コラム

COLUMN

宇宙保険とLEOコンステレーション

民間企業が衛星ビジネスを行う際、必ずしも成功確率が100%ではないロケットの打ち上げや、修理が不可能な軌道上で運用中の衛星に対して、打ち上げ失敗や機器故障を想定した保険(宇宙保険)を付保することが常識でした。近年、デブリによる損傷や他衛星との衝突の危険性が指摘されていますが、今後、数千、いや数万という数の低軌道衛星が運用されるようになった時、宇宙保険はどうなるのでしょう。今回はこれについて考えてみます。

 

 毎年3月、衛星ビジネスに関する大規模な展示会とカンファレンスが併設される「Satellite xxxx」(xxxxは開催年)がワシントンD.C.で開催されます。Satellite2020は3月9日から12日の期間で開催されました。そのSatellite 2020の会場で、ロケット打ち上げから静止軌道上で運用する衛星、低軌道からの軌道遷移、国際宇宙ステーションに至るまで幅広い宇宙ミッションに対する保険を扱うAssure Spaceの社長Richard Parker氏は、「Assure Spaceは今年から、低軌道で運用する衛星の衝突リスクをカバーする保険の提供をやめた。」と述べました[1]。さらに「衝突回避やデブリ低減について議論はされているものの何の進展も見られない。最終的には、衛星の衝突や、衝突によって生じるデブリが原因で全ての保険市場が低軌道から引き上げることになるだろう。Assure Spaceは1、2年ほど前倒ししただけである。」と述べました。

 

 筆者も静止衛星に係る宇宙保険を調達した経験がありますが、最も一般的な人工衛星の保険としては、次のようなものがあります。

① 打上げ保険(打上げ保険+1年間程度の軌道上保険)

付保期間がロケット打ち上げの瞬間からIOT(In Orbit Test:軌道上試験)を経て1年間の運用期間中

② 軌道上保険

軌道上で運用中の衛星に対する保険で付保期間は1年程度。都度更新。

 

 打ち上げに伴うリスクが考慮される①の保険料率は、1990年代の半ば頃15~20%で推移し、2003年には20%を超えました。2005年より料率の引下げ傾向が続き、2010年代には料率が10%を下回るケースが多くなりました[2]。さらに、宇宙保険市場のキャパシティ増加に伴って2018年には5%まで低下しましたが、2019年前半には料率がフラット化し、2019年夏以降は上昇に向かっているようで、2009年あるいは2010年頃の料率だった10%程度で落ち着くのでないかとの推測があります[3]

 

 さて、冒頭のAssure Spaceの社長Richard Parker氏の発言に話を戻します。

 2009年2月10日16時55分(UTC)、1993年に打ち上げられた後に運用を終了していたロシアの衛星Cosmos 2251と1997年に打ち上げられて運用中だったイリジウム衛星がシベリア上空の高度490マイル(790km)で衝突しました。これは、米国防総省の宇宙監視ネットワークで観測された宇宙空間で偶発的に発生した初めての人工衛星同士の衝突事故でした。この衝突により、中国が2007年に衛星破壊実験として実施した老朽化した気象衛星の破壊以来、最悪レベルのスペースデブリが発生したと思われます[4]

 さらに、2019年9月、ESAは地球科学衛星AeolusがSpace XのStarlink衛星44に接近する可能性を回避するためにマヌーバーを実施したと発表しました[5]

 運用を終了した衛星が運用中の衛星に接近し衝突する危険性がないか、世界の衛星事業者は日頃の運用の中で常に注意を払っています。AeolusとStarlinkは、双方ともに運用中の衛星であり、事前に余裕をもって接近の危険性を検知できたはずですが、何故このような緊急回避を行う必要があったのでしょう。SpaceX側は「8月28日に両衛星が接近する可能性があると認識し、ESAと連絡を取っていたが、その時点では、衝突の確率は5万分の1程度でマヌーバーを必要とする閾値を下回っていた。その後、米空軍のデータを精緻化した結果、接近確率が1,000分の1にまで増加したが、当社のon-call paging system(緊急通報システム)にバグがあったために、Starlinkの運用者は確率の増加に対する対応がとれなかった。」とのことです。

 緊急通報システムという基本機能の故障により、大事故が発生する可能性があったのです。このような運用上の問題がある限り、保険会社としても安易に低軌道衛星の衝突に対応する保険を引き受けることはできないと思われます。

 

 現在、公海、公海上空、国際河川等のすべての国際領域において、通航に当たってのルールがあります。今後、宇宙においても同様のルールを確立するため、国際的な宇宙交通管理(STM:Space Traffic Management)の必要性や、運用者同士の状況確認がEメールで行われているといった状況を打破するための共通的な通信プロトコルの構築に関する議論が高まると思います。

 ESAは2023年までに自動マヌーバー調整の実証を行いたいと述べています。また、SpaceXも衝突を回避するための自律システムの利用を計画中のようで、Elon Musk氏が「Starlinkはデブリを避けるために、NORAD(North American Aerospace Defense Command:北アメリカ航空宇宙防衛司令部)が追跡しているあらゆるものを自動的に回避する。」と述べていますが、実際どのような運用を行っているか現時点では把握できていません。

 いずれにしろ、ESAやSpaceXが計画するような衝突を自動的に回避できるシステムが実現しないと、宇宙保険が付保できない状況が続きそうです。このような状況では、新たに宇宙に参入しようとする事業者も安心した事業展開ができないと思います。一刻も早い実現が望まれます。

 

 

写真はSpace Newsから掲載:CreditはEuropean Space Research and Technology Centre

https://spacenews.com/assure-space-leaves-leo/

 

 

[1] Space News:https://spacenews.com/assure-space-leaves-leo/

[2] 内閣府資料(三井住友海上⽕災保険株式会社):https://www8.cao.go.jp/space/comittee/yusou-dai1/siryou6-3.pdf

[3] Space News:https://spacenews.com/space-insurance-rates-increasing-as-insurers-review-their-place-in-the-market/

[4] Space.com:https://www.space.com/5542-satellite-destroyed-space-collision.html

[5] Space News:https://spacenews.com/esa-spacecraft-dodges-potential-collision-with-starlink-satellite/

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