Spire Globalが海事産業向けに宇宙技術を活用した気象インサイトプラットフォームを開始

Credit: Spire Global

2023年5月2日、米国のCalifornia州San Franciscoに本社を置くSpire Global, Inc.(以下、「Spire社」とする)は、海事産業向けにDeep Navigation Analytics™(DNA)プラットフォームという宇宙技術を活用した気象インサイトプラットフォームを開始したと発表した 1 。DNAプラットフォームは、宇宙技術を活用して、航海の最適化、船舶の性能向上、気象監視ソリューションを目的とした一元化された海事データハブである。海洋気象データAPI、実用的なインテリジェンスAPI、意思決定支援ソリューションと視覚化の3つのレイヤーを通じて、海洋関係者に重要な知見を提供する。

全地球航法衛星システム電波掩蔽(GNSS-RO)技術を用いた天気予報

Spire社では、全地球航法衛星システム電波掩蔽(Global Navigation Satellite System – Radio Occultation:GNSS-RO)技術を用いて天気予報を生成する。GPS(Global Positioning System)などのGNSSの電波を用いたGNSS-ROとは、地球大気の掩蔽観測のことであり、その原理は以下のイメージのとおりである。

GPS等から発出された信号は大気・電離層を通過する際にわずかに屈折する。この屈折角は大気温度、大気中の水蒸気量、電離層の電子密度に依存することから、大気・電離層の電波屈折率を求め、大気密度(気温)、湿度、電子密度の高精度な情報を算出する。電波の発射を自らが行わなくてすむため、衛星を小型化できるというメリットがあるが、まだ搭載している衛星は少ない。

Spire社が有する超小型衛星コンステレーションは、最先端のRO(電波掩蔽)技術を使用して毎日20,000件を超える大気の測定値を収集している。同社はROデータを使用した独自の気象モデルを用いて、地球上のあらゆる地点における精密で正確な15日間の天気予報を生成する 2

GNSS-ROの原理イメージ
Credit: 参考文献3

APIを介して高精度の海洋情報にアクセス

Spire社のDNAプラットフォームは、信頼性の高いAPIを介して高精度の海上気象情報に迅速かつ簡単にアクセスできるようにし、世界中の海上AIS(船舶自動識別装置)位置データ、船舶の特性、港湾イベントなどの他のデータセットと同期して、海の全体的なビューを提供する。Spire社が顧客と協力して行った調査では、不利な風の条件を避けて航海ルートを最適化することにより、世界全体で年間約110億ドルの燃料費が節約され、炭素排出量が5,700万トン削減されると予測されている。

多目的ルートアルゴリズムで燃料消費を削減し安全性を向上

大手海事技術企業Theyr社とのパートナーシップを活用したSpire社の多目的ルートアルゴリズムは、船舶固有の制約条件と望ましい結果(例:最適なチャーター時間相当、最小限の燃料、最適な時間、ジャストインタイムでの到着など)に基づき、推奨航海ルートの選択肢を生成する。他の既存の気象ルートアルゴリズムとは異なり、同社の実用的なインテリジェンスは、単一の計算内で複数のインサイトを提供し、海事関係者が燃料消費量を削減し、排出量を最小限に抑え、安全性を向上させるのに役立つ。

気象や船舶の状況を視覚化し意思決定を支援

Spire社のDNAプラットフォームは、海事産業向けに構築されたオンラインダッシュボードであるShipView™内で現在の気象状況を視覚化しながら、世界中における船団の位置データの全体的なビューを提供することで、意思決定を支援する。ShipView™は、船団のパフォーマンスのリアルタイム追跡、船舶に影響を与える状況の検証、乗組員、貨物、船舶を危険から守るための急速に変化する天気予報の監視を提供する。

Spire社 ShipView™(データ視覚化ツール)のイメージ
Credit: 参考文献4

AISデータ取得、衛星データを基にした気象海象状況・予測、AI等による最適航路計画立案など、他社からも類似サービスはいくつか提供されているものの、Spire社はこれら複数のツールを一元化し、視覚的にも分かりやすく提供している。

また、Spire社は、LEO(地球低軌道)上に100機以上配置されたGNSS・AIS受信機能を持つ自社の超小型衛星コンステレーションを有しており、データが点在する外洋でも、Near Real Time(収集から配信までが90分未満)5 で高精度なGNSS-RO情報を取得することが可能である。

衛星データを基にした更なる高性能・高精度化、及び、それによる衛星データの更なる利活用につながることが期待される。

参考文献

1)Spire Globalホームページ https://spire.com/press-release/spire-global-launches-a-space-powered-weather-insights-platform-for-the-maritime-industry/
2)Spire Globalホームページ https://spire.com/weather/deep-navigation-analytics-platform/
3)GNSS-ROの原理イメージ https://www.newscientist.com/article/dn13329-gps-thermometer-could-flag-up-climate-change/
4)ShipView™ https://spire.com/press-release/spire-global-launches-a-space-powered-weather-insights-platform-for-the-maritime-industry/
5)ESAホームページ https://earth.esa.int/eogateway/catalog/spire-live-and-historical-data

この記事は文部科学省の令和5年度地球観測技術等調査研究委託事業「将来観測衛星にかかる技術調査」の一環で配信しております。