コラム

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欧州の監査機関(ECA)がEUの宇宙計画に対して一層の努力が必要と指摘 -Copernicus Mastersを日本でも開催-

衛星測位システムGalileoや地球観測プログラムCopernicusなどの宇宙開発計画を推進するEUの取り組みに対して、欧州会計検査院から、投資に見合った成果を出すために一層の努力が必要であると指摘する報告が行われました。この報告書の概要とEUの宇宙開発プログラムのグローバル展開などについて解説します。

 

 2021年4月21日、欧州会計検査院(ECA:European Court of Auditors)が欧州連合(EU)の宇宙開発計画に対する特別報告書を発表しました(Insidegnss.com)。ECAは、欧州連合の機能に関する条約であるEC機能条約に規定されているEUの外部会計検査機関で、“特別検査報告の形で特定の項目に係る検査結果を随時発表する、検査業務で発見された不正行為又は詐欺の疑いのある事案を報告する、予算分野に係るEUの立法に対して意見提言する”、などの権限を持っています(ECA)。

 Inside GNSSの記事によると、ECAは、EUが宇宙開発計画の可能性を最大限に活かすための十分な対策をとっていないと指摘しています。EUが推進する衛星測位システムGalileo(ガリレオ)と地球観測プログラムCopernicus(コペルニクス)には、これまで約180億ユーロ(約2兆3,600億円)という多額の投資が行われており、これに見合うように、EU市民と経済に対する利益を最適化するようさらなる努力が必要である、としています。

 

 欧州委員会は、2016年の「Space Strategy for Europe(欧州宇宙戦略)」において、EUの宇宙計画の可能性を活用することでEU社会と経済にとっての利益を最大化することを約束し、宇宙サービス、宇宙データ及びアプリケーションの利用を奨励するための活動、資金提供、EUの法律が宇宙サービスの利用を支援することの確保などを行ってきました。しかし、追求すべき利益については明確に定義されておらず、何をいつまでに達成すべきかといった目標や期限も設定されていなかったのです。

 報告書に対する責任を負うECAメンバーの一人であるMihails Kozlovs氏は、「技術的には、EUは宇宙を利用した地球観測や航法サービス(衛星測位サービス)の分野で世界的なプレーヤーになることに成功した。しかしながら、EUは重要な公共投資を十分に活用するために宇宙サービスの導入を支援する包括的なアプローチを欠いている。」、と指摘しています。

 

 EUは、2021から2027年の間に、140億ユーロ(約1兆8,000億円)以上を宇宙計画に割り当てています。2021年から2027年までの対策は始まったばかりであり、EUが貴重な資産から十分な利益を獲得することを効果的に支援するため、報告書は以下のように指摘し、さらなる努力を求めています。

 

 衛星測位システムであるGalileoについては、Galileo信号と互換性のある受信機の導入が順調に進んでおり、スマートフォンや自動車アプリケーションなどの関連市場分野への導入が可能になっているものの、米国のGPSシステムほどには市場に浸透しておらず、ユーザーがGalileoをより広く採用するまでには時間がかかるだろう、としています。Galileoには他のシステムでは提供できない機能がありますが、まだ完全に利用できるまでには至っていないのです。

 また、地球観測プログラムであるCopernicusについては、EU全体での利用を促進するためのいくつかの重要な行動が十分に目標化されていなかったかあるいは、期待されていた効果をもたらしていなかったとしています。Copernicusが効果を発揮するためには、宇宙以外の分野でもCopernicusのデータが利用される必要があるのですが、その利用は専門家や科学者に限られています。Copernicusデータへのアクセスは改善されましたが、依然として非常に多くの異なるプラットフォームを通じて提供されており、データへの効率的なアクセスのための長期的なビジョンがない、としています。Copernicusデータアクセスのためのプラットフォームについては、別の機会に詳細を報告したいと思います。

 なお、欧州におけるもう一つの宇宙プログラムであるEGNOS(European Geostationary Navigation Overlay Service:静止衛星補強型衛星航法システム)については、利用範囲や財務上の重要性が限定的なものであるため、検査の対象には含まれていません。

 さらに検査院は制度面について、次のように指摘しています。

 2016年の欧州宇宙戦略において、欧州委員会は、宇宙ソリューションの普及を促進するための規制措置を講じることを約束しています。しかし、宇宙サービスの利用を妨げる可能性のある規制上または行政上の障壁を特定する行動はほとんどなされておらず、欧州委員会は、宇宙サービスをEUの法律や標準化で促進することができていません。例えば、道路輸送や物流、自動運転車やドローンなど、多くの関連分野では、規制が不完全なために宇宙ソリューションが役立つまでに至っておらず、最悪の場合は全く法制化や標準化がされていないのです。

 この記事の元になっているECAのSpecial Report 07 2021,「EU space programmes Galileo and Copernicus : services launched, but the uptake needs a further boost」は、ECAのサイトで公開されています(ECA Special Report)。同サイトには、本勧告に対する欧州委員会やGSA(The European GNSS agency)の回答も掲載されています。かなりの長文ですがご興味のある方は、ご一読ください。

 

 欧州委員会が掲げる「EUの宇宙計画の可能性を活用することでEU社会と経済にとっての利益を最大化」するためには、欧州の宇宙技術やサービスを欧州に限らず広く世界に展開することが必須ですので、2021年以降、欧州が推進する宇宙プログラムのグローバル展開活動がますます活発になると思われます。

 既に、東南アジアでのGalileo利用を普及させるため、ベトナムのハノイ大学に設置したNAVIS(the International Centre for R&D of Satellite Navigation Technology in South East Asia : ホームページ)における研究開発や、GNSS Asiaを介した欧州と東南アジアの産業連携活動が行われています。

 さらに、衛星測位サービスや地球観測プログラムであるCopernicusに関する技術的進歩やユーザーの囲い込みを目的としたグローバルな技術競争であるGalileo Masters(https://galileo-masters.eu/)やCopernicus Masters(https://copernicus-masters.com/)が毎年開催されています。Copernicus Mastersは、2011年に欧州委員会や産業界、政府機関などの支援を受けて欧州宇宙機関(ESA)が立ち上げたもので、インフラシステムを初めてとして、農業、生態系保全、グリーンエネルギーに至るまで、社会の多くの分野を対象に、様々な社会課題をCopernicusサービスで解決するような提案を募集し、選定・評価しているのです。

 

 今年からこのCopernicus Mastersに日本地域からも参加することになり、筆者が勤務する株式会社デジタルブラストが日本事務局を務めています。Copernicusや日本の準天頂衛星システムを活用した新しいアイデアを創出して、日本国内での競争のみならず、欧州からの提案とも競争できれば素晴らしいと考えておりますので、皆様からのご提案・ご応募をお待ちしております【Copernicus Masters Japan】。

 

 

写真はSentine-1:ESAホームページ(sentinel-1-sar/)より転載

2021.5.25
2021.5.25
2021.5.18