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宇宙の力で東北の復興を ~一般財団法人ワンアース~

皆さん、「宇宙桜」という千年桜をご存知でしょうか。
都内では、2018年に渋谷区のインフォスタワーの敷地内に植樹されました。
宇宙桜は、宇宙に滞在させた桜のタネが、地上に帰還し花開いたものです。

この宇宙桜プロジェクトの推進を行っているのが、一般財団法人ワンアースです。
今回は、同財団の創設者である長谷川洋一氏に、財団や宇宙桜に込める想いについてお聞きしました。

Credit:一般財団法人ワンアース 

一般財団法人ワンアースの設立の背景とは

創設者である長谷川氏は、1991年に宇宙業界に入りました。

宇宙飛行士の若田氏と同期であり、その後25年間に渡り国際宇宙ステーション(ISS)の利用計画を担当し、民間企業に対して営業を行っていたと話します

(以下、長谷川氏)

2008年、ISSにきぼう実験棟が打ち上げられた際、お金儲けではなく本格的に国民が入れるような宇宙ミッションをやろうじゃないかということで始まったのが宇宙桜です。

きぼう有償利用の第一号として、日本各地にある有名な桜のタネを現地の子供たちが拾い、それをスペースシャトルであるエンデバー号でISSまで送りました。

その後、タネを8ヵ月半ほど宇宙に滞在させ、4100回宇宙を周り地球に戻ってきました。

その後2009年から2011年にかけ、各地で桜は開花し宇宙桜と名づけられました。」

 

これは日本全国から約1万人が参加した空前絶後の宇宙プロジェクトでした。

 

しかし、宇宙桜の開花で各地が喜んでいた2011年、東日本大震災が東北を襲いました。

長谷川氏が当時、宮城県の南三陸地方にて行っていた震災ボランティアが財団設立のきっかけになったと話します。

(以下、長谷川氏)

「ぜひ復興に宇宙を使おう、宇宙業界で培った人脈や情報を活用しようと考えました。

復興後には世界的な平和も含め、文化交流に使っていけないかということで財団を立ち上げました。」

きぼうの桜プロジェクト

きぼうの桜プロジェクトとは、宇宙を旅したタネから成長した宇宙桜を東日本大震災地の津波到達地点に植え、復興のシンボルとして子孫たちに伝承していく事業です。

 

震災当時、ボランティア活動の際に見た圧倒的な拒絶感や無力感の中でも、必死に生きようとする現地の方々の姿に宇宙桜を重ねたことがきっかけだと長谷川氏は語ります。

(以下、長谷川氏)

「もしも宇宙桜が被災地にあれば希望のシンボルになるのではないかと考え、被災地各地を回り宇宙桜の交渉を行いました。

家がない、学校がない、食料がないという状況の中で最初は全く相手にされませんでした。

しかし宇宙桜は日本一の桜であり、1000年生きるものです。

1000年に一度の津波の希望のシンボルには宇宙桜がふさわしい。1000年後にもう一度津波が来たとしても、桜が避難場所の目印として残るということで、被災地の津波到達点に宇宙桜を植えていこうという運動をスタートさせました。」

Credit:一般財団法人ワンアース

 

20115月に始まり、それ以降各地を回りながら進めていきましたが、仕事をしつつ休暇を取りつつ行うのには限界があったと長谷川氏は話します。

そこで2015年に会社を辞職し退職金で立ち上げたのが、一般財団法人ワンアースです。

(以下、長谷川氏)

「会社を辞め、事業に専念するまでに4年かかりました。

また当初は話を信じてもらえず、自治体を納得させるのに相当時間を有しました。

震災から12年目ですが、やっと16か所に植え終わったところです。

どの桜も約200粒のタネが宇宙飛行をしましたが、地球帰還後に発芽したものは数粒でした。

さまざまな原因がありますが、宇宙放射線の影響ではなく、桜のタネは乾燥に弱かったためです。それを生き延びて残った宇宙桜こそ選ばれし最強な桜であることは間違いありません。

そして約20mのハートの中に桜を植樹しています。

実はこのハートの下の部分が、タネを採取した桜の有名地の方面を向くように設置されています。」

Credit:一般財団法人ワンアース
 

きぼうの桜プロジェクトの一環で、若田氏の親友であるISS10代目リロイ・チャオ船長も日本に来日し、日本中の子供たちと交流を行いました。

 

また長年に渡り活動を続けている中で、変化が現れてきたと言います。

(以下、長谷川氏)

10年近く経過し、今ではきぼうの桜を植樹するだけでなく、各地で植えた地域同士の繋がりを深めようという要望が高まったため、サミットの開催を決定しました。

2017年からコロナが発生するまでの毎年、きぼうの桜サミットを開催しました。

今では日本各地の学生も参加してくれるようになり、2019年にはJAXA宇宙飛行士の金井氏にも登壇していただきました。

今度は、東北に対する支援の感謝を宇宙から世界に発信しようということで、共同宣言を発表しました。

2018年に若田さんのところを訪問し、スタートしたのが東北復興宇宙ミッションです。」

 

支援の感謝を宇宙から世界へー東北復興宇宙ミッション

Credit:一般財団法人ワンアース

 

今まで進めてきた大きな事業は、「きぼうの桜プロジェクト」と「東北復興宇宙ミッション」です。

 

東北復興宇宙ミッションでは、きぼうの桜プロジェクトで得たノウハウを利用し、東北の地3県から預かった花や農産物のタネを宇宙フライトさせました。

 

「宮城県はパプリカ、岩手県は米、福島県はお酒の酵母を打ち上げました。

それぞれの町で、宇宙の○○という製品をつくり産業化しながら復興を考えています。

震災から11年も経ちましたが、現在も取り残されているのは福島県です。

未だに風評が後を絶たたないため、この宇宙ミッションを福島の復興の起爆剤としようとして考えられたのが、東北復興宇宙酒です。

宇宙に打ち上げたお酒の酵母を使って、31の酒造会社が腕を競い合って、東北復興宇宙酒という共通ブランドとしてお酒をつくっています。」

 

2021年末ごろから東北復興宇宙酒の発売を開始―コロナの関係で試飲会などの開催ができませんが、福島県知事を筆頭に、県全体で宇宙酒のプロモーションを行っています。

オンラインで購入が可能ですので、気になる方はぜひお手にしてみてはいかかでしょうか。

 

東北復興宇宙酒:https://www.sake-tsujimura.com/item.php?sakeID=738 

https://senkoma.com/items/621eed7e4773a3765e9015ec 

Credit:千駒酒造

宇宙が持つパワーで世界平和を

 

2000年代頃までは、宇宙産業というと宇宙ハードウェア・技術の開発が大半でしたが、現在はビジネスとしての宇宙利用が増えていると長谷川氏は言います。

(以下、長谷川氏)

「私が当時JAXAJAMSSに勤めていた10年ほど前までは、技術開発と科学実験が主体で、宇宙の民間利用というものはほとんどありませんでした。

 

は技術開発を目的として創られた国の機関で、一方、民間では宇宙の裾野を広げていこうという志を持った会社は数えるほどしかありませんでした。

一般市民に分かるように、一般の会社のビジネスに繋げていこうという、ちょうど宇宙と産業や市民を繋ぐ役割の担い手が不足していました。

現在は宇宙の裾野が広がり、一般企業もイメージ的に宇宙を利用したり、自分で宇宙になにかを飛ばしてビジネス化しようとか、あるいは宇宙で得たものを再利用しながら地上でビジネス化する、このような動きがようやく出てきています。

今は本当に嬉しい限りです。」

 

最後に、今後の展望について長谷川氏に伺いました。

(以下、長谷川氏)

「東北復興という大きなテーマが一山超えてきました。

今度は復興してきた感謝を世界へ伝えるということで、国内あるいは世界に向けて東北から広げていきたいと思います。

また現在は、ポストコロナ・ポスト戦争ということで世界の価値観をみんなが見直している時期です。

宇宙飛行士と同じ視点で、宇宙的視点で地球を見る。これらの経験を子供たちや次世代と共有することによって、価値観を変えていく。

こうした政治でも宗教でもない方法で、世界平和に貢献したいと思います。

短期的な目標としては、ISSにノーベル平和賞を受賞させること。賞が受賞できるようなコンテンツを考えて、実施したいと思います。」

 

Credit:一般財団法人ワンアース

 

SPACEMedia編集部