コラム

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SAR画像の利用が本格化~ICEYEとCapella Spaceのビジネスを考える~

天候や昼夜を問わず宇宙から地球を観測することができるSARSynthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)センサーを搭載する衛星の小型化が進んでいます。コンステレーション化による準リアルタイムの構想など、SAR衛星ビジネスについて解説します。

 

 2020年10月、米国のCapella Spaceは、商用画像プラットフォームであるSequoia(セコイア)レーダーリモートセンシング衛星からの最初の画像を公開しました。2020年8月に打ち上げられたSequoiaは、36機の小型レーダー観測衛星コンステレーションの初号機です。2018年、Capella SpaceはDenaliと名付けられた試験衛星を打ち上げていましたが、画像が公開されることはありませんでした[i]

 重量、約100㎏のSequoia衛星は2020年8月30日、ニュージーランドのRocket Lab Electron射場から打ち上げられた後、直径約3.5mのレーダーアンテナを展開し、画像の取得を開始しました。Capella Spaceは、Sequoiaが取得した画像は米国として初めての商業用SAR画像であるとしており、ホームページ上で解像度2mのStrip Modeで取得したドバイのPalm Jumeirah、エルサルバドルのSanta Ana火山、インドのSundarban国立公園の画像を公開しています。ドバイのPalm Jumeirahの画像では、高いビルのバルコニー、ドックに係留されている船、船の航跡や海面の波などを見ることができ、商用および政府機関向けの様々なアプリケーションに使用できるとしています[ii]

 

 読者の皆さんは既にご承知のことと思いますが、米国のPlanet Labsは約150機の光学衛星により常時地球を観測できる体制を整えています。同じく米国のBlackSkyも小型光学衛星のコンステレーションを構築しようとしています。

 光学衛星と異なり、SAR衛星は昼夜を問わず、あらゆる気象条件の下で画像データを取得することができますが、取得された画像は、通常、光学画像よりも高価で、利用することが難しいとされていました。これまでのSAR衛星としては、ドイツのTerraSAR-X/TanDEM-X、ESAのSentinel、そして日本のALOS‐2などがありますが、いずれも重量が1,000kg以上の大型衛星でした。近年の衛星技術の発展で衛星の小型化が容易になったことや、クラウド上での画像処理サービスの拡大などにより、SAR画像を利用する環境が整備されつつあることに伴い、光学画像を補完したり、さらに新たなアプリケーションでの利用可能性を求めてSAR画像の利用が本格化してきたと言えるのではないでしょうか。

 

 SAR画像を専門に扱う地理空間分析企業であるUrsa Space Systemsは、BlackSky衛星が取得する光学画像や多数のSpireのCubesatが取得する船舶追跡データとSAR画像を組み合わせることで、より複雑な海洋向けの製品を提供しています。このように、UrsaはSAR画像を他のデータと組み合わせることで、さまざまな業界の顧客に販売しようとしているのです。

 また、デジタル農業技術プラットフォームを提供している米国のClimate Corporationが2019年に処理した6億枚の衛星画像のほとんどは光学画像ですが、同社のサービスであるFieldViewの製品ラインにSAR画像を取り入れることで、ブラジル、インドネシア、ニジェール・デルタなどの雲が多い地域の光学衛星画像の補完として利用することを検討しているとのことです[iii]

 筆者はこれこそが宇宙ビジネスを成功させるキーだと考えています。詳しくは別の機会に述べたいと思いますが、衛星を経由した通信、宇宙から得られる観測データや測位データは、地上設備をはじめとする様々なシステムと連携することで、力を発揮することができます。よく言われる『宇宙×ABC』です。宇宙をABCの分野で利用するにはABC特有のデータと宇宙から得られるデータを掛け合わせる、あるいは、ABCデータを取得するためのシステムが宇宙システムと連携することなどが考えられます。「ABC=宇宙」であっても構いません。その一例が、光学画像とSAR画像の組み合わせです。

 

 済みません。話がそれてしまいました。

 Capella Spaceは、36機のコンステレーションにより1時間間隔での撮影を目指していますが、設計寿命3年の衛星を年間12機打ち上げることで、コンステレーションの能力を維持するようです[iv]

 小型衛星によるSARビジネスを計画しているCapella Space以外のスタートアップ企業は、米国のTerran Orbitalの子会社であるPredaSARやUmbra Lab, Inc.、そして日本のiQPS Inc.やSynspectiveなどが挙げられますが、商用画像を提供するまでには至っていません。

 

 そのような中で、小型SARビジネスの先頭を走っているのが有名なフィンランドのICEYEです。Aalto大学Radio Science & Engineering学部のAalto-1ナノ衛星プロジェクトからのスピンオフで2014年に設立されたICEYEは、2018年にXバンドのSARセンサーを搭載した小型の試験衛星ICEYE-X1を打ち上げ、軌道上での実証や特定ユーザへの画像提供を行ってきました。さらに同年、ICEYE-X2を、2019年にはX3、X4、X5を打ち上げ、現在X2、X4、X5の3機で商用画像の提供を行っており[v]、将来は18機以上でのコンステレーション化を目指しています。

 ちょっと気になるのは、X1とX2は推進系(Propulsion)を搭載していない重量80㎏程度の衛星なのですが、X3は推進系を搭載しソーラセルも大型化した150㎏の衛星となっていることです[vi]。X4、X5も重量は80㎏程度なので推進系を搭載しているとは考えられません。実は、このX3は米国国防総省(United States Department of Defense:DoD)が軍事衛星を軌道へ迅速に到達させるための打ち上げサービスを民間企業から調達するSTP-27RD(Space Test Program-27 Research & Development of DoD)プログラムの一部なのです。このミッションはHarbinger小型衛星ミッションと呼ばれ、XバンドSAR機器や、地上のユーザにレーダー画像を送信する高速データ通信リンクなどの技術実証用ペイロードが搭載されています。ICEYEの他に、高速データ通信リンクを担当する米国のBridgesatや電気推進を担当するオーストリアのEnpulsionが参加しています[vii]

 

 2020年5月のSpaceNewsの記事によると、ICEYEは同一地点の複数のSAR画像を比較することで、ミリメータ単位の垂直方向の差分を検出する干渉(Interferometry)SAR(InSAR)の実証を行っており、これまでTerraSAR-X/TanDEM-Xなどの大型衛星でしか測定できなかった地盤沈下、地下探査、地震などによって発生する微小な地殻変動を小型衛星で検出可能にできるとのことです[viii]。InSARを行うためには、干渉を測定するタイミング合わせや軌道決定を正確に実施する必要があり、例えば、SENTINEL‐1の軌道は、公称運用軌道の周囲半径50m(RMS)幅の「管」で定義される範囲で維持されています[ix]。ICEYEがInSAR実証をできたのはEnpulsionの電気推進のお陰というところでしょう。小型衛星でのInSAR実現は、SAR画像ビジネスの市場拡大・本格利用に大きな一石を投じるはずです。日本のSynspectiveも、2021年にはInSAR機能を実装した実証衛星を打ち上げる予定です[x]

 

 さて、最初にSAR画像の処理は光学画像よりも難しいと述べましたが、SAR画像が本格的に利用されるためには、SAR画像へのアクセスは勿論のこと、画像データを処理するための分析ツールにAPIを介してユーザが容易にアクセスできることが必要となるでしょう。

 さらに、商用画像の需要が増えると言っても、国や行政機関が重要な顧客になることは疑う余地がありません。

 現に、National Geospatial-Intelligence Agency(NGA:米国地理空間情報局)は商用SARの現状を把握するための調査を実施し、商用SARは米国の地理空間情報のニーズを十分満たすとの結論に達しています。また、欧州連合の海上安全機関であるEMSA(European Maritime Safety Agency)も、SARデータの必要性が高まっていると考えており、特にCopernicus(コペルニクス)海上監視プログラムでは、法執行、漁業管理、汚染監視などのために広域の海上を監視できるSAR画像を加盟国政府に提供しています。

 このように、SAR画像に対する民間市場の拡大が期待される一方、国や政府の安定的な需要維持や需要拡大がSARの本格利用を推し進めるエンジンになるものと思われます。

 

 

写真はICEYE衛星:ICEYEホームページから掲載

https://www.iceye.com/press/media-assets

 

[i] Spaceflight Now:https://spaceflightnow.com/2020/10/09/radar-imagery-released-from-capellas-sequoia-satellite/

[ii] Capella Space:https://www.capellaspace.com/americas-first-commercial-sar/

[iii] Space News:https://spacenews.com/synthetic-aperture-radar-finally-shedding-its-mystique/

[iv] eoPortal Directory:https://directory.eoportal.org/web/eoportal/satellite-missions/c-missions/capella-x-sar

[v] ESA:https://earth.esa.int/eogateway/missions/iceye

[vi] Gunter's Space Page:https://space.skyrocket.de/doc_sdat/iceye-x1.htm

[vii] eoPortal Directory:https://directory.eoportal.org/web/eoportal/satellite-missions/s/stp-27rd

[viii]  Space News:https://spacenews.com/iceye-to-offer-interferometry-with-small-radar-satellites/

[ix] ESA:https://sentinel.esa.int/web/sentinel/missions/sentinel-1/satellite-description/orbit

[x] Synspective:https://synspective.com/jp/satellite-strix/

2021.1.18
2021.1.12
2020.12.21