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千葉大、超新星爆発を観測し宇宙の膨張速度を測定 ―Science電子版に掲載

千葉大学先進科学センターの大栗真宗教授らが参加する国際共同研究チームは2023年5月12日、宇宙の膨張速度を表す宇宙論パラメータであるハッブル定数の精密な測定を実施したと発表しました。

これまでのハッブル定数の測定は、異なる2つの手法で行われた測定結果に食い違いが見られており、現代宇宙論の大きな謎の一つとなっています。今回の測定では、1つの方法で推定されていたハッブル定数の値に近い結果が得られ、遅い宇宙の膨張速度を支持することが示されました。なお、本科学成果は米学術誌Science電子版に掲載されています。

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(左)2014年に初めて観測された超新星爆発「レフスダール」 (右)再出現した「レフスダール」の五番目の重力レンズ複数像の検出
(左)2014年に初めて観測された超新星爆発「レフスダール」、
(右)再出現した「レフスダール」の五番目の重力レンズ複数像の検出
Credit: 千葉大学

研究の背景「異なる手法によるハッブル定数の食い違い」

「ハッブル定数」は、現在の宇宙の膨張速度を表し、遠方までの距離や宇宙の年齢を決める最も重要な宇宙論パラメータとされています。しかし、ハッブル定数の測定が精密化するにつれて、異なる手法によるハッブル定数の測定値に食い違いが顕在化してきています。

具体的には、宇宙背景放射の測定で低めのハッブル定数の値(およそ67km/s/Mpc)が得られている一方、近傍の銀河までの直接的な距離測定では高めのハッブル定数の値(およそ74km/s/Mpc)が得られています。このような食い違いは、宇宙の標準理論が正しければ説明できないことを示唆しており、大きな注目を集めています。ただし、これらの測定において誤差を過小評価している可能性も指摘されており、より確実な検証が待たれていました。

ハッブル定数の新しい測定手法として、超新星爆発の重力レンズ効果による到達時間の差を用いた方法が、1964年にSjur Refsdal氏によって提唱されました。
遠方の超新星爆発は重力レンズ効果によって複数に分裂して観測されますが、それぞれの像は異なる経路を通ってくるため、ある時間差で複数回観測されることがあります。この到達時間差は宇宙の大きさ、すなわちハッブル定数に依存するため、時間差の観測からハッブル定数の測定が可能となります。

ただし、50年以上前に提唱されていたこの手法は、超新星爆発の重力レンズが最近になってからようやく発見されはじめたこともあり、応用例がほとんどありませんでした。超新星爆発の重力レンズ効果による到達時間の遅れは、2014年に現ミネソタ大学のPatrick Kelly氏らのチームにより、しし座の方向の55億光年先の銀河団「MACSJ1149.5+2223」の背後にある、95億光年離れた超新星爆発「レフスダール」の重力レンズの発見により初めて観測されました。

研究の成果「低めのハッブル定数の値を支持」

ミネソタ大学のPatrick Kelly准教授や千葉大学の大栗真宗教授らを中心とする国際共同研究チームは、重力レンズ超新星爆発「レフスダール」の時間の遅れの詳細解析からハッブル定数の測定を行いました。この解析で鍵となったのがレフスダールの5番目の像の「再出現」。2014年に発見された際は、1ヶ月以下の短い時間差の4つの複数像が発見されていました。その直後に、大栗教授を含む複数の研究チームによって5番目の像の再出現が予言されましたが、再出現時期の予測は半年から数年と大きくばらついていました。

最終的に5番目の像の再出現は、ハッブル宇宙望遠鏡を用いた追観測により、最初の像の出現から1年後の2015年に観測されました。

研究チームは5番目の像の発見後もモニター観測を続け、超新星像の光度曲線の詳細な測定を実施。人為的なバイアスを避けハッブル定数の精密かつ正確な測定を行うために、測定した時間の遅れの値を伏せて解析を行ったほか、質量密度モデルも5番目の像の前に決定したものを使用する「ブラインド解析」と呼ばれる手法を採用しました。さらに、複数の研究チームの予言を、それぞれの手法の像の位置や明るさの比などの再現精度で重みづけする手法も採用されましたが、最終的には大栗教授が構築した質量分布モデルの結果、低めの値を支持するハッブル定数の値(64.8km/s/Mpc〔誤差 +4.4~−4.3〕)が報告されました。これは現在の宇宙の膨張速度が遅いことに対応し、宇宙背景放射から推定されたハッブル定数の値に近い値だということです。

50年以上前に提唱された手法がついに実現、今後に期待

今回の研究成果は、50年以上前に提唱されていたものの、まだ一度も実現していなかった超新星爆発の重力レンズの時間の遅れの観測から精密なハッブル定数が得られた最初の例となりました。今後もジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の銀河団観測や2024年に観測開始予定のルービン天文台の広天域モニター観測により重力レンズ超新星が数多く発見され、超新星爆発の重力レンズ時間の遅れを用いたハッブル定数の測定例も急速に増えていくと期待されているということです。