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宇宙生活の実現への第一歩!民間による宇宙実験が始まる!- 株式会社ElevationSpace/株式会社ユーグレナ

人類が宇宙に進出して60年、宇宙ステーションを建設して20年。しかし未だに、多くの人々が宇宙で生活をするという世界は遠い未来のことに感じます。この世界を実現すべく、多くの企業が挑戦をしています。

今回のインタビューでは、株式会社ElevationSpace・代表取締役CEOの小林稜平氏と株式会社ユーグレナ 執行役員 CTO 鈴木健吾氏にお話を伺いました。この2社は宇宙実験事業に関する覚書を締結しており、無重量環境の利用や人類の宇宙進出に向けて先進的な取り組みを行っています。

参考: プレスリリース

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000074085.html

以前のインタビュー記事

「ミドリムシを宇宙で培養?誰もが宇宙を利用できる世界へ- 株式会社ElevationSpace」


ElevationSpaceとユーグレナ社による宇宙実験

―本日はよろしくお願いします。今回のインタビューでは、両社が締結している宇宙実験事業に関する覚書についてお話を伺ってまいります。はじめに、両社の現在の事業についてお聞きしてもよろしいでしょうか。

小林氏 私たちElevationSpaceは、宇宙実験が気軽に行えるプラットフォームを開発している企業です。人工衛星にサンプルを搭載して打ち上げ、軌道上の無重量環境で実験をした後、サンプルを再び地上に持ち帰ってより詳細な分析ができる。こういうことを想定しています。

株式会社ElevationSpace 代表取締役CEO 小林稜平氏

鈴木氏 私たちユーグレナ社は、藻の一種であるユーグレナ (和名:ミドリムシ) の可能性に着目し、様々な製品の研究開発を行っています。ユーグレナという生き物は色んな利用用途がありまして、栄養価の高い食品や生物由来プラスチック、肥料や動物の餌、化粧品や燃料に至るまで、非常に幅広い可能性を持っています。

株式会社ユーグレナ 執行役員 CTO 鈴木健吾氏
微細藻類ユーグレナ(株式会社ユーグレナ提供)
微細藻類ユーグレナ
Credit: 株式会社ユーグレナ

―では、そんな両社が連携を組むこととなった経緯やその内容について教えてください。

小林氏 ElevationSpaceでは、宇宙空間で実験を行う人工衛星の試験機として、ELS-R100という機体を開発しています。2023年末に打上げ予定でして、このELS-R100にユーグレナを載せて宇宙空間で生育する培養実験を行います。宇宙空間でどのような影響を受けて、地上での生育とはどのような違いが生じるのかを分析する実験となっています。

ELS-R機体イメージ
Credit: 株式会社ElevationSpace

鈴木氏 ユーグレナ社は、コーポレート・アイデンティティ(CI)でフィロソフィーとして「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げ、サステナビリティという観点を重視しておりまして、宇宙に人類が進出しようとした時に宇宙での生活空間の維持にユーグレナが活用できるのではないかと考えています。先ほど挙げた活用方法の他には、人間が吐いた二酸化炭素を光合成によって酸素に変えたり、生活排水を綺麗にして再利用したりするといったことが挙げられます。そこで、今回の連携をきっかけにして、小規模でも宇宙をベースにした実験を重ねて、知見を蓄えていきたいと思っています。

―宇宙に行くと地上とはどのような違いが表れると考えていますでしょうか。

鈴木氏 主に2つの要素があると思います。一つは重力の影響がない環境ですから、地球上で生育するのとは異なる挙動を示すと考えられ、それがどのようなものか知りたいです。もう一つは宇宙放射線の影響です。宇宙空間には様々な放射線が飛び交っていますが、地球は大気に守られているのでこの影響が少ないです。宇宙に行った時にはこの影響が強くなるはずで、それがどのようなものか確かめたいと思っています。

ElevationSpaceのサービスの強み

―現在でもISSでの実験など、宇宙で実験を行う手段はあります。こうしたものと比較して、ElevationSpaceのサービスの優れた点はどこにあるのでしょうか。

小林氏 まずISSは2030年頃に運用が終了すると言われており、その後に宇宙実験を継続していく方法はまだ決まっていません。ISSには宇宙飛行士がいるので、複雑な実験ができるというメリットがありますが、一方で宇宙飛行士の稼働料がかかったり、非常に厳しい安全基準のために利用までに時間がかかったりするといったデメリットがあります。また、打上げ機会が少ないという課題もあります。

私たちが開発しているプラットフォームは、小型で無人であるということが特長になります。小型なので高頻度の打上げが可能となり、無人なので厳しい安全基準もありません。より安くより高頻度に実験ができる、これは大きなメリットだと思います。

―打上げの頻度や実験期間はどれくらいを想定しているのでしょうか。

小林氏 年に10回程度の頻度で実施できたらと思っています。実験を行う期間として数週間~6か月程度の期間を想定しており、ユーザーによって選ぶことが可能です。高頻度・短期間の打上げによって、気軽に宇宙で実験できる機会を作っていこうと考えています。

鈴木氏 ユーグレナ社としては、2040年を見据えた時に月での人間の生活をユーグレナで支えられればと思っているのですが、月に行って実験を行うということはまだまだ先になりそうです。そこで、ElevationSpaceの衛星で何度も打ち上げ、短期間でフィードバックを得ながら実験を改良し、将来に向けてどんどん研究を進めていきたいと思っています。

宇宙実験の取り組みが持つ可能性

―ユーグレナには多くの活用法があるとのことでしたが、宇宙実験の成果が地上での生活に役立つことはあるのでしょうか。

鈴木氏 はい。まず、宇宙で放射線を浴びて違う形質になったユーグレナが新しい機能を獲得し、その新しいユーグレナを地上で直接活用できるということはあり得る話だと思います。それ以外には、過酷な環境での生育に関する知見を蓄えることに繋がりますから、これは地上でも砂漠など様々な環境で育てていく技術に繋がっていきます。ユーグレナが環境変化にどれだけ対応できるかについて、地上ではなかなかできない検証をし、地上における変化を推察することにも繋がるのではないかと期待しています。

―地上転用という点では、宇宙を目指しているわけではない企業でも宇宙実験を行う価値がある分野は他にもあるのでしょうか。

小林氏 国内外含め、幅広い業界の企業と既にやりとりをしていますね。まず挙げられるのはユーグレナ社のようなバイオ系や創薬系で、特に創薬に関しては重力が無い環境では対流が起きずに高品質で綺麗な結晶ができる点が注目されています。また、地上では混ざらないもの (例: 水と油) が混ざるため、新しい材料開発ができるのではないかと期待されています。こうしたものを宇宙で作って地上に持ち帰り活用する、ということが想定されます。

―今回、日本の2社で組んでいることってすごいことだと思うのですが、ここに関して何か考えていることはありますでしょうか。

小林氏 日本はモノづくりの領域に強みを持っていますから、宇宙開発のポテンシャルは非常に大きいと思っております。先ほどの材料製造の分野は、これから日本の企業が強みを発揮していける領域だと思います。また、日本の宇宙船で生きた生物を宇宙から回収した実績はまだありません。ELS-R100の取り組みが日本で初めての実績になるわけですから、これは日本の宇宙開発にとって非常に大きな意義を持つと思っています。

鈴木氏 宇宙は非常に魅力的なマーケットが生まれる場所だと捉えていて、日本のチームとして共に新しい挑戦をしていき、この先の月面開発などで日本の技術が大きなプレゼンスを発揮できるようになっていけたらと思います。今回の取り組みは、宇宙に行って帰ってくるというインフラを構築でもあります。人を危険にさらすわけにはいかないのでまずは藻類で実験ということになりますが、これを段階的に進めて技術力を高めていきたいですね。まぁ、我々が愛するユーグレナを危険にさらすことにはなるのですが (笑)

ユーグレナの活用例: 健康飲料
Credit: 株式会社ユーグレナ
ユーグレナの活用例: 化粧品
Credit: 株式会社ユーグレナ

ElevationSpaceとユーグレナ社が描く未来

―今回の宇宙実験のその先のビジョンについてお伺いしてもよろしいでしょうか。

小林氏 私は元々宇宙建築物を専門としており、将来的には宇宙ホテルなどを創っていきたいと思っています。現在のプロジェクトはその前段階として有人の宇宙船を創るということを見据えて行っています。

宇宙船開発に必要な技術として、まず再突入の技術は欠かせません。今回の宇宙実験衛星ではその部分を実証していくわけです。次のステップは無人宇宙船を創り、宇宙ステーションなどに地球から物資を輸送するということを行い、ドッキング技術を獲得していきます。そうしてやっと有人の宇宙船を開発する段階に入ります。ここでは有人特有の安全設計や環境制御の技術が必要になってきますね。再突入、ドッキング、有人宇宙技術、この3段階で進めていきたいと思っています。そしてその先で、宇宙ホテルや月面基地など人間が住む拠点の建設を実現していきます。

鈴木氏 宇宙開発に関して言えば、先述のように宇宙での人間生活や環境維持にユーグレナを活用し、人類の宇宙進出を支えていくということになりますね。空気や水の再生に加え、ユーグレナ自体を食品として用いることも有益になります。というのも、狭い空間で少しの水やエネルギーで育成することができるからです。ユーグレナは、資源が限られた宇宙での生活に向いた食品になるでしょう。栄養価も高いです。

あとは味に関してもクリアすれば、地上転用にも大きな可能性を持ちます。ユーグレナハンバーグというものを考えてみれば、家畜を飼って育てて作るハンバーグに比べてずっとエコで省エネな食品になるわけです。宇宙進出という文脈で開発された食品になれば、これは一つの新しい文化として、人々にも受け入れられやすいのではないかと思います。

軌道上での建築・輸送事業の構想図
Credit: 株式会社ElevationSpace

―両社とも、非常に興味深く壮大なビジョンがあり、聞いているだけでワクワクします。

鈴木氏 宇宙実験、宇宙産業の構築、と言うとハードルが高く聞こえるかもしれませんが、まずはやってみないと何も分かりませんから、ElevationSpaceの手軽な実験インフラをどんどん生かしていきたいです。私たちとしては、こんな実験ができてこんな成果が生まれるのだということを示して、人々が宇宙開発のイメージを沸かせられるようになり、どんどん宇宙に参入してもらえるようになればと思っています。

以上、株式会社ユーグレナの鈴木氏と株式会社ElevationSpaceの小林氏のインタビューでした。日本の民間2社による宇宙実験がもう間もなく始まり、その先には人類の宇宙での生活という壮大な構想があるとのことで、とてもワクワクするお話でした。今後の2社の取り組みに注目です。

■株式会社ElevationSpace

https://elevation-space.com/

■株式会社ユーグレナ

https://www.euglena.jp/


                                      SPACE Media 編集部