鳥取砂丘が月面に!?~月面実証地としての可能性~

 2022年12月11日、米国・ケープカナベラルから、ある探査機が打上げられました。日本の航空宇宙企業、ispace社が開発した月面探査機「HAKUTO-R」です。HAKUTO-Rは民間初の月面着陸を目指して宇宙へと旅立ちましたが、このように、月面での活動を目指す宇宙開発企業が近年増加しています。

 一方、月面の環境は、地球とは何もかもが違います。大気がほとんど存在しないため昼と夜の気温差が200度ある厳しい温度環境のほか、細かい粒子を持つ軟らかい砂のレゴリスなど、地球上とは違う環境に対して用意周到な実証試験が求められます。そんななか国内で注目されているのが、鳥取県鳥取市の「鳥取砂丘」です。

鳥取砂丘月面化プロジェクト

 月面探査計画を含め、あらゆる宇宙ミッションでは、本番の環境に近い場所での実証試験が不可欠です。初めて人類を月に送り出したアポロ計画では、月と地質が似ているアイスランドの「地上類似施設」での実験が行われていました。

 鳥取砂丘は、風化した花崗岩が砂となり、日本海岸沿いに堆積して形成された巨大な砂丘です。砂による害もあるために古くは”不毛の厄介者”とされてきた場所ですが、これほどに広大で月のような起伏がある砂地は日本国内には他になく、月面探査の実証地として国内でこれほど最適な場所はありません。

 こうした需要に答えて計画された月面環境実証フィールドは、鳥取砂丘内の国立公園に隣接する鳥取大学乾燥地研究センターの敷地を建設予定地とし、規模は全体面積1haが予定されています。

 様々な試験を行える「疑似月面環境実証フィールド」内には、平面ゾーン、0~20度の傾斜がある斜面ゾーン、そして自由に利用者が掘削、造成が可能な自由設計ゾーンが設定され、あらゆる場面を想定した実証実験が可能になります。

 また、鳥取県の主要産業である建設産業を活かした「建設技術実証フィールド」も設置される予定であり、形状を変えて繰り返し使える砂の特性を活用した新たな建設技術実証のほか、IoTを中心とする先進技術の実証の場になる予定です。現在進んでいるアルテミス計画では月面での居住も大きなテーマとなるため、月面基地の建設実証地にもなるかもしれません。

「月面」鳥取砂丘を利用するとしたら?

 鳥取砂丘でも、以下のような実証実験が考えられます。

月のレゴリス影響下を想定した運用試験

 月には鋭利で細かな砂、月のレゴリスが大量に堆積しています。このレゴリスは微小な水素を含み、酸素、水、金属の原料になる可能性があり研究が進んでいますが、別の側面があります。レゴリスが生み出す「砂地」は、月面探査機や探査車のエンジンやタイヤの回転の影響を受けて舞い上がったり、機械の故障の原因になったりします。小惑星リュウグウから試料を日本に持ち帰った探査機はやぶさ2も、試料採取の際に舞い上がった小惑星のレゴリスがカメラに付着し、性能が低下するというトラブルがありました。

 月面に似た起伏のある砂地で探査機の着陸や走行を行うことで、砂の影響が少ない探査機開発や、本番の時に起こりうるトラブルの予測を行うことができます。

はやぶさ2が小惑星リュウグウに着地した際に舞い上がったレゴリス。
月や小惑星に堆積するレゴリスは、探査機に大きな影響を与えることがある。
Credit: JAXA

砂を利用した月面基地の建設実験

 今後行われる大規模な月探査であるアルテミス計画では、月での滞在が重要なキーワードとなります。滞在には当然「家」が必要です。しかし、月は昼と夜で200度の温度差があり、大量の放射線が降り注ぐ世界。地球上と同じ普通の家では、宇宙服を脱いで安心して滞在することはできません。更に月へ送り出すことができる物資の量は限られており、地球から建材すべてをそのまま持っていくことはほとんど不可能です。そこで、月環境下で最低限の物資で基地を造る方法が模索されています。

 月に降り注ぐ放射線を防ぐため、基地を砂の中に埋める、建設した基地の上から砂をかぶせる、土嚢を作るといった構想がなされています。また、レゴリスそのものを加工、成形し建材として利用する案もあります。

 こうした砂環境下での建設の実証を鳥取砂丘で行うことで、月面環境下での建設で考慮すべき課題などが見えてくるかもしれません。

ESAが発表した月面基地のアイデアの一つ。レゴリスに覆われた基地が見える。
手前に見えるのは、レゴリスを材料とするインクで物を作成できるロボット3Dプリンター。
Credit: ESA/Foster + Partners

 月面探査計画を思い浮かべるとき、真っ先に探査機や宇宙船などを思い浮かべてしまいますが、今回の鳥取砂丘での取り組みのような、現地を想定した実証実験がなければ、その探査機や宇宙船が月面で正常に動作する保証をすることができません。このような実証フィールドの存在は、日本の月面開発を大きく後押ししてくれます。

 2022年11月16日には、米国が主導するアルテミス計画の第一弾、アルテミスⅠとしてOrion宇宙船が打上げられるなど、人類の月面探査が活発化し、有人月面探査の本番も近づいてきています。日本の月面探査機「YAOKI」の開発企業である株式会社ダイモン社は、トヨタ自動車株式会社とJAXAと共同で、月面有人与圧ローバ(月面探査車)である「LUNAR CRUISER」の開発を発表しているなど、存在感を出している日本。

 昨今、月面は大きなビジネスチャンスになっていくでしょう。

<参考文献>

鳥取県 – 鳥取砂丘月面化プロジェクト

https://www.pref.tottori.lg.jp/302515.htm