コラム

COLUMN

衛星搭載レーザ高度計によるリモートセンシング(LiDAR衛星)

衛星から発射したレーザが対象物で反射されて戻ってくるまでの時間差を測定することでセンチメータ級の高精度の距離測定が行えるレーザ高度計(LiDAR)について、軍用および民生の両分野での研究や利用検討が進んでいます。LiDAR衛星を取り巻く状況について解説します。

 

 

《安全保障とLiDAR》

 2021年1月のdefensesystems.comに「It’s time for a tactical LiDAR satellite」と題する解説記事が掲載されています(Space Defense記事)。その記事の概要は以下のようなものでした。

 近年、米国の国家安全保障戦略では中国、ロシア、イラン、北朝鮮に焦点が当てられています。各国に対するISR(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance:情報収集・警戒監視・偵察)のために、偵察機がこれらの領空に入る場合があります。この時、相手の防空能力の向上に反比例して米国のISR能力は脆弱になります。このような高度な防空システムはA2/Ad(Anti Access/Area Denial)と呼ばれていますが、米国の航空機や船舶に対するA2/Adの効力を無力化するためには、離れた距離(standoff distance)を保つ必要があります。そして、戦略的超音速ミサイルのような新兵器を支援するには、戦術的に適切なタイムラインで高品質のISRを収集する必要があるというのです。これらに対する解決策の一つがLiDARというレーザ測距装置を衛星に搭載することである、と記事の著者は述べています。NASAの科学ミッションであるICESat-2により、宇宙ベースのLiDARで情報を収集できることが証明されたというのです。

 

《ICESat-2》

 ICESat-2(Ice, Cloud and land Elevation Satellite-2)は、環境変化の影響を継続的に測定・監視することを目的として地球の高度変化を測定するNASAの観測衛星ミッションです。ICESat-2は、気候温暖化における凍土や氷の変化、温帯および熱帯地域の高度測定、世界中の森林の植生調査などを行っています。ICESat-2には、ATLAS(Advanced Topographic Laser Altimeter System)と呼ばれる単一光子を検出するレーザ高度計が搭載されており、ATLASから送信されたレーザ光子が地上で反射し、受信機の望遠鏡に戻ってくるまでの往復時間を正確に測り、この時間と衛星の正確な位置を合わせることで、地球の表面の高さを正確に測定することができるのです(NASA icesat-2)。

 LiDARはLight Detection and RangingあるいはLight Imaging, Detection and Rangingの略と言われており、地震学、林業、大気物理学、レーザーガイダンス、空中レーザ測地図、レーザ高度計など幅広い分野で使用されています。飛行中の飛行機に取り付けたレーザースキャナーで地形の3D点群モデルを作成したり、地上に設置して使用する場合や、移動体に設置して使用することもあり、照射してターゲットまでの距離を測定する測量方法として高解像度の地図を作成するなどの目的のために広く使われています(株式会社光響ホームページ)。

 ICESat-2では衛星にレーザ高度計を搭載していますが、地上局から衛星に向けてレーザ光を発射し、衛星の反射鏡で逆方向に反射して地上局へ戻ってくるまでの往復時間を計測することで、衛星との距離を計測する衛星レーザ測距(SLR:Satellite Laser Ranging)という方法もあります。SLRは衛星の軌道制御やデブリ監視などで使用されています。最近では、数十ピコ秒の精度で往復時間を測ることができるようになっており、1cm以下の精度で距離を測定することができます(NICTのSLR解説)。

 

《JAXAとNTTデータによるLiDARの研究》

 JAXAとNTTデータは、JAXAの人工衛星搭載レーザ高度計の技術とNTTデータが有する3次元地図技術を掛け合わせた3次元地図の高精度化に関する共同研究を2021年1月から2022年3月にかけて実施することを発表しました。レーザ高度計が取得したデータを用いて地盤面の高さを正確に測定する技術を研究し、3次元地図高精度化へ反映し、さらに、軌道上実証を含む今後のレーザ高度計による地球観測技術の研究に反映するとしています。通常の衛星画像では、樹木や植生に覆われた地面を直接観測できないため、地盤面や森林の高さ構造を高精度に測定するために宇宙機搭載レーザ高度計の活用を目指しているとのことです。

 これまでJAXAが開発したものとしては、小惑星探査機はやぶさ等に搭載されたレーザ高度計の実績がありますが、はやぶさに比べて人工衛星の軌道高度が高いため、JAXAはレーザパワーが約1,000倍近く必要となる地球観測用レーザ高度計の研究開発を行っています(NTTデータニュースリリース)。

 

《LiDARの平和利用を・・・》

 冒頭述べたように、LiDARは軍事面での活用が見込まれており、インド軍の元高官は、中国およびその同盟国によるインドに対する脅威の増大と、短期的・中期的・長期的な衝突の可能性を考慮して、衛星搭載LiDARの軍事利用を検討する必要がある、とする記事を寄稿しています(LiDAR-Satellites)。この記事でも、環境観測ミッションとして運用されているICESat-2の性能が参照されています。

 人工衛星をはじめとする宇宙技術が軍事面で利用されるのを防止する手立てはありませんが、世界各地で頻発する気候変動によると思われる異常気象が引き起こす自然災害被害の特定や把握、都市計画や建設などの社会生活面での利用を目的として運用されている衛星の性能が軍事利用のためのエビデンスになることは、釈然としません。全世界が宇宙技術の平和利用に邁進して欲しいものです。

 

 

画像はNASA Image Gallery(https://www.nasa.gov/content/goddard/icesat-2-images)から掲載

2021.5.25
2021.5.18
2021.5.12