コラム

COLUMN

JAXAの光データ中継衛星とCapella・Inmarsatのデータ中継

20201129日、JAXAが開発した衛星間のデータ中継を光通信で実現するLUCAS(光衛星間通信システム)がH2A43号機で打ち上げられました。静止衛星と低軌道衛星の両方に光通信用の送受信機を搭載し衛星間通信を行います。一方、リモートセンシング画像の提供を行うCapella Spaceは、商用の移動体通信衛星であるInmarsatを介したデータ通信を行ったとの報道がありました。今回はデータ中継衛星に着目します。

 

 

 2020年11月29日、JAXAは低軌道位置の地球観測衛星と静止軌道位置のデータ中継衛星間の通信を、波長1.5µmのレーザ光を用いた光通信で実現するシステムである「光衛星間通信システムLUCAS(Laser Utilizing Communication System)」をH2A43号機で打ち上げました。

 JAXAは2002年9月10日、データ中継技術衛星(DRTS:Data Relay Test Satellite)として「こだま」を打ち上げました。「こだま」は、従来から宇宙通信に広く用いられてきた周波数であるSバンド(2GHz帯)や、Kaバンド(20~30GHz帯)を用いて、240Mbpsの伝送速度で衛星間データ通信を行うことが可能でした。さらに、「こだま」は欧州宇宙機関(ESA)の地球観測衛星「Envisat」が観測したデータの中継実験に成功するなど多くの成果を挙げて、2017年運用を終了しました[i]。「こだま」では、240Mbpsの伝送速度を実現するために、直径3.6mの通信アンテナが必要でしたが、今回のLUCASの伝送速度は低軌道を飛行するユーザ衛星から光データ中継衛星向けのリターンリンクで「こだま」の7倍以上の1.8Gbpsに高速化され、アンテナ径は14cmと約1/30と大幅に小型化されました。光データ中継衛星からユーザ衛星向けのフォワードリンクの伝送速度は50Mbpsとなっています[ii]

 

 国際宇宙ステーションや地球観測衛星など、中低高度の地球周回軌道を飛行する宇宙機が地上局と直接通信を行う場合は、それらの宇宙機が地上局から見える範囲を飛行している必要があります。たとえば高度700kmの軌道を飛行する宇宙機では、ある地上局と通信が可能な時間である可視時間は10分間程度であり、宇宙機と連続して通信しようとする場合は、世界各地に多数の地上局を設置する必要があります。しかし静止軌道上にデータ中継衛星を配置して、低軌道を飛行する宇宙機との通信を中継することにより、通信可能範囲の拡大を図ることができます。このためLUCASは、ALOS-3、ALOS-4などの将来の地球観測衛星のデータ伝送の大容量化、即時性要求に対するソリューションとして多大な期待が寄せられています。

 同時にこの衛星は、内閣衛星情報センターがデータ中継衛星1号機として運用し、情報収集衛星が観測したデータを中継し地上局に素早く送り届ける役割も担います[iii]

 

 データ中継衛星は、NASAが1970年代の初頭にTDRS(Tracking and Data Relay Satellite)として開始しました。最新のTDRSは第3世代のもので、2013年に打ち上げられたTDRS-K(TDRS-11)、2014年打ち上げのTDRS-L(TDRS-12)、そして2017年に打ち上げられたTDRS-M(TDRS-13)の3機をはじめとして、旧世代のTDRSを含めた衛星でバックアップ体制を構築し、ほぼ地球全域をカバーしています[iv]

 米国や日本以外でもデータ中継衛星の運用は行われており、例えば欧州のESAはARTEMIS(Advanced Relay and Technology Mission)を、中国は「天鏈2号」[v]を、ロシアはLuchシリーズを運用しています[vi]

 

 一方、11月23日、グローバルな衛星通信事業を展開するInmarsatが、シンガポールに本社を置く衛星通信を中心とする無線装置のベンダーであるAddvalue Innovationと共に5年間をかけて開発したInter-satellite Data Relay System (IDRS)サービスを、米国のリモートセンシング衛星ビジネス企業のCapella SpaceのSAR衛星であるSequoiaと同社の制御局との間でのライブデータ伝送を行うことで実証した、と発表しました[vii]。このニュースはSpace Newsでも取り上げられています[viii]。Inmarsatは4機の静止衛星を介して電話やデータ通信およびインターネット接続などを提供しており、船舶、通信設備のない山奥や被災地に対する通信環境の構築など、極地を除く全世界で衛星通信サービスを行っており日本では主にKDDIが法人向けに提供しています。

 Capella Spaceは、「静止軌道上のInmarsat-4を介したIDRSでSequoiaに作業指令(tasking orders)を送ることで、世界で初めてリアルタイム作業のために静止衛星を使用した民間SAR企業となることができ、配信時間が短縮されることで、より実用的な情報を宇宙から入手できるようになる。」と述べています。

 

 政府機関や企業などのレーダー画像やデータの顧客は、地球観測の作業指令(tasking orders)が遅れているとの不満を持っており、SARコンステレーションはIDRSの有望なアプリケーションとなると期待されています。

 Inmarsat Global GovernmentのTodd McDonell氏は、「Capella SpaceのようなLEOオペレーターにとって、顧客が期待するタイムリーなサービスを提供する能力は非常に重要である。Inmarsatの衛星ネットワークは、移動性(移動体向け)を考慮して設計しており、グローバルにシームレスなリアルタイム通信を可能にするよう構成している。」と述べています。

 

 Inmarsatのデータ伝送速度は500kbps程度であるため、リモートセンシング衛星が撮影した画像データを中継することは難しいと思われますが、低軌道上に配置された衛星コンステレーションに対して効率よく作業指示や制御ができれば、自然災害時の人命救助活動などの緊急事態に対処するための衛星資源を適切に配分することが可能になるかもしれません。高速のデータ伝送が可能なデータ中継専用の静止衛星に加えて、商業通信衛星もデータ中継に利用されることで低軌道衛星のコンステレーション化がますます活発になると考えられます。

 

 

写真はH2A43号打ち上げ:日本経済新聞Web版(三菱重工提供)から転載

(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66783030Z21C20A1000000)

 

[i] JAXA:https://www.satnavi.jaxa.jp/project/drts/

[ii] JAXA:https://www.satnavi.jaxa.jp/project/lucas/

[iii] Myナビニュース:https://news.mynavi.jp/article/20201129-1542223/

[iv] NASA:https://www.nasa.gov/directorates/heo/scan/services/networks/tdrs_main

[v] https://spc.jst.go.jp/news/190401/topic_2_04.html

[vi] http://www.russianspaceweb.com/luch5a.html

[vii] Inmarsat:https://www.inmarsat.com/press-release/world-first-as-new-real-time-link-between-satellites-promises-quicker-delivery-of-data-and-imagery-across-the-globe/

[viii] Space News:https://spacenews.com/capella-sends-first-task-order-through-inmarsat-data-relay/

 
 
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