極限環境での高速回転を実現 – ベアリング技術で宇宙開発を支えるNTN株式会社

大量のガスを噴射しながら打ち上がるロケット。そのエンジンには、高圧の燃焼室に大量の推進剤を送るためのターボポンプが欠かせません。ターボポンプの回転数は約4rpm (1秒間に約700回転) にもなり、軸受(ベアリング)と呼ばれる部品がその高速回転を支えています。今回は、ベアリングの技術から宇宙産業を支えるNTN株式会社の産業機械事業本部 航空宇宙技術部 中村智也氏と経営戦略本部 広報・IR部 堀江貴志氏にお話を伺いました。

ベアリングメーカー・NTN株式会社とは

―本日はよろしくお願いします。初めに、ベアリングとはどのような部品なのでしょうか? 

堀江氏 ベアリングとは、荷重を受けながら回転する軸を支える部品です。多くの工業製品に回転部分がありますが、それらを支えるのがベアリングです。

ベアリングには内輪と外輪の2つのリングがあり、その間にはボールやころなど、転動体と呼ばれる転がるものが置かれ、さらに転動体が転がりやすいように潤滑剤が満たされています。内輪に軸をはめこんで使用します。

 

摩擦の発生を抑えて軸の回転をスムーズにすることで、回転に必要なエネルギーを少なくするという役割があり、工業製品には欠かせません。そのため、産業のコメとも呼ばれています。大きさも様々で、小さいものでは直径数ミリ、大きいものでは風車に用いられる直径数メートル以上のベアリングもあります。

ベアリングの構造

Credit: NTN株式会社

NTN株式会社ではベアリング技術をコアに研究開発・生産・販売を行っているとのことですが、歴史や事業概要についてお聞きしてもよろしいでしょうか?

堀江氏 1918年に三重県の桑名市で創業しました。最初は精米機の製造をしており、ベアリングの修理も行っていました。当時、ベアリングはすべて外国から輸入しており、高価なものでした。そこで、ベアリングを国産化して安く作ることで日本産業の発展に貢献していきたいという創業者たちの想いから、0からベアリング開発に挑戦しました。当時の創業者たちの開拓者精神と共存共栄精神は現在の企業理念にも通じています。そして、その理念に基づき、現在は人と自然が調和し、人々が安心して豊かに暮らせる「なめらかな社会」の実現を目指して、事業活動を行っています。

現在では約30カ国に200カ所以上の拠点を持ち、ベアリングの世界シェアは4位、自動車用のハブベアリング (タイヤの回転を支えるベアリング)とドライブシャフト (エンジンやモータの動力をタイヤに伝える部品) ではそれぞれ世界シェア1位と2位を占めています。

日本の宇宙産業を支えるNTNのベアリング

―御社のベアリングは、宇宙産業においてどのように用いられるのでしょうか?

堀江氏 一つは人工衛星や探査機に使われるベアリングです。高い真空度、放射線への暴露、激しい温度変化という条件でも高い信頼性を実現する必要があり、はやぶさの太陽光パネルを展開するための関節部位などにも使用されています。また、ロケットでは推進剤を高圧にする装置であるターボポンプが必要で、ここにもベアリングが使われています。液体水素燃料が満たされている極低温の環境で超高速回転を実現しなければなりません。

ロケットエンジンのターボポンプに使用されるベアリング
Credit: NTN株式会社

―宇宙産業用のベアリング開発にはいつから取り組み始めたのでしょうか? 

堀江氏 まず、1986年に、日本初の航空宇宙用ベアリングの専用工場を三重県桑名市に建設しました。その後、NTNのベアリングを使用したH-Ⅰロケットの1号機が打ち上げに成功し、その後もH-Ⅱ、H-A/BロケットでもNTNのベアリングを使用いただきました。その間に、航空宇宙産業界向けの品質マネジメントシステム「JIS Q 9100」の認証を、国内のベアリングメーカーとして初めて取得しました。

―宇宙産業用のベアリング開発の魅力はなんでしょうか? 

中村氏 例えばロケットエンジンの場合、ターボポンプのベアリングが壊れてしまったら推進剤を送り込めなくなり、打上げ失敗となってしまいます。非常に重要な部品で、また開発の難易度も高いです。しかし、それだけに開発に成功できた時は非常にうれしいです。苦労の甲斐があったな、と思います。

―特に難しいと感じるのはどのような点でしょうか?

中村氏 この産業に特有の難しさは2点あります。一つは、製品にするまでのプロセスが長いということです。信頼性の高い製品を開発することと、その品質を確保できる生産体制を確立する必要があり、その道のりが長くて大変です。もう一つは、実際の使用環境を再現することが難しいということです。真空環境とか、大きな温度変化など、地上で再現するのが困難な条件でも問題なく作動するかを確かめなければなりません。

―現在、セラミックスを使用した航空宇宙向けベアリングを開発していると伺いました。これはどのような利点があるのでしょうか?

中村氏 ボールにセラミックスを使用したベアリングを開発しています。通常はボールの材料に金属を用いているのですが、セラミックスを用いることで軽くなって遠心力が小さくなり、それによってベアリング内の摩擦を抑制することができます。また、内輪や外輪と異なる材料にすることで焼付きにくくすることができます。すると、いままでよりも速く回転させることが可能となり、ポンプの直径を小さくできる、すなわち機械全体を小型化することができます。

 

これからのNTN

―これまで培ってきたベアリングの技術を生かして製品開発や製造をしていくにあたり、具体的にどのように顧客と関わっているのでしょうか? 

中村氏 航空宇宙産業に関して言えば、JAXA様との関わりを大切にしています。例えば、月面用のベアリングについて先行して技術開発をしておき、学会発表などでその取り組みを発信します。最近では、JAXA様とのコネクションを通じてインターステラテクノロジズ様のターボポンプ開発の案件をいただくことができました。またJAXA様とのつながりを強くするために、NTNから角田宇宙センターに出向者を出すなど、積極的に技術交流をしています。

ISTのZERO
Credit: インターステラテクノロジズ株式会社


―これからの宇宙産業にどのように貢献していきたいと考えていますでしょうか? 

中村氏 いま、国内外でロケット開発が盛り上がっています。そして、ターボポンプは変わらず必要なものですが、求められる機能や品質は変わっていきます。過剰品質ではない、適正な品質と適正なコストで提供できるようなものづくりをしていきたいです。ロケットの事故は人命に直接かかわりますし、周辺にも大きな影響を与えるので、トラブルを起こしてはいけません。ベアリングの研究開発を通じて、安全な宇宙へのアクセスの一助になりたいと思っています。
SPACEMedia編集部