「宇宙×マイクラ教育」で子どもたちの可能性を解き放つ 〜マイクラ教授・タツナミシュウイチ氏が語る、人材育成の未来〈前編〉

「宇宙×マイクラ教育」で子どもたちの可能性を解き放つ 〜マイクラ教授・タツナミシュウイチ氏が語る、人材育成の未来〈前編〉

小中学生を中心に世界的な人気を誇るゲーム・マインクラフト(Minecraft)をご存じですか? 国内でも、一部の教育機関や自治体が授業に取り入れるなど、単なる遊びを超えた活用がなされています。

そんなマイクラは、宇宙航空研究開発機構 宇宙教育センター(JAXA宇宙教育センター)が、月面を舞台にしたマイクラワールド「LUNARCRAFT」(ルナクラフト)を出しているように、宇宙とも非常に相性のよいコンテンツです。

マイクラと教育、そして宇宙とのかけ合わせで、次世代の人材育成はどう変わるのでしょうか。ルナクラフトの企画にも携わった、マインクラフトプロフェッサーのタツナミシュウイチ氏に聞きました。


タツナミシュウイチ
マインクラフトプロフェッサー

東京大学大学院 客員研究員、常葉大学 客員教授、Minecraftカップ全国大会審査員長。
2018年マインクラフトマーケットプレイスにてアジア初、日本初の作品をリリースしマインクラフト活用業務を開始。2021年9月Microsoft Innovative Educator FELLOWの称号を米マイクロソフト社から授与。情熱大陸(毎日放送)、マツコの知らない世界(TBS)、有吉ぃぃeeeee!(テレビ東京)など地上波番組にマイクラの有識者として出演しマインクラフトの学習効果について広く発信。現在もマインクラフトをプラットフォームとしたマイクラ教育の第一人者として学習教材制作や活用を研究中。

マインクラフト=デジタル空間の砂場!? 世界をも再現できる「創造プラットフォーム」

2009年にスウェーデン人ゲームクリエイターのマルクス・ペルソン(Markus Persson)氏が開発した「マインクラフト」(以下マイクラ)。デジタル空間上でブロックを組み合わせて世界や建物を構築できる非常に自由度の高いゲームで、全世界のアクティブユーザーは1.7億人にも上るといわれます。

2014年には、ペルソン氏の立ち上げた開発会社であるモヤン(Mojang Studios)を巨大IT企業のマイクロソフト(MS)が買収。2016年に「教育版マインクラフト(Minecraft: Education Edition)」がリリースされ、教育分野でも取り入れられています。

2009年のリリース初期にマイクラに出会い、自身もプレイヤーとして熱中したタツナミ氏は、マイクラについてこう語ります。

「一言で言うと、マイクラは立方体のブロックを組み合わせて世界や建物をつくっていく『サンドボックスゲーム』です。リリース初期から、マイクラで遊ぶ様子の実況動画などがネットに出され、これは面白いゲームが出てきたなと感じ、私も始めたんです。特に興味を惹かれたのは、砂場で自由にいろいろなものをつくる、ということと同じ楽しみ方ができるという点でした」

デジタル空間で、つくりたいものを自由につくることができる。ここに魅力を感じたのには、タツナミ氏の子どもの頃の経験があったといいます。

「ブロック遊びが好きだったのですが、高価なブロックは買ってもらえなかったので児童館で遊んでいたんです。でも、児童館では帰るときにブロックを崩して片付けなければいけない。頭の中にはもっとつくりたいものがあって、そのプランもあるのに、続けられない。そうしたフラストレーションを子ども時代に抱えていたなと、マイクラに触れて改めて思い出したんです。そこから一気にハマりました」

教育活用の可能性を感じてMSとも協力 マイクラの核心は「デジタルものづくり」

もともと音楽や映像制作などのクリエイティブ領域で働き、そのスキルを生かして専門学校などで講師をしていたタツナミ氏は、教育活用のポテンシャルをかねてから感じていたといいます。

「マイクロソフトがモヤンを買収した翌々年くらいに、教育版マイクラの開発が進んでいるという話を聞きました。そんな折に、たまたま関係者との接点ができたんです」

その後、タツナミ氏はマイクロソフト東京本社を単身訪問。教育活用の可能性について、自身の考えを伝えました。

「対応してくれた教育チームの皆さんは、『面白いやつが来たぞ』と話を聞いてくださって。それで、マイクラと教育とのつながりができたんです。そこから徐々に、マイクラの教育活用を一緒に考えたり、専門家として技術や情報を提供したりするようになりました」

マイクロソフトが教育版を開発中と聞き、単身品川の東京本社を訪問したというタツナミ氏。そこから数年を経てマイクロソフト側からも興味をもたれ、フェローに任命されることになりました

数年後、タツナミ氏はアメリカ・シアトルのマイクロソフト本社から、当時日本で7人目となる『マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)フェロー』に任命されます。そして今日まで、マイクラ教育の実践者・先導者として、子どもたちや教員、自治体の教育関係者などへマイクラ教育の有効性・可能性を伝えてきました。

並行して、企業や自治体とともに教材の開発なども手がけるように。多様な活動を行う中で大学の客員教授として招聘され、いつしか「マイクラ教授」と呼ばれるようになったのです。

そんなタツナミ氏は、マイクラの核心は「デジタルものづくり」だといいます。

「10年くらい前から『デジタルものづくり』という言葉を発信していますが、これはマイクラに限らず、もともと私が仕事として行っていたPCで音楽や動画といったコンテンツをつくることも含んでいました。何かをつくるときには、つくるための情報を仕入れなければいけません。それが学びにつながるんです」

まったく新しいロケットをつくるには……? マイクラ授業に隠された4つのステップ

コンテンツやプロダクトを制作するときには目的があり、目的を果たすために必要なものは何か、それはどんな形や動きなのか、ということがわかっていなければ、完成品は中途半端なものになってしまいます。

タツナミ氏は、自身が学校などで授業を行う際には、子どもたちにまず「情報のインプット」をしてもらうと説明します。

「いきなり『マイクラの中でロケットをつくれ』と言われても、多くの子どもはリアルなロケットの構造を知らないですよね。その状態では、多分、アイコンのようなロケットが思い浮かぶだけだと思います。でも、本物のロケットはそうではありません。エンジンがあり、燃料タンクがあり、さらに先端には衛星や人が搭乗する部分があります。燃料の種類などによって、形も変わる。本物の構造を知らなければ、現実感のないロケットしかつくれません。つくるからには知らなければいけない、知っているからつくれるんだ、ということを体験してほしいんです。これは将来、彼らが実際にものづくりをするときにも活きる考え方です」

まずはつくってみて、うまくいかなくなってから振り返って考えることも大切ではある、とタツナミ氏はいいます。しかし、まずはしっかり知識を入れてから制作に取り組む方がよいと話します。

「ロケットをつくるのであれば、まずは歴史から調べてみよう、と話します。いろいろな段階を経てロケットが進化してきた様子を知ることで、燃料には個体と液体という種類があることや、宇宙から帰ってくるためにどのような仕組みがとられているのか、さらには部品の形の意味まで理解するようになります。そこまでわかってから、『じゃあ、みんなの考える新しいロケットはどんなものかな?』と、絵を描いてもらうんです」

ロケットについての知識が十分にない状態では、「ロケットをつくって」と言われても大まかなイメージしか考えられません(左)が、事前に知識があればリアルなロケットを考案することができるようになります

十分に知識を得てから、子どもたちは「こうするのがいい」「いや、こっちがいい」と話し合い、新型ロケットの設計を検討。ベースの知識があるからこそ、地に足のついた議論が展開されます。

実は、この段階では、子どもたちはまだマイクラに触れていません。ですが、「マイクラで遊びたい」という気持ちがあるからこそ、真剣に調べ、自分の考えの理由を示して議論するのだといいます。

そして、みんなで考えた設計ができあがるといよいよマイクラの出番です。

タツナミ氏のマイクラ授業は、必ず複数人の共同作業で行いますが、実際にマイクラ上で制作が始まると、子どもたちは自然に役割分担し、制限時間の中でロケットづくりに挑みます。タツナミ氏は、ここまでの流れはプロジェクトマネジメントの手法を学ぶことにもなっていると話します。

「これは、新型ロケットをつくるというプロジェクトを子どもたちに与えていることになります。エビデンスをもって新しいアイデアを出しなさい、という、ある意味ムチャぶりなわけですが、一つのプロジェクトをチームで、1時間の制限時間の中でやる。プロジェクトマネジメント、タイムマネジメントを学ぶことができるんです」

ものづくりの時間が終わった後には、教員や保護者などに向けてロケットの目的や運ぶもの、設計の理由などをプレゼン。タツナミ氏が子どもたちの頑張りを称えて締めくくります。

「私の授業には、全部で4段階の学びが隠されています。1段階目が知識・情報を仕入れるインプット。第2段階は、わかったことをネットや本でさらに調べるリサーチ。3段階目がみんなでつくるビルディング。そして最後にアウトプットとしてのプレゼン。この一連の流れが、『ものを学ぶ』ための段階なんです。マインクラフトのものづくりを通して得られた知識・情報は、おそらく参考書や教科書を見るだけや、単語帳をめくって同じ内容を覚えるよりも記憶として定着する可能性があります。なぜなら、楽しみたい、遊びたいからなんです。彼らは、マイクラをしに来ているんですよね」

タツナミ氏のマイクラ授業には、①知識・情報を仕入れるインプット、②わかったことをネットや本でさらに調べるリサーチ、③みんなでつくるビルディング、④アウトプットとしてのプレゼンという、学びに必要な4つのステップが組み込まれています

タツナミ氏はマイクラ教育に取り組み始めてから、教育研究者とともに教育効果の検証なども行っています。特別支援学校を対象とした2年間の共同研究では、コミュニケーションを苦手に思っている子どもたちがマイクラでの共同作業を通じて同級生や先輩・後輩と意思疎通を図ることができるようになったという成果も出ているということです。

また、デジタル空間で交流できるという特性を生かし、教室のクラスメイトと不登校の子どもが一緒に学ぶ場として使うこともできるといいます。マイクラは、包摂的な教育の実現にも寄与するプラットフォームだといえそうです。

後編へつづく

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