オンリーワンの衛星データを提供し、社会とビジネスの課題を解く Marble Visionsの事業戦略

オンリーワンの衛星データを提供し、社会とビジネスの課題を解く Marble Visionsの事業戦略

NTTデータの子会社として設立、後にパスコ、キヤノン電子が参画したMarble Visions。

“垂直統合型衛星ビジネス”を掲げ、衛星開発からソリューション提供までを一気通貫で手がけるビジネスの構築を目指しています。

第一期宇宙戦略基金にも採択され、衛星開発と事業開発を同時並行で進める同社が目指す、衛星データを活用した社会課題の解決と4D(3D+時間軸)デジタルツインの将来像について聞きました。


若松健司(わかまつ・けんじ)
株式会社Marble Visions 事業推進部長
衛星リモートセンシング分野における事業開発・研究開発のエキスパート。NTTデータにて画像認識の研究開発に従事後、1999年に衛星ビジネスを企画。2004年より、内閣衛星情報センターでの地上システム開発を経て、再びNTTデータにおいてAW3D事業の立ち上げを主導。2019年からは、リモート・センシング技術センターにおいてソリューション事業を展開。現在は長年の経験を活かし、Marble Visionsの事業推進責任者として、新たな衛星ソリューション事業の創出を牽引。
本間さや香(ほんま・さやか)
株式会社Marble Visions 事業推進部 担当部長
NTTデータにて地理情報システム(GIS)の営業を経て、2014年より衛星3D地図「AW3D」の営業・マーケティング・パートナー開拓を担当。政府・自治体、建設・土木業界への衛星データ事業を拡大し、同分野の基盤を築く。2024年からはMarble Visionsに参画し、自社衛星による垂直統合ソリューションを中核に、新たな市場開拓と事業成長を牽引している。

デジタル3D地図「AW3D®」での蓄積から、「より現場に寄り添う」衛星データ提供を目指す

あらゆる産業領域で情報システムの開発・運用などを手がけるNTTデータが2024年に設立した宇宙スタートアップ、Marble Visions。

同社は、NTTデータによるデジタル3D地図サービス『AW3D』 を事業のベースとしながら、これをさらに高度化する構想として、「解像度40cm・高頻度・3D」の衛星データを自社で取得、ソリューションまで一貫して提供することを目指し、2029年度までに8機の衛星によるコンステレーション『MarVi(マーヴィ)』を構築することを掲げています。

「2機を1セットとして立体視的に取得した画像をもとに3D地図を作成することに加え、高頻度に画像を取得し続けることで、経時的な変化もわかる『4D』化を実現する計画です」(若松氏)

同社にとって、「解像度40cm・高頻度・3D」のスペックは譲れないところだといいます。

「衛星データを活用した3D地図ソリューションに関しては日・米・欧の3陣営あると認識しています。米欧のサービスは安全保障ニーズに特化したものであることに対して、私たちはNTTデータ時代から130カ国・4,000件以上に及ぶ『AW3D』のプロジェクトを通し、民生領域であらゆる事例と知見を蓄積してきました。他陣営と比べて民生ニーズを深く理解していることが私たちの強みです」(本間氏)

高解像度・高頻度・3D(4D)の衛星データが取得できるとどんな変化が起きるか、という問いに、「ビジネスの意思決定がより迅速になり、また業務負荷軽減が見込めることが大きなメリットです」と本間氏は答えます。

Marble Visionsの本間氏は、業務負担の軽減、意思決定の迅速化が衛星データ活用の大きな価値だと語ります

「どんなに遠くても、危険でも、現地に行かなければならないことはさまざまな業務の現場に存在します。AW3Dでは、現地に行かなくても現場の状況が今より正確にわかるようになり、物理的な距離というハードルを越えました。ですが、3Dデータは発注から提供までに数カ月かかるという“時期”の課題が残りました。MarViが実現すれば、世界を可視化したデータが数日もしくは数時間で手に入り、状況の把握や精密なシミュレーションができるようなります」(本間氏)

データは国土管理、都市計画、インフラ管理、交通、農業・森林、防災、環境など多様な社会ニーズに対応できるもので、中でも「防災領域との親和性は高い」と語ります。

「これまでは、衛星スペックがニーズに合致せず現場の状態が見づらい、撮りたいタイミングで衛星が対応できる位置にいないなどの課題がありました。8機体制はこの課題を克服するものです。私たちは、国内の災害に関しては100%撮影を行う予定です。被災情報を即時に取得、解析し、現況把握と意思決定、復旧計画の策定に役立てたい。『あのとき、被災状況がすぐにわかったから助かった、助けられた』といった方々を増やせると思っています」(本間氏)

ユーザー目線で「ほしい衛星」をつくる 垂直統合モデルを選ぶ理由

衛星ビジネス領域では衛星を製造する事業者と衛星データを提供・解析する事業者とに大きく分かれ、それぞれが独自に成長してきました。衛星開発とデータ利用の間にギャップがあることがMarble Visionsの課題意識です。

「私たちはNTTデータ時代から衛星データを解析し、ソリューションとして提供してきました。データを使う側だからこそ、『こういうデータが取れる衛星がほしい』『衛星をこうやって運用できればよいのに』と感じることは多く、10年以上、話し合いを重ねてきました。その中で温めてきたのが、衛星開発から取り組む事業構想なのです」(若松氏)

長年衛星データを使用したプロダクトを提供してきたからこそ、求めるデータを得るために必要な衛星のスペックがわかると話す若松氏

同社には、衛星製造を手がけるキヤノン電子、地上局運用のノウハウをもつパスコが資本参画し、2025年2月にジョイントベンチャーの新体制を発表しました。衛星画像の処理・解析ニーズをふまえた人工衛星の設計・製造、自社システムによる迅速かつ柔軟な衛星運用、高精度3D生成技術を強みとしたデータ解析、衛星データ活用サービスの提供までを一貫して手がける「垂直統合型」のビジネスを志向しています。

「我々のミッション要求書には、ユーザーの声がたくさん書かれています。これだけ書き込んでいる会社はおそらくないのではないか」と2人は話します。

「データを使う側にいることは、ユーザーに近いところにいることでもあります。ユーザーの声を生かした衛星をつくり、その声を反映した衛星の運用をしようというのが私たちのスタート地点。ユーザーの切実なニーズを取り込み、マーケットインで事業を進めていきます」(本間氏)

宇宙戦略基金採択を受けて進む8機体制の開発と、9機目以降の構想

同社は宇宙戦略基金(第一期)で「高分解能・高頻度な光学衛星観測システム」に採択されました。これはある意味、2023年に喪失した『だいち3号(ALOS-3)』の後継を開発することでもあります。

「宇宙戦略基金は非常に大きな後押しになっていますし、日本のデジタル3D地図は世界に誇れる技術のひとつという流れができたと感じています。官需にも民需にも対応していく考えです」(若松氏)

衛星製造は巨額の投資が先行する領域ですが、基金に採択されたこともあり、当初予定の8機製造の目処はついているとのことです。現在は9機目以降の製造に向けて資金調達を進めており、9機目以降は機数増加や多様なセンサーの搭載を検討し、さらに付加価値の高い観測を実現することを目指しています。

「今後はセンサーの多様化を通じて、環境やシーンに応じた情報取得の高度化を進めていく考えです。これにより、光学カメラ単体では捉えにくい情報にも対応できる可能性が広がります。つまり、非常に精度の高い3次元衛星観測の体制が構築できると期待しています」(若松氏)

MarViの1〜8号機として計画されている衛星システムの仕様。同社は多様な産業領域に活用できる衛星データを取得するために機能の検討を重ねてきました
提供:株式会社Marble Visions

MarViは2027年から2029年までに順次打上げを予定。この間に宇宙業界のエコシステムの中で「衛星データの利用者」の層を広げていくことがビジネス拡大のための重要なステップです。同社では今、「仲間づくり」が進んでいます。

「一方的に提供するのではなく、使いやすい形にすることが私たちのこだわりです。アプリケーション業者と組むことは不可欠だと考えます。たとえばシステム開発事業者、あるいは流体解析のシミュレーション会社、森林資源管理を専門とする会社の方々との共創を描いています」(本間氏)

オンリーワンの衛星から得られるデータを、社会のあらゆる課題解決に

衛星データの利用拡大のためには、アプリケーション側で「どれだけ活用されるか」も重要です。そうしたデータ利活用のプラットフォームを構築することも構想中だとする同社。

「衛星データを元にした3D地図がブラウザ上で簡単に、即座に生成でき、ダウンロードもできる。こうしたサービスを目指しています。『これなら洪水シミュレーションがもっと高頻度でできる』といった変化を実感いただけるようにしていきます」(本間氏)

また、データを活用してもらうには、その前提としてデータの精度が高いことも求められます。同社では、業界のさまざまな機関との連携を通じて、データの精度を担保するための検証にも取り組んでいく方針です。

展示会などで飾られている衛星のモックアップ。細部の仕様は現在開発が進んでいるものとは異なるということですが、同社に参画しているキヤノン電子の開発した衛星がベースとなるということです

そして将来的には、MarViで撮ったデータをもとに地域・都市レベルのデジタルツインの構築を目指します。

「広域を捉えるのが得意という衛星の特性上、まずは都道府県レベルのエリアになるかと思いますが、徐々に地域を絞った“現場”レベルのデジタルツインができるようにしていきたいです。土木工事、農業、林業……どんな現場にも実践的なソリューションを展開できたとき、ようやく私たちがやりたい世界が実現できたと思えるはず。私も楽しみです」(若松氏)

世界をあまねく撮像し、3D、4Dの地図に落とし込んでいく……こうしたビジネスはさまざまな業種・業界での活用が期待できますが、社会のインフラとして薄く広く収益を得ていくのか、それとも、データの付加価値を高めた高収益モデルをねらうのか。若松氏は、社として前者を想定してビジネスを組み立てていくと語ります。

そして、本間氏は「Marble Visionsは、衛星データは社会課題の解決に今以上に役立てるはず、という思いで日々事業を行っています」と続けます。

「私たちは、オンリーワンの技術で価値を提供したいと考えています。日本の技術を詰め込んだ衛星をつくれれば、ユーザーがこれまで見たことのない画像を提供できると信じています。ユーザーにとって本当に有用で影響力のある技術や仕組みを追求、実現します」(本間氏)

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