コラム

COLUMN

宇宙の軍事利用と宇宙兵器

2019年、米国で宇宙軍(Space Force)が誕生しました。日本でも2020年5月18日、航空自衛隊に宇宙作戦隊が編成され、12月16日の府中基地での訓練の様子が公開されました。かねてより、宇宙技術は軍事分野を中心に発展してきましたが、現在、宇宙分野の軍事面でどのような活動が行われているのかレポートします。

 

 2019年8月29日、米国の国防総省(Pentagon)はそれまでの軍事組織である陸軍(Army)、海兵隊(Marine Corps)、海軍(Navy)、空軍(Air Force)、沿岸警備隊(Coast Guard)に宇宙軍(Space Force)を6番目の組織として加えることとし、宇宙軍司令部(U.S. Space Command)を始動させました。同年12月20日、宇宙軍の創設を含む2020年度の軍事関連予算案(the 2020 National Defense Authorization Act.)が可決されたことで、宇宙軍が正式に認められました。宇宙軍は、海兵隊が海軍省の管轄下にあるのと同様に、空軍省の管轄下で宇宙分野における任務と作戦を担当しますが、本部の場所は未定で、Huntsvilleに近いRedstone兵器廠を含め6か所が候補として挙げられているようです(Huntsville could be headquarters for Space Force “Guardians”)。体制構築には5年間で20億ドルの費用と15,000名の人員が必要になるとされています(Military.com)。US Space Forceのウェブサイトではリクルート活動が盛んに行われていますので、ご興味のある方はご覧ください(US Space Force)。2020年6月、宇宙司令部の司令官に指名されたJames Dickinson氏が、上院軍事委員会の承認を経て8月6日、上院本会議で投票により承認されました(SpaceNews)。

 

 米国における宇宙軍の創設が中国やロシアに対する宇宙分野での軍事的優位性の確保と維持であることは明らかです。

 中国は2020年6月23日、独自のグローバル測位衛星システムである北斗(BeiDou)最後の55機目の衛星の打ち上げに成功し、7月29日、ネットワークに組み込んで運用を開始したと発表しました(人民日報日本語版)。この北斗計画を含め、中国は2045年までの「宇宙強国」建設を目指しており、火星探査機や新たな無人月探査機、宇宙ステーションの打ち上げ準備を進めています(毎日新聞)。また、ロシアは2015年に航空宇宙軍を設置し、宇宙からの脅威を観測・検知する宇宙施設の運営、宇宙機の打ち上げ、軍用・多目的衛星システムの運用・保守などを行っています(ロシアの宇宙計画)。

 

 さらに、これも読者の方はよくご存じかと思いますが、日本においても2020年5月18日、航空自衛隊に宇宙作戦隊が新たに編成されました。約20名の人員で、府中基地において宇宙状況監視システムの運用を通じ、宇宙空間の安定的利用の確保に資する活動を実施するとされています。これと併せて、令和5年度からの宇宙状況監視の本格的運用開始に向けて、宇宙領域における部隊運用の検討、宇宙領域の知見を持つ人材の育成、米国との連携体制の構築などが進められます(航空自衛隊)。2021年度の防衛省予算概算要求では、衛星コンステレーションや宇宙状況監視(SSA:Space Situational Awareness)などに関する項目が含まれています。2020年12月16日、この宇宙作戦隊によるデブリ監視訓練の様子が府中基地で初めて公開されました(産経新聞記事)。

 

 2019年8月30日の産経新聞記事によると、『トランプ大統領は中国やロシアを念頭においた「敵対勢力」が米軍の軍事作戦や米国民の生活に重要な役割を果たす米衛星を狙った新型の宇宙兵器を開発していると指摘し、「宇宙で自由に作戦行動を展開することは、米国に向けて発射されたミサイルを探知し破壊するのに不可欠だ」とした。』とあります。また、『2019年2月に国防総省傘下の国防情報局(DIA:Defense Intelligence Agency)が発表した報告書では、中国が地上発射型衛星破壊ミサイルを実戦配備済みで、さらに2020年には比較的低高度の軌道を周回する衛星をまた、2020年代半ばにはより高高度の衛星を破壊できる地上発射型レーザー兵器を配備する可能性があるとした。』、と掲載されています(産経新聞)。

 

 米国の宇宙軍も日本の宇宙作戦隊のいずれも、映画のスターウォーズや宇宙戦艦ヤマトのような宇宙空間での戦闘を意識したものではありませんが、両者が最も懸念するのが衛星攻撃兵器(ASAT:Anti-Satellite Weapons)の存在で、航空自衛隊は2019年米国で実施された宇宙状況監視多国間机上演習(グローバル・センチネル演習2019)に参加しています(航空自衛隊)。

 2020年7月15日、米国の宇宙司令部はロシアがASATの試験を行ったと非難しました(BBC)。ロシアのCosmos2543号が、別のロシアの衛星の近くの軌道に何らかの物体を発射した模様で、米国は、今回の発射はロシアが軌道上の衛星から他の衛星に向けた発射テストであると考えています。また今回の実験に使われたCosmos2543は、2020年初めに米国の衛星に接近しており、米国はロシアが宇宙ベースの兵器開発とテストに継続的に取り組んでいることの証拠であるとしています。

 

 一方、米国では空軍とBoeingが開発した無人宇宙往還機X-37Bが、2020年5月17日ULA (United Launch Alliance)のAtlas 5で打ち上げられました(Defence News)。X-37Bには空軍士官学校(U.S. Air Force Academy)と空軍研究所(USAF Research Laboratory)が開発した小型衛星FalconSat-8が搭載されています。このFalconSat-8の重量は136㎏ですが、電気推進システム(MEP:Magnetogradient Electrostatic Plasma Thruster)、フェーズドアレー相当のアンテナ(MMA:Metamaterials Antenna)、カーボンナノチューブを用いたRFケーブル(CANOE:Carbon nanotube experiment)、改良フライホイール(ACES:Attitude Control and Energy Storage)、市販のカメラやGPUなどが搭載されています(FalconSat)。X-37Bからの小型衛星の放出は、米国が小型の高性能衛星を軌道上に素早く投入することができる能力を有していることを示していると言えるのではないでしょうか。

 

 ASAT以外の宇宙兵器といわれてもピンときませんし明確な定義もありませんが、C4ISRNETの記事では、戦略国際問題研究所(CSIS:Center for Strategic and International Studies)のTodd Harrison氏が宇宙兵器を以下のように分類していますのでご紹介しておきます(Space Weapon)。

① 地球から宇宙を攻撃(動体)

 地球から弾頭や核弾頭の搭載も可能なミサイルのような物体を発射する。米国、ロシア、中国、インドがこの能力を示しており、米国とロシアは1960年に宇宙で核実験を実施。

② 地球から宇宙を攻撃(非動体)

 地球から、妨害波、レーザー、サイバー攻撃を仕掛け衛星の機能を妨害する。米国、ロシア、中国、イランなど多くの国がこの能力を保有。

③ 宇宙から宇宙を攻撃(動体)

 他の人工衛星を破壊するために人工衛星から物理的に攻撃

④ 宇宙から宇宙を攻撃(非動体)

 軌道に投入された衛星から他の宇宙システムを妨害するために高出力マイクロ波や妨害波を送出

⑤ 宇宙から地球を攻撃(動体)

 弾頭を装備した再突入機などによる宇宙から地上の標的を爆撃

⑥ 宇宙から地球を攻撃(非動体)

 信号の妨害、宇宙船や弾道ミサイルを標的とした地上への攻撃

 いずれも使用してほしくないものばかりですが、レーザー兵器や電磁パルスを用いる電磁エネルギー兵器の開発は精力的に進められています。さすがに宇宙船から波動砲のような高出力エネルギーを放射することは難しいと思いますが、衛星の機能を停止させるような妨害波の送信であれば十分可能です。

 

 宇宙民間ビジネスではデブリ除去に注目が集まっている一方、軍事面ではこのような研究開発が進められているのです。今後、New Spaceや宇宙民間ビジネスの隆興といった明るい側面だけでなく、このようなダークサイドにも目を向けていきたいと思います。

 

写真はU.S. Air Force's X-37B Orbital Test Vehicle 4:Defense Newsから掲載(X-37B

 
 
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