世界的人気を誇るメタバースゲーム・マインクラフト(Minecraft)。
教育現場での活用もされているマイクラ教材の開発や実践、研究に取り組み「マイクラ教授」との呼び名もあるタツナミシュウイチ氏は、宇宙航空研究開発機構 宇宙教育センター(JAXA宇宙教育センター)と、月面を舞台にした「LUNARCRAFT」(ルナクラフト)の企画・開発を手がけました。
後編では、タツナミ氏にルナクラフト開発の経緯とマイクラ教育の可能性、次世代人材育成にかける思いを聞きました。
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マインクラフトプロフェッサー
東京大学大学院 客員研究員、常葉大学 客員教授、Minecraftカップ全国大会審査員長。
2018年マインクラフトマーケットプレイスにてアジア初、日本初の作品をリリースしマインクラフト活用業務を開始。2021年9月Microsoft Innovative Educator FELLOWの称号を米マイクロソフト社から授与。情熱大陸(毎日放送)、マツコの知らない世界(TBS)、有吉ぃぃeeeee!(テレビ東京)など地上波番組にマイクラの有識者として出演しマインクラフトの学習効果について広く発信。現在もマインクラフトをプラットフォームとしたマイクラ教育の第一人者として学習教材制作や活用を研究中。
目次
宇宙好きとマイクラがつながった!「ルナクラフト」の開発の経緯とリアリティへのこだわり
子どもの頃、新聞に掲載された海王星の写真を見て宇宙好きになったというタツナミ氏。その後も宇宙関連のコンテンツに触れ続け、ありあわせの材料で望遠鏡を手づくりしたり、中学生のときには、静止したブラックホールの半径を導く公式「シュヴァルツシルト方程式」を暗唱できるほど宇宙や物理学、機械工学の領域に夢中だったといいます。
筋金入りの宇宙好きだったタツナミ氏に、「マイクラで宇宙をテーマにしたワールドをつくれないか」という話が舞い込んだのは、必然だったのかもしれません。
「マイクラ教育を始めて数年後、JAXAさんとお仕事をするという機会がやってきました。そこで、実は宇宙好きで……とお伝えしたら一気に盛り上がり、ゼロベースでアイデアを出し合うところから始めて、月面のワールドをつくることになったんです」
そして2023年12月にリリースされたのが、月面をモチーフにしたLUNARCRAFT(ルナクラフト)です。ルナクラフトは、日本の月周回衛星「かぐや」が取得した月面の観測データから月面の様子を再現したワールド。月の地球側、東半球にある直径約100キロメートルの「テオフィルスクレーター」が舞台で、小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」の着陸地点もこの近くにあります。

Credit: JAXA宇宙教育センター
「私は、子どもたちに月に行ったアポロの宇宙飛行士たちと同じ景色を見てもらいたいと思っていたので、ルナクラフトでは“偽物”の世界はつくりたくなかったんです。そうしたら、JAXAの方から『実際の地形のデータがあります』と聞いて、『それです!』と『かぐや』の3Dデータを使わせていただくことになりました」
ルナクラフトで見える月面は、縮尺こそ少し小さいものの、実際のデータを反映したリアルな環境。地形だけでなく、岩石の組成なども実際のデータを反映しており、地球の6分の1の重力環境なども再現されています。
「だから、ルナクラフトで遊んだ子どもたちが、将来、月に行って同じ場所に立てば、同じ景色が見えるんです。ワークショップでは子どもたちに必ずそれを伝えています。『みんなが本当に月に行って、テオフィルスクレーターに降り立つことがあったら、先生に写真を送ってね』って」

Credit: JAXA宇宙教育センター
とはいえ、14日間ある「月の夜」や放射線環境などはリリースまでの時間制限もあり、再現できなかったため、第二弾ができるならこれも盛り込みたい、とタツナミ氏は意気込みます。もし、こうした環境条件までルナクラフトで再現できれば、教育だけでなく、月面開発のシミュレーターとしても活用できそうです。
ルナクラフトは2050年頃の月面世界という設定のため、アポロやSLIM、LUPEX(⽉極域探査機)が遺跡として遺されています。ルナクラフト使ったワークショップでは、こうした人類の偉業を宇宙放射線や隕石からどうやって守るかを子どもたちに考えてもらうといいます。
子どもたちからは、「建物でガードする」「地面を掘って、その中にしまう」といったさまざまなアイデアが出されるそうですが、それもマイクラ活用のねらいの一つとタツナミ氏は語ります。
「大人が考えないアイデアをポンと出してくれる。これはお金や人手、時間などの束縛がない子どもたちだからこそできることですよね。マイクラは、常識や既成概念に囚われない発想を子どもたちから引き出すことができるツールでもあります。情報不足の中で荒唐無稽なことを言うのではなく、インプットがあったうえで、大人の発想を超えてくる。最後のプレゼンでは、私なんかが想像しなかったような考えが出てきます」
失敗という概念がないのがマイクラ、挑戦へのハードルを限りなくゼロに
思いついたアイデアをすぐ形にすることができるのも、マイクラのよさです。試しにちょっとつくってみて、改善点があればすぐ反映してみる。気軽にトライアンドエラーができることは、教育的にも大きな意味があります。
「マイクラには、そもそも失敗という概念がないんです。失敗を恐れない姿勢を育てることは、教育において大切なことだと思います。資材は無尽蔵に出てくるので、つくり放題、直し放題。当然ケガをすることもありません。デメリットは、あれこれ直しているうちに、思った以上に時間が過ぎてしまうくらいでしょうか」
考えたことを自由に形にできるマイクラでも、ときに子どもたちは「失敗しちゃった」と言うことがあるとタツナミ氏。「やっぱり、『ダメだったね』『間違ってたね』と言われることは怖い」と多くの子どもたちと接してきた実感を語ります。
「失敗した、と言う子には失敗なんかしてないよ、と伝えます。よりよくするための前段階なんだから、いいんだよと。『まだ10分あるから、間に合う、間に合う』と言うと、『じゃあ、やる』とまた取り組み始めます。挑戦へのハードルが限りなくゼロになるというのは、マイクラの強みだと思います」
子どもたちに後悔なく育ってほしい 次世代教育への投資の重要性
STEM(科学・技術・工学・数学)領域の教育をはじめ、さまざまな特性をもつ子どもたちを包摂した学びの手段としての可能性を見せるマイクラ。教育への応用はどんどん広がっていきそうですが、そこには大人側の理解、インフラの課題というハードルもあるとタツナミ氏は語ります。
「どうしても『マイクラはゲーム』という先入観から、活用が進まない現実があります。これについては、成功事例をたくさん生み出していくしかありません。子どもたちが夢中になります、楽しいですよ、というだけでなく、教材として効果があるということをお示ししていかなくてはいけないと思っています」
マイクラを使うためのデバイスや、電源、ネットワークといったインフラの問題についても、現状ではまだ十分に整っていない教育現場が多いとタツナミ氏は指摘します。
「デジタル教育のための環境整備は、すでに欧米と差が出てしまっている状況です。これは資金投入が足りていないという点に尽きます。国を挙げて、次世代のために、教育へもっと投資してほしいと願っています。これはマイクラどうこうというレベルの話ではなく、子どもたちの10年後、20年後を見越して、そもそも学校、教室という場所のアップデートを今の大人が真剣に考えなければならない、子どもの未来を失わせてはいけないということです」
学びの環境を整えることは、一人ひとりの将来にも大きな影響を与えるとタツナミ氏は力を込めます。
「何かの能力を身につける、さらには秀でるためには、本人の資質や適性もありますが、環境的な要素も大きいと思います。子どもたちには、自分の夢に納得できるまで取り組めるだけの環境を整えてあげたい。やりたいことができなかった、夢が叶えられなかったのは、自分がおかれた環境が原因だという状況にしてはいけないと思います。原因が自分の中にあるのなら、結果にある程度納得できると思いますが、環境が原因になってしまうと、それは一生、心の中に傷として残ってしまいます」

誰もが後悔せず生きられるような環境をつくらなければ、と語るタツナミ氏。そのためには、研究者・実践者としてのベースをもちつつも、マイクラ教育をより広く社会に認知させるため、教育とエンターテインメントを組み合わせるような活動も必要だと話します。
マイクラ教育を社会に広げ、次世代を担う子どもたちがさまざまな才能を開花させる環境をつくりあげる。タツナミ氏の挑戦は、未来の日本の宇宙産業を支える人材育成にもつながっていきそうです。
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