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宇宙業界でビジネスを加速化させる-ANA宇宙事業チーム

20181月、ANAホールディングス株式会社(以下、ANA HD)は宇宙事業化プロジェクトをスタートしました。さらに2021年には宇宙事業チームを設立し、ますます宇宙事業の拡大を進めています。

 

日本を代表する航空会社を有するANA HDが宇宙事業を始めた経緯や具体的な取組みについて、同グループ経営戦略室事業推進部の宇宙事業チーム チームリーダーの鬼塚慎一郎氏、同チームの松本紋子氏と宮下陽輔氏にお話を伺いました。

ANA HDが手掛ける宇宙事業

ANA HDは、1952年に創業をし、国内線では最大の路線網を持つ全日本空輸株式会社を傘下に持ちます。20181月、宇宙事業化プロジェクトを発表し、20214月にはグループ経営戦略室事業推進部内に宇宙事業チームとして組織化が行われました。

 

なぜ宇宙業界に参入することになったのか、その背景について鬼塚氏にお聞きしました。

(以下、鬼塚氏)

2018年頃、民間による宇宙産業の発展について真剣に語られている時分でした。そのような中でANAグループとして将来の飯のたねを考えていく時に、既存の航空産業を垂直方向に拡大できる可能性を秘めた存在として宇宙産業へ進出していくのはどうだろうということでプロジェクトをスタートしました。

今思い返してみると、早すぎず遅すぎず、時代の波に乗れたよいタイミングだったのではないかと思います。」

 

またNASDA(現JAXA)の時代より、人間関係などの交流もあり、入社前に     宇宙関連の研究をしていたというバックグラウンドを持っているメンバーも社内にいたため、土壌はすでにあったと鬼塚氏は語ります。

 

CreditANA Space Project

 


ANA HD
は、輸送宇宙旅行、衛星データ利活用の3つの領域で宇宙事業を展開しています。

(以下、鬼塚氏)

「宇宙輸送事業では小型衛星の打ち上げ事業や、関連する事業会社への投資も含めたインベスターの役割も担っています。有人宇宙旅行事業は長期的なスパンで取り組んでいく予定です。具体的にはPDエアロスペース社に出資を行ったり、Space Port Japanの理事として私自身が参画していたりします。

衛星データ利活用事業では、衛星データを利用して上空の風観測や、乱気流の予測を行っています。また衛星データの補完としての航空機利用を検討し、旅客機からの温室効果ガスの観測なども行っています。

衛星インフラ・軌道上サービスでは、ASTROSCALE社に出資を行い、どのように事業展開を行っていくか検討をしています。」 

ANAが開発する宇宙旅行とは

ANA HDは、有人宇宙機の開発を行っているPDエアロスペース社に出資。さらに社員を1名派遣し、開発サポートを行っています。

(以下、鬼塚氏)

ANAがもし宇宙旅行サービスを提供するのであれば、今までの航空機の整備ノウハウで培った安全性、サービスの質が強みになるのではないかと思います。

また地球から宇宙だけではなく、ISSからISSまでのようなインタースペース間の輸送モードも展開できたら面白いのではないかと思っています。」

 

また20222月、ANA HDと株式会社ポーラ・オルビスホールディングス(以下、ポーラ・オルビスHD)が共同で開発を行っているスキンケア化粧品が、ISS搭載を目指す生活用品のアイディアとしてJAXA採択されました。

 

2020年より、両社はCosmoSkinプロジェクトとして宇宙船内の特殊な環境でも使用可能なスキンケア製品を開発中です。

(以下、松本氏)

日本から民間の宇宙旅行が実現化されるまではまだ時間がかかり現時点で     具体的なビジネスモデルはありませんが、ゆくゆくは差別化できるようなラグジュアリーなサービスを提供したいと検討しています。そのプラスアルファのサービスのひとつとして、ポーラ・オルビスHDと宇宙で利用可能な化粧品の開発を進めています。

航空機内の環境と宇宙生活空間の環境は似ていることから、航空機内を実証実験の場として検証を進める予定です。」

 

宇宙という極限状態を考えて製品をつくることで防災に繋がったり、環境にもよい形で製品・サービスが完成したりする可能性もあるので、地上にとっても有用性の高い製品になるのではないかと松本氏は語ります。

 

Virgin Orbit社との提携―人工衛星打ち上げ事業

2019年、ANA HDはアメリカに本社を持つVirgin Orbit社とのパートナーシップを発表―Virgin Orbit社は改修した航空機を利用した人工衛星の打ち上げ実現を目指している企業です。

 

提携に至った経緯について鬼塚氏にお話を伺いました。

(以下、鬼塚氏)

「プロジェクトを立ち上げた2018年、我々だけで垂直のいわゆるペンシルロケットのようなものを打上げるといってもすぐには社内や株主の皆様からの賛同が得られないと思いました。これを解決するソリューションとして、もともと弊社側でもVirgin Orbit社の航空機を利用した空中発射システムについてリサーチをしていました。

当方からコンタクトを取ろうと思っていたところ、知り合いを通じてVirgin Orbit社がANAとコンタクトを取りたがっているという話が入ってきました。

このようなご縁もあり、実際に彼らの米国工場へ足を運びその技術力の高さ、完成度を自分の眼で確かめました。航空機の製造ラインや関連装備品の製造現場を数多く見てきた我々から見ても素晴らしいものでしたので、MOUを結ぶことにしました。」

Virgin Orbit社の航空機 Credit : Virgin Orbit/Greg Robinson.    

 

その後、宇宙港の開設を目指している一般社団法人Space Port Japanとも協力をしながら、様々な活動を続けています。現在の衛星打ち上げの状況を踏まえ、日本はどのような課題を抱えているのか、宮下氏に伺いました。

(以下、宮下氏)

「現状、日本から人工衛星を打ち上げたい場合、HⅡAやイプシロン以外の選択肢がないという状況です。

また海外ではSpaceX社のように、一度に大量の人工衛星を輸送できる機会というのもできてきましたが、目的の軌道上に衛星事業者が思うタイミングで打ち上げられる手段が少ないというの大きな課題だと思います。

Virgin Orbit社のロケットは、日本から目的の軌道に打ち上げられる小型ロケットとして、この二つの課題を同時に解決する手段になると考えています。」

 

ANAが目指す未来 ―宇宙業界をマネタイズする


2020
年よりJAXAと共同研究で進めている旅客機から温室効果ガスを観測する取り組みに関しては、衛星よりも低い高度を飛行する航空機から取得できるデータが衛星データの補完ができるデータとして可能性があると考え進めている案件だと鬼塚氏は話します。                    
(以下、鬼塚氏)                                

「従来、航空機はお客様や貨物などの輸送で事業を進めてきましたが、航空機からのデータに価値が見出せた場合、航空機の可能性が更に広がると考えています。」           

また、ANA HDとして一般の方々がイメージするような宇宙旅行という切り口だけではなく、宇宙業界でビジネスとしてしっかり回していくということを真剣に考えていると鬼塚氏は話します。

(以下、鬼塚氏)

「航空機というのはとても大きなアセットではありますが、定められた質量分しかモノや人が運べない有限なものです。この有限性の中でビジネスをするには、お客さんからたくさんお金をいただくか、貨物でも同じ質量で付加価値の高いものを輸送するということをしない限り、利益は増えていきません。

現在は衛星の役割を担うように、航空機から地表面のデータを取って何かに役立てたりする取り組みも行っています。

質量ゼロのデータを取り扱うことで可能性は無限に広がっていきます。これを飛行機という特殊性を含め、プラス・マイナスの要素も含め、実現ができるかどうかに我々は価値を見出しています。」

 

CreditANA Space Project

 

最後に、今回取材に応じていただいた3名の方々に、今後の宇宙業界で重要なことについての考えをお聞きしました。

(以下、松本氏)

SpaceX社のように現在の宇宙業界は資金のある企業がお金をつぎ込んで、ロケット大量輸送や小型衛星コンステレーションの構築などを1社     独占で乗り上がっていくようなスタイルになっている気がします。

私たちができることは、日本の宇宙産業として資金が少ない中でもニッチな世界を極めていくところに価値があるのではないかと思っています。そこに対して日本人としての技術を使いながら、実現できる道を探っていくのが成長として早いのではないかと思います。」

 

(以下、宮下氏)

「宇宙業界では、実現までに時間がかかるものもあるのは確かですが、だからこそ面白い業界でもあると思います。そこで、ANA HDでは何ができるのかというところを考えて取り組んでいるところです。

事業を始めてみようと少しでも考えている人がいるのであれば、できるところからでもやっていくことで、それが積もり積もって大きな事業になるのではないかと思います。

また、ANA HDはこういうことをやった方がいいのではないか、という意見がございましたらぜひ伝えていただければありがたいです。幅広い分野で我々も検討し、宇宙業界を盛り上げていきたいと思っています。」

 

(以下、鬼塚氏)

「日本はかつて技術大国と呼ばれていました。

確かに技術は素晴らしいですが、マーケティングという面で負けてしまいました。

その中で、宇宙産業はもう一度挑戦できる、最後のチャンスではないかと思っていて、現状、我が国の宇宙関連産業は、SpaceXのようにロケットを数多く飛ばしてこそいないものの、とりわけ人工衛星の製造に関する技術力などは非常に高いものだと思います。はやぶさも成功しましたし、今後の宇宙産業をリードするだけの力はあるはずです。

しかしながら、技術だけを磨いていてもグローバル市場でビジネスとして勝負していくには厳しいと思います。宇宙関連の研究をしていなかったから、技術がないから参入しにくい、ということではなく、今現在圧倒的に不足しているマーケティングスキル、戦略立案、実際のビジネスを知っている人間がもっともっと業界に入ってきて、宇宙産業をマネタイズしていく必要があると思います。」

 

宇宙産業の様々な領域での事業化を目指すANA HD―今後どのように日本の宇宙産業をリードしていくか、期待しましょう。

 

 

ANA宇宙事業化プロジェクトHPhttps://www.ana-spaceproject.com/ 

Twitterhttps://twitter.com/ANA_SPACE_PRJ

Emily Ito