寺薗淳也の月刊・宇宙ニュース解説【2026年7月】

寺薗淳也の月刊・宇宙ニュース解説【2026年7月】

長年、宇宙開発やそのアウトリーチに携わる寺薗淳也氏が、前月にSPACE Mediaで紹介したニュースの中から注目すべきトピックを取り上げるニュース解説コーナー。

第2回目の今回は、2026年7月にSPACE Mediaで掲載したニュースの中から、ispaceの月着陸機のH3ロケットでの輸送と、日本のJAMSSと米Starlabの提携に関する話題をピックアップします。

地球低軌道(LEO)と月、2つの領域で日本の宇宙企業はどのように存在感を示すことができるでしょうか。


ispace、2028年の月着陸船打上げにH3ロケット採用 日本企業による月面輸送システムの構築を目指す(7/30公開)

ニュースの要点

日本の月輸送企業ispaceが開発する次期月着陸機をH3ロケットで打ち上げることに、同社と三菱重工が合意しました

ここがポイント!

日本の月探査機を日本のロケットで打ち上げる…このニュースを、全体的な面、ispaceから見た面、そしてH3ロケットから見た面、3つの方向から分解していきましょう。

まず全体的な面ですが、今回H3での打ち上げが予定されているispaceの次世代着陸機「ULTRA(ウルトラ)」は、SBIR(中小企業技術革新制度)の支援を得て開発されるものです。有り体にいえば日本国の税金を使って開発されるわけです。その打ち上げを日本のロケットで行うことで、月輸送に関してお金が国内循環する(海外のロケットに打ち上げ費用が流れない)枠組みが確立されることになります。

次に、ispaceの事情をみていきましょう。

このところのispaceをよくみてみると、かなり激しい動きをみせていることがわかります。プレスリリースだけみてもその動きが急であることがわかります。

これらのリリースを読み込んでいくと、従来のispaceの姿、すなわち「月面着陸機・ローバーを開発し、月への物資輸送を行う」というだけではなく、より多方面にビジネス領域を広げていこうという意欲がみえます。

すなわち、物資輸送はStarShip(スターシップ)をはじめとして複数・多様なサービスを提供、ispaceの事業範囲も月輸送だけではなく月面インフラ構築・提供まで広げていく。

次世代着陸機の開発を見据え、さらにその先、つまりより多様な輸送サービスや、おそらくは進んでいるであろう有人月面拠点に向けたインフラ構築が必要となるという判断かと思われます。

そして、H3の事情です。

H3ロケットは8月11日に9号機の打ち上げが成功し、7機成功、2機失敗(成功率78%)です。まだ9機なのでここで結論を出すのは早計ですが、今のところ決して成功率が高いとはいえません。

成功率を高めるためには、打ち上げを続けて改良を重ね、ロケット自体を成熟させていくことが必要です。そのためには打ち上げ需要を、特に海外から取り込んでいくことが要となります。

その点、今まさに需要が高まっている月面輸送をH3の売りとできれば、世界で打ち上げを事実上独占しているFalcon 9(ファルコン9)に対しても、「日本製の信頼」を売りにライバルとしての名乗りを上げられるかもしれません。

また、アメリカのCLPS打ち上げについても、同盟国からの打ち上げという点で期待できます。

折しも、SpaceXはFalcon 9での衛星打ち上げを縮小し、StarShipへと移行するとの報道も出ています。小型衛星や月面輸送などでロケット打ち上げの需要は急増しています。H3ロケットを含む日本のロケットが世界の需要を取り込み、「日本の信頼できるロケット打ち上げビジネス」として成り立っていく、今回の打ち上げ決定がその狼煙となることを期待したいです。

JAMSS、宇宙ステーション開発のVastと戦略的MOUを締結(7/8公開)

ニュースの要点

日本のJAMSSが、アメリカの民間宇宙ステーション企業Vastと提携、民間宇宙ステーションでの研究開発支援や新規事業創出をJAMSSが支援します

ここがポイント!

SPACE Mediaの読者の中には、宇宙開発に興味を持っているけどまだ情報を集めきれていないという方もいらっしゃるかと思います。そこで、まずこの記事に出てくるJAMSS(ジャムス)から説明しましょう。

JAMSSは日本語名では有人宇宙システム株式会社。その名の通り、日本の有人飛行において、管制や乗員支援といったサービスを提供することがコアビジネスです。

設立は1990年5月と、日本の宇宙企業としては大変長い歴史を持ちます。ちょうどこの時期は日本人が初めてスペースシャトルでの有人飛行に挑むということで、有人宇宙開発の知識、さらには運用経験が求められる頃でした。同社は当時の宇宙開発事業団(NASDA)と協力してこういったノウハウを着実に積み重ね、現在のISS日本実験棟の運用の他、実験の手配、安全審査など、有人宇宙開発に関わるあらゆる支援業務を実施してきました。

しかし、2030年にも予定されているISSの運用終了、そして来たるべき民間宇宙ステーション時代に向けて、JAMSSとしても業容の多角化に加え、これまでのノウハウの蓄積を活かした民間宇宙ステーションビジネスへの参入を目指しています。まさに今回の発表はJAMSSの面目躍如といった感じです。

一方で、民間宇宙ステーションの状況についても触れていきたいと思います。
現時点では、民間宇宙ステーションは以下の3社が抜きん出ています。 

  • Axiom Space(アクシオム・スペース)… Axiom Station(アクシオム・ステーション)
  • Vast(ヴァスト)… Haven-1(ヘイブン・ワン)
  • Voyager(ボイジャー)… Starlab(スターラブ)

となっています。

今回の記事にあるVastは、昨年12月に宇宙飛行士の山崎直子氏が日本支社のゼネラルマネージャーに就任したというニュースでも名前が出ています(参考記事)。

VastのHaven-1は最も早く打ち上げられることが期待されている宇宙ステーションです。最速で2027年第1四半期の打ち上げが予定され、ISS引退後、有人宇宙滞在を引き継ぐ最有力候補として注目されています。JAMSSとして、つまり日本企業として、これまで培ったノウハウを活かした支援を行うというのはまさにタイムリーな発表といえるでしょう。

日本企業と民間宇宙ステーション企業との提携としては、DigitalBlastが先日、Starlabの利用に関する予約契約を締結しました(参考記事)。ポストISSに向けて日本企業の動きも活発になってきています。

執筆者プロフィール

寺薗 淳也(てらぞの・じゅんや)

1967年東京都生まれ。名古屋大学卒。東京大学大学院博士課程中退。宇宙開発事業団、宇宙航空研究開発機構、(財)日本宇宙フォーラム、会津大学、情報通信研究機構(NICT)(デュアルワーク)、USP研究所(デュアルワーク)を経て、現在自身の合同会社の代表。NPO法人日本火星協会理事。一般社団法人宙ツーリズム推進協議会理事。一般社団法人ABLab理事。明星大学理工学部非常勤講師。一般社団法人宇宙エレベータ協会顧問。株式会社うちゅう顧問。株式会社SpaceBlast・Space Open Innovation Center ゼネラルマネージャー。専門は惑星科学、情報科学。月・惑星探査を中心とした情報システムの構築などを専門としている。また、月・惑星探査の普及啓発などにも努めている。月探査情報ステーション編集長。ラーメンとねこと西部警察を愛する。

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