コラム

COLUMN

Bill GatesとKymeta社の衛星通信用平面アンテナ

昨年、移動体向けの衛星通信用平面アンテナを製造・販売するKymetaが、Bill Gatesが主導する投資$78.5Mを含む$85.2Mの資金確保を行った後、FCCから新型アンテナの認可を受けました。Bill GatesKymetaとの関係や移動体向け平面アンテナ(フラットパネルアンテナ)について解説します。

 

 

 2020年8月25日のニュースですが、衛星用アンテナを製造・販売するKymeta社が、新たな資金調達ラウンドで、Bill Gatesを含む投資家から$85.2Mの資金を確保したと報道されました。

 例えば、Space News(Kymeta raises $85.2 million in Bill Gates-backed round)によると、Bill Gatesは同社の最新ラウンドに$78.5Mを投資したとのことで、同社は引き続き資金を調達する計画のようです。Kymeta社は2012年の設立以来、開示されている限りこれまで4回の資金調達を行っており、今回を合わせると資金調達総額は少なくとも約$230Mに達しています。

 Bill GatesがKymeta社に投資するのはこれが初めてではありません。2016年1月、Kymeta社は、Bill Gates、ベンチャーキャピタル企業のLux Capital、Osage University Partners、Kresge Foundation、および戦略的パートナーとしてのスタートアップ企業が主導する投資ラウンドで$62Mを調達したと発表しています(Kymeta News JANUARY 13, 2016)。

 そもそも、Kymetaを支える技術は、Duke Universityの基礎的なメタマテリアル研究から生まれたもので、当初、MicrosoftのCTOであったNathan Myhrvoldと共同設立した特許保有会社Intellectual Venturesに拠点を置いていました。このIntellectual Venturesで、再構成可能なメタサーフェスアンテナ(MSA:metasurface antenna)のプロトタイプを作成しKymetaの移動体向け衛星端末の基盤を築いたのです。Kymetaのメタサーフェス技術は電子走査アンテナにとって注目すべきアーキテクチャであり、メタマテリアルベースの最初の商用製品でした。この技術を掲げて、Kymetaは2012年8月、Intellectual Venturesからスピンアウトしました(kymetacorp.com)が、これと同時に、Bill Gates、Liberty Global、Lux Capitalなどから$12Mの投資を受けました。

 さらに、2013年7月にはBill Gates、Liberty Global、Lux Capitalから$50M(Kymeta News JULY 9, 2013)を、2014年12月にはBill GatesやLux Capitalなどの既存の投資家から$20Mを調達(Kymeta News DECEMBER 19, 2014)し、2016年と今回2020年の投資を合わせると前述したようにこれまでの資金調達総額が約$230Mとなります。

 

 このように、KymetaはMicrosoftひいてはBill Gatesとの関係が深いことがわかります。両者の技術的連携の例としては、Kymetaの平面アンテナでIoT接続を可能とするWindows Apportals、Azure Cloudなどと連携した政府系ソリューションである防衛車両や緊急車両のデモンストレーションが行われています(Kymeta News MAY 15, 2018)。

 冒頭のSpace Newsの記事によるとKymetaの社長兼最高執行責任者のWalter Bergerは、「今回(2020年8月)調達した資金により、第2世代フラットパネル・アンテナであるu 8の開発を完了する予定だ。」と述べました。Kymetaは、u8を利用するKuバンド端末とKymeta Connect™接続サービスのβトライアルを開始したようです(Kymeta News AUGUST 25, 2020)。

 

 衛星通信用平面アンテナと言っても、可搬型の衛星通信用アンテナとして一般的に使用されるものは、一定方向に指向性を持った無追尾のパッチアンテナで、衛星を介した通信を行う前に手動で衛星を捕捉する必要があります。一方、航空機に搭載する衛星通信用アンテナでは、航空機の燃料消費をできる限り抑制するために古くから平面型のアンテナの開発が行われており、アンテナ素子をアレー状に配置して各素子の振幅や位相を電気的に制御するフェーズドアレ―アンテナが実用化されていました。メタマテリアルとは、自然界の材料そのものとは異なる特性を人工的に生み出した構造体(媒質)のことです。Kymetaが利用しているメタサーフェスは自然界には存在しない反射特性をもつ人工表面(超表面)のことであり、その表面に入射した電磁波の反射を制御できる特徴を有しています。メタサーフェスはメタマ テリアルの一つに分類されることもあれば、人工表面に限定されることでメタマテリアルとは差別化して使われることも多いようです(電子情報通信学会 招待論文)。

 株式会社NTTドコモがAGC株式会社の協力を得て、第5世代移動通信方式(5G)におけるエリア構築の最適化に向けて、高い透明性を維持しながら電波の反射・透過を制御する「透明動的メタサーフェス」のプロトタイプを開発し、28GHz帯電波の透過・反射を動的に制御する実証実験に世界で初めて成功した(ドコモ報道発表資料)とのニュースもありましたが、Kymeta社はメタサーフェス製品をいち早く市場投入したわけです。u8端末により、衛星と地上セルラーとのシームレスな接続や、KuバンドのLEOコンステレーションとの通信も目指しているようです。ハードウェア、接続、ネットワークソフトウェア、グローバルサポートをパッケージ化したKymeta Connectを月額995ドルからの価格で提供することで、衛星と携帯電話のハイブリッドサービスを実現しようとしています。

 Kymetaはアンテナ販売だけではなく、通信サービスプロバイダーとして事業を展開しようとしているのです。

 

 2020年9月29日には、FCCが次世代の電子的駆動型移動体向けフラットパネルESIM(Earth Station In Motion)プラットフォームであるKymeta* u 8端末の運用を包括的に認可したと発表しました(Kymeta u8)。Kymetaは既に、Intelsat、Echostar、KTSat、Telesatなどの衛星サービス事業者からKymeta u8端末用の型式認可を受けており、今後の展開が期待できます。

 優れた技術を有するスタートアップが、その技術を適用した製品の製造・販売から製品利用までのターンキーサービスを提供する。さすがにBill Gatesが見込んだ企業と言わざるを得ません。

 

*:Kymetaはトレードマークです

 

写真はKymetaホームページから掲載(kymetacorp.com/

 

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