千葉大学先進科学センターの大栗真宗教授、イリノイ大学のYu-Ching Chen大学院生とXin Liu准教授が参加する国際共同研究チームは2023年4月6日、銀河中心超大質量ブラックホールにガスが降着し、明るく輝く天体(クエーサー)が近接しペアとして存在する「二重クエーサー」を、遠方宇宙で発見したと発表しました。それぞれのクエーサーの周りの二つの銀河が合体する様子も捉えられ、理論的に予想されていた、銀河の合体によって巨大銀河や超大質量ブラックホールが成長する現場を、遠方宇宙で初めて捉えた貴重な発見です。
研究の背景
銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在することが観測的にわかっています。超大質量ブラックホールの質量はそれらが存在している銀河の性質と強い相関を持つことから、それぞれ影響を及ぼしながら成長してきたと考えられていますが、その詳細については明らかになっていません。銀河やブラックホールはお互い合体を繰り返しながら巨大銀河や超大質量ブラックホールに成長した、という説が有力です。この説が正しければ、遠方宇宙には銀河合体に付随した近接する超大質量ブラックホールのペアが多数存在し、ブラックホールの一部は、ブラックホールにガスが降着し明るく輝く天体「クエーサー」として観測されるはずです。遠方宇宙で二重クエーサーが観測されれば、銀河やブラックホールの成長過程を直接捉えた貴重な例となりますが、観測機器の性能の制約もありこれまで発見されていませんでした。
研究の成果
研究チームはふたご座の方向、およそ108億光年先の遠方宇宙で、非常に近接したクエーサーのペア、二重クエーサーを発見しました。クエーサー自体が稀少なことから二重クエーサーは非常に稀です。
この天体は二重クエーサーの候補として研究チームの以前の論文で報告されていましたが、今回の研究ではハッブル宇宙望遠鏡、ケック望遠鏡、ジェミニ望遠鏡、超大型干渉電波望遠鏡群、チャンドラX線観測衛星のデータを用いた多波長解析によって、銀河合体に付随した真の二重クエーサーであることが確認。ハッブル宇宙望遠鏡の画像では、それぞれのクエーサーに付随する銀河同士の合体による潮汐相互作用の兆候も確認されました。二つのクエーサーはおよそ1万光年離れた距離にありますが、遠方宇宙でこれだけ距離が近く銀河同士がお互いに影響を及ぼしている二重クエーサーは初めての発見例です。これらのクエーサーのブラックホール質量は、それぞれ太陽質量の10億倍と見られています。
理論的には、巨大銀河は銀河同士の合体を繰り返して形成され、またクエーサーの活動も銀河の合体によって誘起されると考えられています。今回発見された天体は、こうした理論予想と整合する天体の発見となります。銀河合体の後、それぞれの超大質量ブラックホールは星との重力的相互作用によって中心に沈んでいき、およそ2億年後にブラックホール連星を形成すると考えられています。
今後の展望
今回の二重クエーサーの発見は、まずガイア衛星によりその候補が発見されました。ガイア衛星は天体の位置やその時間変化を詳細に観測しますが、クエーサーの明るさは超大質量ブラックホールへのガスの降着率の時間変化によって変動します。今回のような二重クエーサーはガイア衛星の空間分解能では分離できず一つの天体として観測されますが、その中心位置がクエーサーの明るさの変動に従って揺れ動くため、中心が揺れ動いている天体のリストから二重クエーサーの候補が選ばれました。こうして選ばれた候補を多波長追観測することで、遠方宇宙の二重クエーサーを効率的に発見できることが実証されました。
今回見られたような銀河合体の兆候を捉えるためには、近赤外波長領域での高空間分解能観測が鍵となりますが、2021年12月に打上げられたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いることでより効率的な二重クエーサー候補の追観測が可能となります。また将来打上げ予定の広視野宇宙望遠鏡、ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡はクエーサーの探査が可能な広い視野と、二重クエーサーを分離できる高い空間分解能の両方を有しており、こうした二重クエーサーの研究が大幅に進展すると期待されています。