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《大分県》 宇宙の技術で船舶の未来を創る ニュージャパンマリン九州株式会社 -地方からの「宇宙」への挑戦 第5回-

2021年118日、大分県を始めとした地方自治体の知事が岸田首相と面会し、宇宙産業の推進・支援を求める「地方からの『宇宙』への挑戦に係る要望・提言」を提出しました。世界の宇宙産業は2040年代までに120兆円規模になると予測され、日本でも国や大企業だけでなく、地方自治体による宇宙産業の推進が進んでいます。

SPACE Mediaでは宇宙産業×地方自治体にフォーカスし、全国で宇宙産業の推進を精力的に進める地方自治体と地域の企業の取り組みについて連載で紹介します。

 

第5回の今回は、準天頂衛星システム「みちびき」を利用した、船舶の制御システムを開発するニュージャパンマリン九州株式会社の取締役社長の山本茂氏にお話を伺いました。

ニュージャパンマリン九州とは

大分県の国東市で小型プレジャーボートの設計から生産までを一貫して行うニュージャパンマリン九州株式会社は、かつて日産マリーンから派生して誕生した企業です。会社の設立は2015年ですが、山本氏とボートとの関わりは40年以上にもなります。一般的なボートの船体(ハル)が1つで構成されている(モノハル艇)のに対して、同社が生産するのは船体を横に2つ並べた「カタマラン型(双胴型)」のボートで、国内でこのカタマラン型の小型プレジャーボートを生産する唯一の企業になります。ちなみにカタマランボートは喫水が浅く水深の浅い場所を走ることができ、波のある会場でも揺れを感じにくいといった特徴があります。

カタラマン ファミリークルーザー NSC22C Credit:ニュージャパンマリン九州株式会社

 

そんなボートを利用するシーンとして挙げられるのが、海上でのフィッシングです。しかし、ボートは風の影響を強く受けるため、魚群探知機で魚の場所を捉えたとしても、その後風に流されてしまうという課題があります。そこで同社では風の強さや向きからセンシングして自動制御する、ASB(自動船位制御システム)の開発を進めてきました。

 

みちびきを利用した自動制御システム

ASB(自動船位制御システム)の精度を高める役割を担うのが、準天頂衛星システム「みちびき」による高精度な位置情報です。準天頂衛星システム「みちびき」は、準天頂軌道の衛星で構成される日本の衛星測位システムで、静止衛星が赤道上に位置するのに対し、その軌道を斜めに傾けることで日本の真上を通る軌道を描きます。1機の人工衛星が日本上空に滞在できる時間は7~9時間程度ですが、複数機利用することで常に1機が日本上空から位置情報を測位することが出来ます。

準天頂衛星システム「みちびき」の仕組みについては、以下のサイトでわかりやすく説明されています。

https://sorabatake.jp/625/

準天頂衛星システム「みちびき」

 

準天頂衛星システム「みちびき」の技術を用いて、同社が近年挑戦しているのが、離着岸の自動制御です。船舶の自動離着岸の技術は以前から検討されていましたが、とても大掛かりなシステムが必要で、小型ボートに搭載できるようなものではありませんでした。

そのような状況から、離着岸の自動制御に、準天頂衛星システム「みちびき」の技術を利用するというアイデアは、どのように得られたのか山本氏に伺いました。

自動制御にGPSを利用することは以前から検討していましたが、当時の精度はメートル単位で、これでは離着岸には利用できませんでした。

しかし、大分県産業創造機構が開催した「衛星情報利活用セミナー・個別相談会」に参加した際に、「みちびき」の存在と数センチ程度という精度の位置情報が取得できることを知り、活用を考えるようになりました。

準天頂衛星システム「みちびき」を使用した自動着岸実験

自動制御システムの商用化を目指して

実際に「みちびき」の技術を利用してボートの制御を行うためには、船に受信機となる衛星測位アンテナを設置する必要があります。当初はこの受信機を3機用いることで、ボートの位置・向き・姿勢を検知させ、自動的に着岸するシステムの構築を目指していました。2019年秋には、2019年度みちびきを利用した実証実験公募において、「プレジャーボートの『ピタット自動着岸』、『入れ食い自動操舵』実証実験」のテーマで採択され、2020年には実証実験を成功させました。

 

しかし、3機の受信機を利用するためには、その分の通信料が必要になります。そこで、近年目指しているのが受信機の台数を減らすことです。この挑戦について、山本氏は次のように語ります。

受信機を減らすことで、位置測位の精度は少し落ちます。しかし、コストを下げることは、レジャーボートの普及に貢献できると考えています。近年ボートは注目を浴びている一方で、着岸の難しさから利用を諦める方も少なくはありません。

そこで、自動着岸が可能なボートを低価格で提供することが出来れば、ボートの操縦のハードルが下がり、水上タクシーの人手不足などにも貢献できるのではないかと考えています。

 

・ニュージャパンマリン九州株式会社 HPhttps://www.kyushu.njm-sy.co.jp/

・ボートラインナップ:https://collection.njm-sy.co.jp/

 

取材協力:ニュージャパンマリン九州株式会社 取締役社長 山本茂

 

SPACEMedia編集部