JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、2026年6月12日(金)9時53分59秒~11時52分46秒に、種子島宇宙センターからH3ロケット6号機を打ち上げます。H3ロケットのラインナップ全3種のうち、今回は固体ロケットブースターを装着しない「30形態」の初めての打上げとなります。
この記事では、打上げ前に実施された機体公開時の写真を交え、H3ロケット6号機・30形態のポイントや、計6機の搭載衛星について解説するほか、H3の基本についておさらいします。
目次
おさらい!H3ロケット 6号機・30形態の位置づけは?
H3(エイチスリー)ロケットはJAXAと三菱重工が開発した、日本の大型基幹ロケットです。基幹ロケットとは、政府が必要なときに、外国に頼ることなく宇宙へ人工衛星を打ち上げるために使うロケットのこと。日本の宇宙開発に必要不可欠なインフラといえます。
なお、H3は液体の燃料と酸化剤(推進剤)を使用する「液体燃料ロケット」で(関連記事)、第1段機体と第2段機体を組み合わせ、推進剤を使い切ったら第1段を切り離して速度を上げていく、「2段式」のロケットでもあります。
2014年度から開発が始まり、2020年度内に打上げ予定でしたが、第1段のメインエンジン「LE-9(エルイーナイン)」に課題が見つかり、開発は難航。結局、試験機1号機は2023年3月に打ち上げられましたが、第2段エンジンに着火せず、打上げは失敗しました。
2024年2月、原因調査・対策を経て試験機2号機の打上げに成功し、7号機まで5機連続で成功しましたが、2025年12月、8号機の打上げに失敗。再度の原因調査を経て、今回の6号機打上げに挑みます。なお、LE-9エンジンの改良は今も続けられており、2026年6月現在、最終版「Type2」の試験が実施されています。

Credit: JAXA記者会見資料(2026年5月13日)より
H3ロケットは「柔軟性・高信頼性・低価格」を実現することを目的に開発されました。このうち「柔軟性」を実現するため、3種類のラインナップ(形態)が用意されています。

Credit: JAXA記者会見資料(2026年5月13日)より
H3ロケットは搭載する衛星の重さや目的の軌道などに応じて、LE-9エンジンや固体ロケットブースター(SRB-3・エスアールビースリー)の数、衛星を保護する「フェアリング」の大きさを変更できます。各要素の異なる3形態の中から、衛星に最も適した形態を選ぶことができます。
3形態のうち、22形態と24形態の打上げには成功しましたが、30(サンゼロ)形態の打上げは、6号機が初めてです。30形態は最も軽い形態であり、固体ロケットブースターを装着しないことで、H3ロケットの「低価格」を実現します。
JAXAは、30形態により、従来の基幹ロケット「H-IIA」の半額となる打上げ価格、約50億円を目指すとしています。ただし、この価格は開発当初、10年以上前の物価や為替レートによるもの。現在、これらの条件は大きく変動していることから、最終的な価格がいくらになるか、注視が必要です。
なお、JAXA H3プロジェクトマネージャの有田誠氏によると、「機体価格は30形態に比べ、22形態は2割、24形態は6割ほど高い」ということです。
実機写真で解説 6号機・30形態3つのポイント
では、H3ロケット6号機・30形態試験機の注目ポイント3点について、機体公開時の写真も交えて見てみましょう。
ポイント① 日本初!ブースターなし・LE-9エンジン3基の姿
最も特徴的なのは、固体ロケットブースター(以下「ブースター」)が装着されていないことです。種子島宇宙センター・大型ロケット組立棟(VAB)内部の足場には、ブースター取付け用の穴が空いていますが、6号機・30形態では空いたままになっています。
なお、H3ロケット30形態は、固体ロケットブースターを装着しない日本初の大型液体ロケットとなります。

撮影: 加治佐匠真
また、22形態・24形態にはLE-9エンジンが2基装着されていますが、30形態はブースターなしでも十分な推力(パワー)が得られるよう、1基追加され、計3基のLE-9エンジンが装着されています。

撮影: 加治佐匠真
これまでの22形態・24形態では、
- ①LE-9エンジン推力立ち上げ
- ②LE-9エンジン推力立ち上がりが正常であることを確認
- ③ブースター点火
- ④リフトオフ(発射)
の順でロケットが打ち上げられますが、30形態にはおもりとなるブースターが装着されていないため、②において、エンジンが正常に立ち上がる前に地上を離れてしまう可能性があります。
そこで、今回は地上の発射装置側に「ホールドダウンシステム」という新機能が追加されました。同システムでは、機体側の金具を地上側の計4つのホールドダウン機構で拘束し、エンジンが正常に立ち上がったことを確認してから解放します。これにより、エンジン3基に異常が発生した場合でも、ロケットを確実に地上に留めておくことができます。

Credit: JAXA記者会見資料(2026年5月13日)より
ポイント② 衛星搭載アダプタ(PSS)とフェアリングの補修 失敗を受けた変更も
前回打上げ失敗したH3ロケット8号機の失敗原因は、調査の結果、ロケット機体と衛星側を結合する「衛星搭載アダプタ(PSS)」にあることが判明しました。
PSSは4分割した部品同士を結合して製造しますが、製造時に結合部周辺の温度が想定より高くなったことで剥離が発生し、フェアリング分離時の衝撃で剥離が進行、破壊に至りました。今回は調査結果をふまえ、結合部を補修したPSSを使用します(関連記事)。
また、フェアリングもPSSと同じ方法で結合して製造されていることから、飛行中の加熱を抑えるため、結合部に追加の断熱材シートが貼り付けられています。これまで、H3ロケットのフェアリング中央部には「先進・洗練」の思いを表現した黒いデザインが施されていましたが、今回の追加補修により、その姿は見えなくなりました。

撮影: 加治佐匠真
ポイント③ 新しい超小型衛星搭載装置 さらに衛星に優しく
6号機のPSS上部には、6機の超小型衛星を搭載するため、新しく開発された「超小型衛星アダプタ」が設置されます。これまでの搭載方式より、超小型衛星に加わる衝撃が緩和されたほか、搭載可能重量、搭載可能数が増加しました。

撮影: 加治佐匠真
6号機搭載の衛星たち 基幹ロケット初、民間打上げサービス提供も
H3ロケット6号機には計6機の超小型衛星が搭載されますが、2機はJAXAの「革新的衛星技術実証3号機」プログラム、4機はSpace BD社による「H3ロケット相乗り打上げサービス」の枠組みで打ち上げられます。民間企業が基幹ロケットによる打上げサービスを提供するのは、今回が初めてです。

Credit: JAXA記者会見資料(2026年5月25日)より
搭載される衛星を、衛星公開時の写真とともに見ていきましょう。
うみつばめ(英語名:PETREL):陸海域分光ビジネス実証衛星
東京科学大学が中心となって開発した衛星で、さまざまな波長でデータを取得できるマルチスペクトルカメラと、紫外線を使って天体を観測する望遠鏡を搭載しています。観測ミッションだけではなく、観測データを提供するサービスの運用も実施予定です。

撮影: 加治佐匠真
STARS-X(愛称:しらいと):宇宙テザー利用技術実験衛星
静岡大学が開発した衛星で、ロケットから分離後、宇宙空間で約1kmのテザー(ロープ)を伸ばす予定です。実施責任者の能見公博氏によれば、長さ1kmのテザーを伸ばすことは日本初であり、実験結果は将来の宇宙エレベーター実現などに役立てられるということです。
また、秒速7~8kmで動くテザー上で小型ロボットを移動させると、まっすぐ伸びたテザーが「くの字」に曲がることがあるといい、この挙動によって衛星の軌道を変える技術を実証するほか、軌道上で疑似デブリを放出して、網を使って捕獲する実験も実施予定です。
なお、STARS-X(スターズエックス)では愛称募集キャンペーンが行われ、485件の応募のなかから、静岡県を代表する景観である白糸の滝やテザーを想起させる「しらいと」と命名されました。

撮影: 加治佐匠真
VERTECS:宇宙可視光背景放射観測衛星
九州工業大学が中心となって開発した衛星で、宇宙誕生初期から現在までに放出された全ての放射の足し合わせである「宇宙背景放射」を観測します。これまでの他衛星による赤外線観測から、既存の銀河以外に、ぼんやりとした光を発する未知の天体があることが示されており、可視光により、未知の天体の謎を解明することを目指しています。
なお、VERTECS(ヴァーテックス)開発プロジェクトから派生し、超小型衛星開発・運用を支援する「Kick Space Technologies」社が設立されました(関連記事)。

撮影: 加治佐匠真
HORN-L / HORN-R:膜展開型 宇宙ゴミ対策装置
スペースデブリ対策に取り組む、BULL社が開発。薄いフィルム状の膜を広げて大気抵抗を増大させ、人工衛星を迅速に軌道から離脱・落下させる「PMD」装置の実証を目的としています。HORN-L / HORN-R(ホーンエル / アール)には、それぞれ異なる収納方法で、サイズの違う膜が搭載されており、宇宙空間での展開動作や軌道降下の様子を比較・実証します。
なお、今回の実証は、文部科学省 SBIR(中小企業イノベーション創出推進事業)フェーズ3基金の一環として実施されるということです。

撮影: 加治佐匠真
BRO-22:H3に搭載される初の海外衛星
フランスのUnseenlabs社が開発した衛星で、H3ロケットで打ち上げる初の海外衛星です。他の「BROシリーズ」をともに衛星コンステレーションを構築し、海上・航空交通を監視するための無線情報収集を行います。
※外部から機密情報が見えるため、残念ながら衛星の公開は行われませんでした。
この記事では、H3の基本についておさらいし、H3ロケット6号機・30形態のポイントや搭載衛星について、実機写真を交えて解説しました。
6号機は30形態として初めての打上げであり、成功すればH3ロケットの「低価格」実現に大きく寄与するとともに、商業市場での競争力確保に向けた大きな一歩となります。また、8号機失敗からの再起をかけたフライトでもあることから、今回の打上げが持つ意味は、日本だけでなく、世界の宇宙開発シーンにおいても大きいといえそうです。
フォトギャラリー

撮影: 加治佐匠真

撮影: 加治佐匠真

撮影: 加治佐匠真

撮影: 加治佐匠真

撮影: 加治佐匠真
筆者プロフィール
加治佐 匠真(かじさ・たくま)
鹿児島県出身。早稲田大学卒業。幼い頃からロケットが身近な環境で育ち、中学生から宇宙広報を志す。2019年より宇宙広報団体TELSTARでライター活動を始め、2021年からはSPACE Mediaでもライターとして活動。主にロケットに関する取材を全国各地で行う。主な取材実績にH3ロケット試験機1号機CFT(2022)、イプシロンSロケット燃焼試験(2023、記事)、カイロスロケット初号機(2024、記事)など。