4月17日、IntelsatはIntelsat 901の軌道傾斜角を1.6度減少させるとともに新たな軌道位置(東経332.5度)に移動してサービスを完全に復活したと発表しました。MEV-1はIntelsat 901に対して衛星廃棄を含む5年間の寿命延長サービスを提供することになっています。冒頭説明した、8月に打ち上げられたMEV-2は2021年早々、Intelsat 1002とドッキングする予定です[6]

 

 先に、SpaceLogistics社がDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)のRobotics Servicing of Geosynchronous Satellite(RSGS)の検討を行っていると述べました。DARPAは、MEVのようにドッキングして相手の軌道位置を変更するような技術の他に、以下のような軌道上サービスを検討しています[7]

・燃料などの消耗品の補充

・破損個所の修理

・ダメージが把握できる詳細な検査

・SSA(Space Situational Awareness:宇宙状況把握)などの新機能をサポートするアイテムのインストール

 このうち、軌道上での燃料補給サービスについては、2016年7月に中国国防科技大学が設計・開発し、長征7号ロケットによって打ち上げられた衛星「天源1号」軌道上燃料補給実験装置が、微小重力条件下における流体管理と注入、高精度推進剤測量などの軌道上実験を完了し、中国初の軌道上における衛星への燃料補給実験が成功したと科技日報が伝えました。その中で、衛星の軌道上燃料補給は、航空機の空中給油と似通っており、直接輸送という手段で衛星にガスや液体を補給することで、その軌道上での耐用年数を大幅に延長し、機動力を高めることができると述べています[8]。しかし、はたしてそうでしょうか。ちょっと疑問です。

 日本でも株式会社IHIエアロスペースが、軌道上の人工衛星への推進薬補給や部品交換サービス・ビジネスの検討について発表しています[9]。それによると、サービス実現のためには次の技術が必要であるとしています。

(1)ランデブー/ドッキング機能

 二つの衛星間の相対位置、飛行速度のズレを吸収するために相手の位置、速度をセンサーで検知しそれに応じた機構の位置や角度の調整、および接触時の荷重の吸収技術

(2)ロボットアーム機能

 衛星の熱制御材のカット、推進薬注入ポートのキャップ外し、推進薬補給ラインの接続・バルブ操作などの細かな作業を行うロボットアームの実現

(3)推進薬補給機能

 複数の衛星に対して推進薬を補給するために十分な量の推進薬を軌道上に運ぶための大型タンクや、ドッキング後に相手側衛星の推進薬タンクの内圧に抗して推進薬を注入し同時に許容圧力を超えない範囲で加圧するための圧力の微調整技術

 確かに航空機の空中給油と似通ってはいるのでしょうが、はるかに高度な技術が必要になるのではないかと思われます。

 

 軌道上での燃料補給といえば、昨年(2019年)、米国のスタートアップOrbit Fabの300万ドル(約3億2000万円)のシードラウンドがType 1 VenturesやTechStarsなどの出資によりクローズしました[10]。このOrbit Fabは、国際宇宙ステーションに水を供給した最初のスタートアップで、2020年3月、The National Science Foundation(NSF:アメリカ国立科学財団)の補助金プログラムであるAmerica’s Seed Fundから、衛星に燃料を補給することができるドッキングシステムをテストするための補助金25万ドルを受領したと発表しました。Orbit Fabの燃料補給システムは、国際宇宙ステーションでの流体移送技術の試験や宇宙空間での燃料補給を可能にする衛星の充填/排出バルブの代替品検討など、これまでの研究を基礎としています。

 MEVによるIntelsat 901衛星とのドッキング成功やOrbit Fabの燃料補給技術などにより、軌道上衛星サービスの認知度が向上したと指摘されています[11]

 

 衛星寿命延長サービスは、衛星ビジネス分野のコスト削減に非常に有効なものであると言えます。今後、様々な種類の衛星に対応できるように、ドッキング方法や燃料供給に関する標準化の議論も行われると思われますので、継続して注視する必要があると考えています。

 

 

写真はRSGS:Northrop GrummanのNewsroomから掲載

https://news.northropgrumman.com/news/releases/northrop-grummans-wholly-owned-subsidiary-spacelogistics-selected-by-darpa-as-commercial-partner-for-robotic-servicing-mission

 

 

[1] Arianespace:https://www.arianespace.com/mission-update/va253-ariane-5-success/

[2] Space News:https://spacenews.com/orbital-atk-unveils-new-version-of-satellite-servicing-vehicle/

[3] Northrop Grumman:https://news.northropgrumman.com/news/releases/northrop-grumman-completes-orbital-atk-acquisition-blake-larson-elected-to-lead-new-innovation-systems-sector

[4] Northrop Grumman:https://www.northropgrumman.com/space/mission-extension-vehicle/

[5] Northrop Grumman:https://news.northropgrumman.com/news/releases/northrop-grumman-successfully-completes-historic-first-docking-of-mission-extension-vehicle-with-intelsat-901-satellite

[6] Northrop Grumman:https://news.northropgrumman.com/news/releases/intelsat-901-satellite-returns-to-service-using-northrop-grummans-mission-extension-vehicle

[7] DARPA「Strengthening the Resiliency of US Satellites in GEO Through On-Orbit Servicing」:http://www.jsforum.or.jp/stableuse/2019/pdf/23_2019-02-28_RSGS_Case_30706-Master_Tokyo_Brief_FINAL_with_Movies.pdf

[8] 人民網日本語版(2016年07月01日):http://j.people.com.cn/n3/2016/0701/c95952-9080330.html

[9] IHIエアロスペース「人工衛星へ軌道上補給」:https://www.ihi.co.jp/var/ezwebin_site/storage/original/application/c7eb0d6e4d10e29a0ad28f753ee8efd4.pdf

[10] Tech Crunch:https://jp.techcrunch.com/2019/10/05/2019-10-03-orbit-fab-gas-stations-in-space-seed-funding/

[11] Space News:https://spacenews.com/orbit-fab-gets-award-to-test-satellite-refueling-technology/

2021.1.18
2021.1.12
2020.12.21