コラム

COLUMN

SpaceXのStarlinkメガコンステレーションを巡る論争

衛星通信装置や衛星通信サービスを提供するViasatが、SpaceXが構築を進めるStarlinkの運用軌道に関するFCCへの申請に対してクレームを申し立てています。Starlinkの申請内容とViasatのクレームなどからメガコンステレーションを取り巻く現状について考えたいと思います。

 

 10,000機以上に及ぶ低軌道の小型通信衛星からなるメガコンステレーションによるブロードバンドネットワークの構築、皆さまよくご存じのSpaceXが推進しているStarlink計画です。2018年2月のStarlink実証衛星打ち上げ(Elon Musk)からわずか3年、2020年末時点で、SpaceXは既に1,000機近い衛星を軌道に投入しています。

 2016年頃、SpaceXは既にFCCに対して、1,110~1,325kmの高度でKuバンド及びKaバンドを利用する4,425機の非静止衛星を運用するためのライセンスを申請していました(Space X Attachment)。次いで2017年3月には、40~60GHz帯の周波数であるVバンドを利用する7,518機のコンステレーションを高度335~346mの軌道で構築する計画を提出していました(SpaceX Vband)。

 2018年3月、FCCは4,425機の非静止衛星運用に関する申請を認可しましたが、SpaceXはこのうちの1,584機について、運用軌道高度を1,150kmから550kmに修正する案を提出していました(FCC Report)。FCCは、2018年10月にはVバンドに関する計画について承認しています(FCC Vband)。さらに2019年4月、FCCは1,584機の衛星の高度を1,150kmから550kmに修正することを承認したのです(FCC Report)。

 現在、SpaceXが打ち上げている衛星は1,150kmから550kmへの高度修正に基づくものと思われます。

 そして、FCCはSpaceXの要望に基づき、30,000機分の周波数割当の申請をITUに行っているのです(SpaceX submits paperwork for 30,000 more Starlink satellites)。具体的には、1,500機毎に20の申請が行われており、軌道高度は328~614kmで、85%以上の衛星が400km以下の軌道に配置されるようです(GEN2 NGSO)。

 

 前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

 

 2020年4月、SpaceX社はFCCに対し、同社が最初に申請した約4,400機の衛星すべてについて、当初申請した約1,200kmの高度よりも低い軌道への変更申請を行ったのです。前述したように、2019年4月、FCCは1,584機の衛星について1,150kmから550kmの高度に修正することを承認しましたが、SpaceXは残りの約2,800機の衛星についても540kmから570kmの間で運用することを許可するよう求めたのです。

 

 Starlink衛星は軌道や姿勢を制御するための推進システムとしてクリプトンを燃料とするイオンスラスターを搭載しており、寿命末期にはこの推進システムを利用して軌道から離脱し、大気圏に再突入します。

 衛星の軌道制御を行うための推進システムを搭載していない衛星を運用している事業者や天文学者は、これまでのSpaceXの軌道変更申請や運用衛星数の増加申請に対して反対していました。

 この反対に対してSpaceXは、

・Starlink衛星はデブリや他の衛星との衝突を避けるために迅速なマヌーバーを実施する

・低軌道は地球の影になる時間が多くなり天文学者にとっては有利である

としています。SpaceX社は、ダークコーティングを施したDarkSat衛星により反射率を下げているのですが、天文学者は懸念を抱いているようです(SpaceX seeks FCC permission for operating all first-gen Starlink in lower orbit)。

 

 

 2020年12月のSpace Newsによるとグローバルに衛星通信ネットワークや衛星通信機器を提供するViasat(viasat.com)は、Starlinkが宇宙と地球の環境に対して危険をもたらすとして、FCCに対して環境レビューを行うよう請願したというのです(Viasat asks FCC to perform environmental review of Starlink)。以下、同記事を基にまとめてみました。

 2020年12月22日、ViasatはFCCに対して、SpaceXが申請している約2,800機の衛星の低軌道運用を承認する前に、環境アセスメントまたはより厳格な環境影響評価を実施するよう正式に要請しました。

 National Environmental Policy Act(NEPA)では、FCCのような連邦機関に対して、自らの行動が環境に与える影響を評価することを義務付けているのですが、衛星システムについては1980年代から個々の衛星の打上げが環境に及ぼす影響を測定することができないとの分析に基づいてこれが免除されてきたのです。Viasatは、現時点で承認されている12,000機というStarlinkの規模は桁違いであり、Starlinkが申請している修正案は環境被害を及ぼす危険性があるとしているのです。SpaceXが提示している軌道上での故障率に対してもViasatは厳しく批判しており、軌道上で失敗した衛星が低軌道におけるデブリの数を増やすことになると懸念しています。ViasatはStarlinkの打ち上げと再突入の両方について、打ち上げロケットによるオゾン層を破壊する化学物質の生成、再突入時の燃焼による大気中化学物質の放出、地上に到達する破片などが環境に対して被害をもたらすと主張しています。

 SpaceXはViasatの請願について正式にコメントしていませんが、Elon Muskは、Viasatの請願の動機に疑問を呈し、「StarlinkはViasatの利益に被害をもたらすものである。」とツイートして意に介さないようです(twitter.com/)。

 

 このような状況の中で、FCCは10機のStarlink衛星について、高度560km、軌道傾斜角97.60°の極軌道で運用することを許可しました。FCCは、地上システムでは十分にブロードバンドが利用できない高緯度地域へのブロードバンド提供につながると主張しています。FCCは、10機の衛星が許可されても、衛星数の増加や地球局の追加よる干渉には関係しないとして、Viasatなどの他の通信事業者から提起された懸念を却下しました(FCC allows SpaceX to put ten Starlink satellites in lower orbit

 

 確かに、12,000機いや40,000機に及ぶ衛星をコンステレーション化して低軌道で運用された場合、新たに低軌道で衛星ビジネスを始めようとする小規模事業者にとっては、軌道確保、安全な運用の維持に頭を悩ますことになるでしょう。SpaceXやAmazon、Viasatなどが協力して、デブリ回避や宇宙および地球環境の維持が図られないと、今後の宇宙ビジネスの発展は難しいように思われます。

 

写真はflickrから掲載(flickr.com

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