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【学生必見】宇宙開発に携わるための学部・学科選びについて徹底解説

宇宙に関わる仕事がしたい! と思っている中高生の方は多いのではないでしょうか。いや、この記事を読んでいるということは、既にあなたは宇宙に興味がある方でしょう。

この記事は、将来宇宙開発に携わるにはどのような進路を選択したら良いかをテーマに、大学での学びについて解説していきます。
※なお、今回は「宇宙開発」にフォーカスしていますが、宇宙物理学や天文学についてはまた別の記事で紹介していきます。

具体的には、
・宇宙開発に携わるなら工学部、理工学部がオススメ
・宇宙航空工学は幅広い工学分野を扱うことになる
・それ以外の学部学科でも宇宙開発には携われる

以上について解説します。

それでは詳しく見ていきましょう。

宇宙開発に携わるなら工学部と理工学部がオススメ

一般的に、大学は学部に分かれさらに学科に分かれています。そして、宇宙に関することが学べそうな学部/学科を調べると、「理学部 天文学科」「理学部 地球惑星科学科」や「工学部 航空宇宙工学科」「工学部 機械・航空宇宙工学科」など、いろいろな名前があります。

しかし、どの大学でも「理学部」か「工学部」、または「理工学部」という分類の中にあるようです。

この「理学」と「工学」の違いは何でしょうか?
宇宙に関して学べることに違いはあるのでしょうか?

理学

理学のイメージ画像

理学、すなわちサイエンスは、世の中の現象の原理や仕組みについて解き明かしていく学問です。つまり、宇宙はどうやって始まったのか、宇宙は何でできているのか、何が起こっているのか、ブラックホールの構造はどのようになっているのか、そういったことを解明していきます。

工学

工学のイメージ画像

一方で工学、すなわちエンジニアリングは、世のためになる技術を開発していく学問です。例えばロケットは化学反応のエネルギーで推進力を得て、厳しい力に耐える軽量な構造を持ち、エンジンの超高温に耐えながら、緻密な制御を駆使して目標の軌道まで飛行します。これらはすべて、科学の原理を応用して人間が創り出した技術です。

理学と工学まとめ

一言でいえば、「自然の真理に近づいていく」のが理学で、「科学を応用して役に立つモノを生み出していく」のが工学です。理学部と工学部で学ぶ学問にはこのような違いがあります。

理工学部では、そのどちらも学ぶ機会があるということになります。すなわち、宇宙開発について直接学ぶためには、工学部か理工学部に進学して航空宇宙工学を学ぶのが良い、ということになります。

工学部・理工学部で学べる『航空宇宙工学』とは?

では、工学部や理工学部で学ぶ航空宇宙工学とは何かについて説明します。

先ほどのロケットの例では、化学、構造、熱、制御などの技術を応用しているということを説明しました。これら1つひとつの要素だけでも工学と呼ぶことができるのですが、それらを組み合わせてロケットという1つのモノを作り上げるのが航空宇宙工学になるわけです。そのため、大学で航空宇宙工学を学ぶ際には、非常に幅広い工学分野に触れることとなります。

航空宇宙工学の分野で取り扱う工学には主に以下のようなものがあります。

流体力学

空気や水などの流れるものに関する工学です。翼の周りの空気の流れやロケットの噴射ガスの流れについて学びます。

推進工学

ロケットエンジンやジェットエンジンがどのようにして推進力を得るかについて学びます。流体力学とも密接にかかわり、化学に関する知識も学びます。ロケットだけではなく、衛星や探査機が用いる電気推進について学ぶ機会もあり、その場合はプラズマ工学などの電磁気学についても学ぶことになります。

構造/材料工学

高校までの物理では剛体を扱っており、力やモーメントのつり合いだけを考えていましたが、実際の構造物には変形や破壊が生じるので、そのような現象について学びます。振動に関しても学び、振動現象によって構造が壊れないようにするにはどうすればいいかなどを学びます。

熱力学

熱の伝わり方について学びます。これは、ロケットエンジンやジェットエンジンを燃焼による高温から守るためにどう冷却すればいいかといったことに繋がります。また人工衛星では機器の発熱や太陽からの熱をどう扱うかに繋がります。

制御工学

システムを安定させて意図通りに動かすはどうすればいいかを考えます。例えば、ほうきを手のひらに乗せて安定させるには倒れる方向に手を動かしますね。これも1つの制御です。ロケットや飛行機が安定して意図通り飛行できるのは制御工学のおかげです。

設計工学

そして、これらをただ個別に学ぶだけではなく、統合させてエンジンや飛行機といったシステムを作り上げることを学びます。これが設計工学であり、航空宇宙工学の醍醐味です。

航空宇宙工学まとめ

ロケットエンジン イメージ画像

例えば、ロケットエンジンに注目するだけでも、
・流体力学:噴射ガスや配管を流れる推進剤。高速回転するターボポンプでの流れ
・構造/材料工学:超高圧や激しい振動に耐える構造/材料
・熱工学:構造が溶けないように張り巡らされた冷却流路。高温に耐える材料
・制御工学:流量制御による推進力調整
など、工学のすべてが詰まっています。

自然現象の真理は人間がいなくても存在しますが、工学によって生み出されたモノは人間がいなければ存在しません。航空宇宙工学は幅広い分野の工学を統合してさらに複雑なシステムを作り上げる非常に工学的な学問なのです。

余談:「航空」宇宙工学?

宇宙工学の話をしていたのに、何の説明もなくいきなり航空宇宙工学の話を始めました。これは、宇宙工学と航空工学には密接な関係があり、宇宙工学という学問ではなく航空宇宙工学として扱うのが一般的だからです。

宇宙工学といえば、ロケットや人工衛星の開発に関する技術のことを指しますが、推進システムの増強や効率化、過酷な熱環境、軽量化の要求、3次元空間での制御など、これらは航空機の開発に必要な航空工学で扱う分野とほとんど同じなのです(宇宙空間での軌道運動に関しては、宇宙工学特有と言えそうです)。

それ以外の学部/学科、文系でも宇宙開発には携われる

さて、航空宇宙工学の説明をしてきたわけですが、将来宇宙開発に携わるという観点で見れば、必ずしも航空宇宙工学を学ぶ学部/学科に進学しなくてはならないわけではありません。なぜなら宇宙工学の分野が幅広いがゆえに、どの分野の人材であっても活躍することができるからです。

実際、JAXAに就職する人々を例にとっても、学生時代の専攻は機械、情報、電気、材料、化学など様々なバックグラウンドを持っています。JAXAに限らず、民間でも大企業/ベンチャー問わず、すべての分野の人に活躍するチャンスがあります。

また、無重力・微小重力で放射線が飛び交う宇宙空間では、人は閉鎖された環境で過ごすことになります。地上とはまったく異なる極限環境は、心身にさまざまな影響を与えますが、宇宙空間が健康に与える影響やそのメカニズムを明らかにし、対策について研究する学問分野に「宇宙医学」があります。

今後、より多くの人が宇宙空間に向かい、また滞在するようになることが予想される中、宇宙医学はなくてはならない分野であるといえ、すでに研究やコミュニティ活動、企業による実証などが行われています。

参考情報

宇宙医学 | JAXA 有人宇宙技術部門
宇宙医療に向けた医療器具の考案 | INAMI Space Laboratory株式会社
宇宙医学に関心をもつ学生・ユースのコミュニティ | Space Medicine Japan Youth Community

JAXAに就職する人のバックグラウンド(航空宇宙工学は機械系に分類される)
Credit: JAXA

もっと言えば、たとえ文系であっても宇宙開発に携わる機会はたくさんあります。宇宙開発を持続させていくためにビジネスを成功させていく、それを担うのは理系のエンジニアだけではありません。研究所や工場から飛び出して、様々な関係者と連携を取りながら宇宙開発に貢献していく人も必要です。宇宙開発に法的な問題はつきものなので、法律を専門とする人はそうした面から宇宙開発を支えていくこともできるでしょう。

人それぞれ、関心のあることや得意なことは異なるでしょう。数学や物理がどうしても苦手だったり、理系であっても人気の航空宇宙工学科や航空宇宙コースに進学できなかったりすることがあるかもしれません。でもそこであきらめる必要は全くないわけです。

おわりに

今回の記事では、将来宇宙開発に携わるにはどのような進路を選択したら良いかをテーマに、大学での学びについて解説しました。

結論としては、
・宇宙開発に携わるなら工学部、理工学部がオススメ
・宇宙航空工学は幅広い工学分野を扱うことになる
・それ以外の学部学科でも宇宙開発には携われる

ということになります。

その上で、やはり航空宇宙工学をしっかり学びたい! と熱意を持ったならば、いよいよどの大学に進学するかを考えていくことになりますね。次回の記事では、航空宇宙工学を学ぶことができる大学について紹介していきます。

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