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世界最大の宇宙望遠鏡「ジェームズ・ウェッブ」 ~数多の画像で探る宇宙の起源

2021年12月25日に打上げられ22年夏から正式に運用が始まった世界最大の宇宙望遠鏡「ジェームズ・ウェッブ」(以下、ウェッブ宇宙望遠鏡)。驚異的な大きさと性能を兼ね備え、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として誕生しました。
遥か遠方宇宙の謎解明に挑むウェッブ宇宙望遠鏡が、その壮大な使命を果たすために捉えた画像の数々は、われわれ人類が見たことのない宇宙の姿を届けてくれます。

本記事では、ウェッブ宇宙望遠鏡が切り開く未知の領域に踏み込み、これまで考えられていた宇宙のイメージを一変させる数々の画像をお届けします。

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宇宙望遠鏡「ジェームズ・ウェッブ」
Credit: NASA

宇宙望遠鏡は何のためにあるのか?

宇宙望遠鏡の主な目的は、遠くの天体や宇宙で起きているさまざまな現象を観測し、そのデータを分析して宇宙の起源や進化、銀河の形成、地球外惑星の探査、生命の存在などを探ることにあります。

地上の天体望遠鏡では難しい観測を宇宙望遠鏡により実現することで、宇宙探査や天文学の発展に重要な役割を果たしています。

ハッブルの後継機として誕生した「ウェッブ宇宙望遠鏡」

ウェッブ宇宙望遠鏡は、2011年に運用を終了する予定だったハッブル宇宙望遠鏡の後継機として開発された最新の宇宙望遠鏡です。
ウェッブ宇宙望遠鏡は赤外線観測に特化しており、これまでに到達できなかった遠方宇宙領域や未知の天体の観測を可能にします。
主な目的は、初期の銀河の発見、惑星形成と進化、系外惑星の大気の分析、そして生命の可能性を探ることです。

そんなウェッブ宇宙望遠鏡は、2021年12月25日にアリアン5ロケットによって打上げられ、2022年の夏に本格運用が始まりました。

赤外線観測を行うウェッブ宇宙望遠鏡は、太陽から発せられる熱や電磁波、そして地球からの光などの制約を回避するために、地球から遠く離れた「ラグランジュ点L2(地球から太陽とは反対方向に約150万キロの地点)」から観測を行っています。

主鏡の口径はハッブルの2.7倍! ウェッブ宇宙望遠鏡の性能

ウェッブ宇宙望遠鏡は対角が1.3mの六角形のセグメント鏡を18枚組み合わせた構造になっており、主鏡口径は6.5m、サンシールド(機器に当たる太陽光を遮断する日除け)はテニスコート一面ほどの大きさがあります。ハッブルの主鏡口径2.4mと比べると約2.7倍で、面積だとおよそ6倍。
これだけ巨大なウェッブ宇宙望遠鏡ですが、質量は約6.5トンとハッブル宇宙望遠鏡の約11トンと比べて60%ほどしかありません。

また、ウェッブ宇宙望遠鏡には近赤外線カメラ(NIRCam)、近赤外線分光器(NIRSpec)、中赤外線観測装置(MIRI)、高精度ガイドセンサー/近赤外撮像・スリットレス分光計(FGS/NIRISS)の4つの装置が搭載されており、赤外線に含まれるさまざまな波長領域の光を観測することができます。

ウェッブ宇宙望遠鏡が初期に撮影した天体の数々

2022年7月12日、ウェッブ宇宙望遠鏡による初めてのフルカラー画像および分光観測データが公開されました。

得られた画像には、これまでに見られなかった美しく複雑な宇宙の景色が写し出されています。以下では、ウェッブ宇宙望遠鏡が初期に撮影した天体のいくつかをご紹介します。

銀河団「SMACS 0723」

画像に見えるのは、とびうお座の方向に地球から約46億光年の距離にある銀河団「SMACS 0723」。
何千もの銀河で溢れているこの銀河団は、とてつもなく超大な質量が合わさり重力レンズ効果が生み出されることで、暗くて小さい遠方銀河が、引き延ばされ歪んで捉えられています。
NASAによれば、宇宙誕生から10億年未満の頃に見られた銀河までもが含まれているということです。

この画像は、ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamにより12時間半かけて撮影されたもので、さまざまな波長の画像から合成して作成された貴重な1枚です。

地球から約46億光年の距離にある銀河団「SMACS 0723」
Credit: NASA/ESA/CSA、STScl

イータカリーナ星雲

公開された画像のなかでも特に鮮やかな以下の画像は、りゅうこつ座の方向に地球から約7,600光年の距離にあるイータカリーナ星雲の「NGC 3324」。
厳密にはNGC 3324と呼ばれる星形成領域(星が生まれつつある空間)の一部を捉えたもので、夜空に浮かぶ山脈のように見えることから「宇宙の崖」とも呼ばれています。

NGC 3324は巨大なガスでできており中は空洞。この美しい断崖から立ち昇るように写る白いモヤは、強烈な放射線により星雲から流れ出てきた高温のガスや塵だということです。

以前には、ハッブル宇宙望遠鏡でも撮影されていたNGC 3324ですが、誕生から間もない星のデータをこれほどまで細かく捉えられたのは、ウェッブ宇宙望遠鏡の高い感度と空間分解能によるものだとされています。

地球から約7,600光年の距離にあるイータカリーナ星雲の「NGC 3324」
Credit: NASA/ESA/CSA、STScl

南のリング星雲

画像に見えるのは、ほ座の方向に地球から約2,000光年の距離にある惑星状星雲「南のリング星雲(NGC 3132)」です。
惑星状星雲とは、恒星が寿命を迎えた段階で、周囲の宇宙空間にガスと塵を放出することで作られる星雲のこと。放出された外層は恒星の残りの核によって照らされることで輝きを放つという特徴があります。

左の画像はウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCam、右はMIRIで捉えられており、NIRCamでは星雲とその周りの光の層、MIRIでは恒星から照らされた塵が目立つように写っています。

シドニーのマッコーリー大学のオルソラ・デ・マルコ氏率いる研究チームは、この円盤の形状をしたNGC 3132の形成には中心星のほかに少なくとも2つ、あるいは3つ以上の未確認の星が関わっていたことを導き出しました。
研究チームによると、ガスと塵を放出する前の中心星は太陽の質量の約3倍であったことを突き止めたとしています(参考記事)。

地球から約2,000光年の距離にある惑星状星雲「南のリング星雲(NGC 3132)」
(左はNIRCam、右はMIRIで撮影)
Credit: NASA/ESA/CSA、STScl

銀河群「ステファンの五つ子」

以下の画像に写るのは、ペガスス座の方向に地球から2億9,000万光年の距離にある銀河群「ステファンの五つ子」です。

5つの銀河の名称は上から時計回りに、NGC 7319、NGC 7318B、NGC 7318A、NGC 7317、NGC 7320。画像では5つの銀河がそれぞれまとまって存在するように見えますが、左端の銀河「NGC7320」だけは地球に近く、約4,000万光年の距離に存在します。

この画像は、ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamとMIRIから得られた約1,000の画像を合成して作成されており、数百万にもおよぶ星団やスターバースト領域(銀河の衝突等でガスが集まり星が次々に生まれている領域)、重力相互作用によって銀河から伸びた、ガス・塵・星の尾が捉えられています。

また、銀河群の最上部にある銀河NGC 7319は活動銀河核(銀河の中心で非常に強い電磁波を放っている部分)を持っており、太陽の2,400万倍の超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。このブラックホールは、物質を活発に取り込むことで太陽の400億倍に相当するエネルギーを放出しているということです。

ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた銀河群「ステファンの五つ子」
Credit: NASA/ESA/CSA、STScl

ウェッブ宇宙望遠鏡のこれまでの功績

ウェッブ宇宙望遠鏡は運用を開始して以来、関係者の期待を遥かに超える驚異的な成果を数多く上げてきました。
ここでは、そのなかでも特に研究者を驚かせたとされる4つの功績を取り上げます。

天文学史上最も古い銀河「GLASS-z12」を観測

正式に運用を開始してからわずか数日後、ウェッブ宇宙望遠鏡は観測史上最古となる銀河を捉えました。

画像に見えるのは、宇宙誕生から3億5,000万年後に存在していたとされる「GLASS-z12(右および中央下の画像)」。
ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamを用いて観測されたこの画像は、9つの赤外線波長帯で10日以上にわたって撮影されました。

これまでに観測された最も古い銀河は、宇宙誕生から4億年に存在していたとされる「GN-z11」で、2016年にハッブル宇宙望遠鏡によって観測されていました。

ウェッブ宇宙望遠鏡先端銀河系外探査(JADES)の国際チームが実施した分光観測の結果によると、宇宙誕生から4億年未満に誕生した初期の銀河が、GLASS-z12のほかに3つ見つかったと発表しており、今後は、対象銀河までの距離や星の形成速度、さらには銀河を構成している元素の物質を特定するということです。

ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた観測史上最古の銀河「GLASS-z12(右および中央下の画像)」
Credit: NASA/ESA/CSA、Tommaso Treu(UCLA)、Zolt G. Levay(STScI)

太陽系最大の「木星」の新しい画像を取得

太陽系最大の惑星で、直径は地球の約11倍にもなる「木星」。
2022年8月22日、ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた木星の新たな画像が公開されました。

同年7月27日に撮影されたこの画像には、北極と南極に発生するオーロラや、木星より100万倍も暗いといわれているリングまでもがくっきりと捉えられています。
そして、木星の表面に存在する“嵐”とも呼ばれる大赤班。これは、巨大な台風により形成したと考えられており、それほど大きく見えないようで実は地球2個分ほどの大きさをしています。

撮影された画像では、太陽の光を反射しているため白く見えていますが、しっかりと渦を確認することができます。

またNASAによれば、背景下部にあるぼやけた斑点は遠方の銀河が写り込んだものだということです。
木星は、太陽系の起源の謎を解明する最重要惑星とされており、先月打上げられた木星氷衛星「JUICE」により地球外生命の手がかりを探すミッションが進められています。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で撮影された
広視野の木星合成画像
Credit: NASA/ESA/CSA、ジュピターERSチーム

太陽系外惑星「HIP65426b」を初めて直接撮影

2022年9月1日、ウェッブ宇宙望遠鏡によって直接撮影された太陽系外惑星の画像が公開されました。

画像に見えるのは、ケンタウルス座の方向に地球から約355光年の距離にある恒星「HIP65426」を公転する「HIP65426b」です。
質量は木星の約6~12倍。地球の年齢が45億年であるのに対し、HIP65426bは惑星としてはまだ若い約1,500~2,000万年と推測されています。

画像左の紫と青はNIRCam、右の黄と赤はMIRIで撮影されたもので、光を捉える方法の違いにより異なって見えているということです。

なお、これまでにも宇宙望遠鏡による系外惑星の直接撮影は行われていましたが、ウェッブ宇宙望遠鏡ではこれが初。
HIP65426bの画像分析を主導したカリフォルニア大学の博士研修員アーリン・カーター氏は「この画像を入手するのは宇宙の宝物を掘っているかのようだった」と語っています(参考記事)。

恒星「HIP 65426」(画像上)と4種類のフィルターを通して撮影した
太陽系外惑星「HIP 65426 b」(画像下)
左から3.00μm、4.44μm、11.4μm、15.5μmの赤外線波長
Credit: NASA/ESA/CSA、A Carter(UCSC)、ERS 1386 チーム、A. Pagan (STScI)

ウェッブ宇宙望遠鏡で初となる太陽系外惑星「LHS475b」を確認

2023年1月12日、ウェッブ宇宙望遠鏡による観測では初めてとなる、太陽ではない恒星を周回する系外惑星の存在が確認されました。

この系外惑星「LHS475b」は、はちぶんぎ座の方向に地球から約41光年の距離にある赤色矮星「LHS475」を約2日周期で公転しており、地球とほぼ同じ大きさ(地球の99%)だということです。

メリーランド州ローレルにあるジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所のケビン・スティーブンソン氏とジェイコブ・ラスティグ・イェーガー氏が率いる研究チームは、ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器(NIRSpec)で、2回の通過観測を行い得られたデータから、LHS475bが岩石惑星であると報告しました。

現在のところ、LHS475bに大気があるかどうかは分かっていませんが、LHS475bは太陽系のどの惑星よりも恒星に近い距離にあるものの、赤色矮星の温度は太陽の半分以下であることから、研究者らは大気の存在を予測しているということです。

赤色矮星LHS475(奥)を公転する太陽系外惑星「LHS475b」(手前)のイメージ図
Credit: NASA/ESA/CSA、L. Hustak(STScI)

ウェッブ宇宙望遠鏡はまだ運用が開始されたばかりですが、すでにさまざまな成果を上げており、今後さらに興味深い観測結果をもたらしてくれることが期待されます。

参照サイト
銀河団「SMACS 0723」
イータカリーナ星雲
南のリング星雲
ステファンの五つ子
GLASS-z12(その1)
GLASS-z12(その2)
木星の新しい画像
太陽系外惑星「HIP65426b」
系外惑星「LHS475b」