コラム

COLUMN

衛星デジタルラジオってご存じですか?

Space XSiriusXMの衛星SXM-7Falcon 9で打ち上げました。SiriusXMは衛星ラジオサービスを提供する米国の会社です。衛星放送と異なり、衛星ラジオについてはあまり馴染みがないと思います。今回はこの衛星デジタルラジオについて解説します。

 

 

 2020年12月13日、Space Xが米国の衛星ラジオサービスを提供するSiriusXM社(SiriusXM)のSXM-7衛星を打ち上げました(SpaceX launches SiriusXM satellite)。SXM-7は、2016年にSiriusXM社がSpace Systems Loral(現在、Maxar Technologiesにより買収)に発注した新しいデジタル音声ラジオサービス用の衛星で、打ち上げ時の重量は約7,000kg、発生電力20kW以上、大型アンテナを搭載しており、北米やカリブ海地域のSiriusXM加入者に番組を放送します。SXM-7は、2005年に打ち上げられ、西経85度の静止軌道で運用中のXM-3の代替となります。さらにSXM-7と同時に発注されたSXM-8が2021年に打ち上げられ、西経115度で運用中のXM-4を代替する予定です。

 

 SiriusXMは、米国で衛星経由での音楽や娯楽などのラジオコンテンツ配信を行っていたSirius Satellite RadioとXM Satellite Radioの二つの衛星ラジオ企業が、2008年7月に合併して誕生した会社です(zdnet.comの記事)。以来、微増ではありますが加入者数は増加し、2020年第3四半期には約3,400万加入を数えています(Number of SiriusXM Subscribers)。視聴できるチャネル数は契約形態で異なりますが、少なくとも130チャネル以上の音楽、スポーツ、コメディー、娯楽等のチャネルが携帯デバイスで視聴できます(FAQ)。

 同じような衛星デジタルラジオサービスが日本でも提供されていることを御存じでしょうか。ちょっと複雑になりますが、日本におけるデジタル放送は大きく次のように分類されます。

(1)地上波によるテレビ・音声放送

 ISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting–Terrestrial)という日本方式の規格で放送されています。

(2)衛星によるテレビ放送

 ISDB-S(Integrated Services Digital Broadcasting–Satellite)という日本方式の規格で放送されていますが、4Kや8Kに対応できるよう、新たな放送方式の開発も行われています(4K8K衛星放送)。

(3)衛星による音声放送

 衛星による音声放送には放送衛星(BS:Broadcasting Satellite)を利用するものと通信衛星(CS:Communication Satellite)を利用するものがあります。

 以下、この衛星による音声放送の状況と、かつて衛星による音声放送を計画したモバイル放送(モバHO!)のちょっと悲しい歴史をご紹介します。

 現在、BSを利用したデジタルラジオ放送は放送大学(放送大学)しかありません。かつてはB‐SAT(株式会社放送衛星システム)が運用するBSAT‐2a/2bを利用した音声放送が行われていましたが、事業採算性や放送に関する基本計画の変更により全て撤退してしまったのです。

 

 一方、CSを利用したデジタル音声ラジオは数こそ少ないものの次のようなサービスが提供されています。

 

SPACE DIVA

 株式会社ミュージックバード(MUSIC Bird)が運営する衛星デジタル音楽放送です。クラシック専門チャンネル、ジャズ専門チャンネル、歌謡・演歌、イージーリスニング、J-POP、ROCKなどジャンル別の約200の音楽チャンネルがあります。

 

SOUND PLANET

 株式会社USENが運用する衛星デジタル音声放送サービスです。法人向けのSOUND PLANET(SOUND PLANET)と個人向けのmusic Air bee(music air bee)があり、500チャンネル以上の番組が提供されています。

 

スターデジオ

 株式会社第一興商が提供する個人向けの音楽専門ラジオであり、「スカパー!プレミアムサービス」として100チャンネルの番組が視聴できる衛星デジタル音声放送サービスです(スターデジオ)。

 

 以上が、現在サービスが行われている衛星デジタルラジオですが、1998年、東芝が中心となって移動体向け多チャンネル・マルチメディア全国放送サービスの実現を目指して「モバイル放送株式会社」を設立しました。

 これは、既存のCS・BS放送と異なり、全国どこででも、高速で移動しながら受信ができる全く新しい放送サービスを、Sバンド(2.6GHz帯)衛星を利用して自動車を中心とした移動体を対象に、高音質の音楽、画像、データを組み合わせたマルチメディア放送を提供しようとするものでした(モバイル放送の設立)。2003年5月には、SKテレコム、トヨタ、NTTデータ、日本テレビ、三井住友海上火災、富士通など71社が株主として参加するほどの大きなプロジェクトでした。さらに、2004年3月13日、米国フロリダ州ケープカナベラル空軍基地からSS/L(スペースシステムズ/ロラール、現在のMaxar Technologies)に発注したMBSATを打ち上げました。この衛星は大形展開アンテナとSバンド高出力中継器を搭載した韓国SK Telecom社との共同保有の静止放送衛星でした。

 ところが、MBSATからのSバンド放送波が受信できないビル陰やトンネルなどのエリアへ衛星波を中継し再送信するためのギャップフィラー(GF)装置を全国に設置し、受信エリアの拡大と受信品質の向上を目指した(モバイル放送用 衛星システムとギャップフィラー)ために、膨大な費用が必要になりました。筆者も、全国にGFを設置するなら衛星は不要なのではないかと心配した記憶があります。携帯ワンセグ計画などの影響もあり、2008年7月、東芝は2009年度末にモバイル放送株式会社の事業を終了することを発表しました(モバイル放送株式会社の放送事業終了)。発表では、「モバイル放送株式会社は、創業以来、移動体向けデジタルマルチメディア放送事業の拡大のため、より多くの方にサービスを提供できるように努めてきましたが、十分な会員数獲得に至らず、事業の継続が困難な状況と判断し、当該事業の終了を決定したものです。」と述べています。当時、NTTドコモはモバイル放送が「モバHO!」として提供していた音楽・音声チャンネルを受信可能な携帯電話を販売していたのですが、この端末による「モバHO!」受信ができなくなる旨の発表を行いました(「モバHO!」サービスの終了)。

 日本でのサービスが終了した後もMBSATは韓国向けにサービスを提供していましたが、これも2012年8月末でサービスが終了し、その後Asia Broadcast Satellite(現在のABS)に売却されました。

 

 昔話が長くなってしまいました。従来、通信衛星や放送衛星は地上系サービスとの品質および価格面での競争にさらされてきました。衛星を利用するサービスではどんな衛星を利用しようともある程度の不感地帯が存在します。モバイル放送はこの不感地帯をゼロにしようと試みたのですが、これには多額の費用が必要になります。このため、必然的に地上システムに価格で負けてしまいます。不感地帯の解消は衛星サービスの開発者にとって大きな課題でした。筆者は、静止軌道より地球に近い軌道の衛星によって提供されるサービスの中で、地上システムで提供できないものはない、と考えています。通信、放送、測位、リモートセンシング、例外はありません。宇宙を利用するサービスは宇宙システムだけで何かを実現するのではなく、地上系のサービスとうまく連携することが必要だと考えます。宇宙を利用(併用)することで何かが効率的になる、あるいは便利になるといった付加価値が加わることが重要なことである。このことを、過去の経験が教えてくれているように思えてなりません。

 

 

写真はSXM-7の打ち上げ:SiriusXMホームページより掲載(SXM-7

 
 
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