人工衛星などの宇宙機と地上との通信を担い、縁の下の力持ちともいえる「地上局」は、宇宙ビジネスを支える基盤の一つです。
ノルウェー・トロムソで1967年に地上局の運営を始めたKSATは、世界中に400基以上の衛星通信用アンテナを設置し、地球観測衛星や通信衛星コンステレーションなどの運用サービスを提供する企業です。
長く日本でもビジネスをしてきた同社は2024年に日本オフィスを開設。開設当初から日本カントリーマネージャーを務めるケネス・オラフソン氏に、KSATの事業内容や日本・アジア市場での展開について聞きました。

KSATアジア統括責任者 兼 KSATジャパン 代表取締役
アジア太平洋地域(APAC)を重点領域および担当地域とするグローバルビジネスの専門家。過去27年にわたりアジア各地で活動を続け、国境や時差を越えた新たな連携の機会を模索し続けてきた。KSATでは、16年以上にわたり事業およびセールスのディレクターとして、欧州、米国、APACを対象に、リモートセンシング、衛星通信、航法(ナビゲーション)といった幅広い分野を担当。KSATへの参画以前は、欧州のテクノロジーおよび製造業界でさまざまな事業ポジションを歴任した。
宇宙への情熱を原動力に、宇宙と地球を結ぶ重要な「コネクティビティ(接続性)」を通じて、人々の持続可能性と繁栄に貢献することを目指している。新たな技術や世界の未知なる領域の探求を愛し、現在は、KSATの日本での新たな章を切り開こうとしている。
目次
政府機関から商業プレイヤーへ ノルウェー生まれの地上局運営会社
― KSATはどのような事業を展開している会社ですか。
オラフソン氏:ノルウェー・トロムソを拠点に1967年に設立し、現在グローバルにビジネス展開をする会社で、地上局の運営とミッション運用サービスを主な事業としています。来年に設立60周年を迎えます。もともとは政府機関でしたが、2002年に商業化し、親会社であるコングスベルグの下で事業を拡大してきました。
KSATは1995年に海洋監視サービスを開始し、サービスの幅を広げてきました。データをほぼリアルタイムで得られる環境を提供できることが私たちの強みです。
― 主力サービスにはどのようなものがありますか。
オラフソン氏:代表的なサービスは10年ほど前から提供を開始した「KSATlite」です。小型衛星から衛星コンステレーションまで幅広く対応できるようよう標準化されており、クラウドベースのソフトウェアとして提供しています。従来は個別の要件に応じてシステムを構築するのが一般的でしたが、これを標準化したことはサービス提供当時は画期的なことでした。KSATliteを通じてお客さまの衛星の運用を担うことが私たちのビジネスの中心となりますが、いかにお客さまの運用を楽に、スピーディにするか、そして業界パートナーの皆さんと組んで新たな価値を作り出すことを常に意識してきました。
― 早くから手がけてきた海洋監視サービスは、海洋国家である日本でのニーズも高そうです。
オラフソン氏:これはもともと環境保護の観点から始まったサービスで、石油流出や森林減少といった環境破壊のモニタリングを目的として成長してきました。一方で、近年は日本に限らずどの国でも防衛や安全保障の観点からのニーズが高まっています。こうしたニーズに応えるためにはより多くのセンサーや衛星が求められることになりますが、迅速でレイテンシーの低いデータ提供に向け、私たちがもつ地上局や海上サービスを組み合わせることで貢献できるのではないかと考えています。
LEOでの通信から月へ 「次の50年」を見据えて投資を決断
― 地球低軌道(LEO)以外のサービス構築も進めているそうですね。
オラフソン氏:KSATliteで培ったLEOでのサービスに続き、地球から月にかけての領域(シスルナ領域)と月面をカバーする「KSAT Lunar」の開発を進めています。また、地上局の運用に加えて衛星間の中継ネットワークを構築する「Hyper」というサービスも開発中です。地上局の運用だけでなく、衛星運用全体のマネジメントをエンドツーエンドで提供するサービス体制を築きたいと考えています。
パイオニアであることは私たちのDNAであり、そのために継続的な投資を大切にしてきました。衛星の運用にかかわる企業はほかにもありますが、地上局、データ中継、ミッション管制など個別サービスの提供が多く、バリューチェーン全体をカバーできるプレイヤーは多くありません。この点をKSATが担っていこうとしているのです。
― 月関連のビジネスは事業化までにかなりの時間がかかる印象です。「KSAT Lunar」への投資に至った背景は何でしょうか。
オラフソン氏:KSATは3年前にシスルナ領域向けのサービス開発への投資を決めました。次の市場を狙うというより、次の50年を見据えた投資と位置づけています。月通信用のアンテナ建設だけでも3年ほどかかるため、短期的な収益を目的とした投資ではありません。
現在は民間による月面着陸への挑戦は発展途上の段階ですが、LEOへの衛星打上げが日常化してきたように、月領域でもいかに早く技術を成熟させ、ルーティン化させるかが今後のカギになると考えています。

日本の宇宙市場の見立てとAPACへの展開
― 日本の宇宙ビジネス市場をどのようにとらえていますか。
オラフソン氏:日本の航空宇宙産業は成熟しており、KSATは約25年前から日本でビジネスを行ってきました。商業面だけでなく、ノルウェーと日本の政府間関係の強化にも貢献してきたと考えています。2024年に日本オフィスを開設し、私自身が日本を拠点に活動することは、次の成長段階に向けた足がかりだととらえています。
― 日本での事業を進めるうえで重視していることはありますか。
オラフソン氏:日本市場、そしてお客さまは非常に信頼できるパートナーだととらえており、ノルウェーと日本の政府間の関係も強固なものです。私たちはビジネスに加えて外交面でも貢献したいと考えており、そのためには日本の商習慣や文化を理解する人材が現地にいることが重要です。今後採用を進め、体制を強化していきたいと考えています。
― 日本を足がかりに、他のアジア太平洋(APAC)地域への展開も視野に入れていますか。
オラフソン氏:もちろんです。宇宙産業自体、全世界で急速に成長している分野なので、その勢いにどう乗るかは常に意識しています。日本オフィスの設立は大きな投資判断でしたが、親会社であるコングスベルグが世界各地に拠点をもっているため、例えばオーストラリアの拠点などとも連携しながら、APAC地域への展開を検討していきます。

日本のパートナーへの期待 互いの強みを持ち寄り、新たな価値を
― 日本のパートナー企業に期待することを教えてください。
オラフソン氏:技術開発、需要の開拓、どちらの分野でも一緒に取り組めるパートナーを探しています。ノルウェーと日本はともに大国ではありませんが、ノルウェーにはニッチ領域に特化した技術があり、日本にはさまざまな分野での量産に関する実績があります。両国は互いに補完し合える部分が多いと考えています。グローバルな視野をもちながら、それぞれの強みを組み合わせて何かできることを探していきたいと思います。
― 最後に、KSATとして目指す方向性を教えてください。
オラフソン氏:信頼性が高く、スピーディーで、常に新しいことに挑戦する。この3つを大切にしながら成長を続けていきたいと考えています。日本を含むAPAC市場においても、その姿勢を軸にパートナーとの関係を広げていきたいと思っています。
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