長期の宇宙探査を支える「半永久電源」とは? 技術開発の最前線に迫る

長期の宇宙探査を支える「半永久電源」とは? 技術開発の最前線に迫る

太陽光がほとんど届かない深宇宙や、夜が2週間も続く月面。こうした環境で探査・開発を進めるには、太陽電池に代わる安定した電源の確保が必須です。

この課題解決に向け、宇宙戦略基金の枠組みの中で要素技術の開発が進められているのが「半永久電源」です。この電源は原子力発電で生じる物質を利用しており、メンテナンスをせずとも、長期間電力供給が可能になるといいます。

半永久電源とは一体どのような仕組みで、どのような使い方ができるのでしょうか。開発を率いる、日本原子力研究開発機構(JAEA)NXR開発センター 研究主席の高野公秀氏に、技術開発の最前線を聞きました。


高野 公秀(たかの・まさひで)
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所
NXR開発センター 研究主席 兼 RI電池熱源開発特別チームリーダー
1996年北海道大学大学院工学研究科原子工学専攻修士課程修了、旧日本原子力研究所研究員採用。超ウラン元素を含有した核燃料の研究開発に長年従事。2006年博士(工学)学位取得(北海道大学)。2011年の福島第一原子力発電所事故以降は燃料デブリの性状研究にも従事。2024年4月に発足したNXR開発センターにおいて、Am半永久電源の開発責任者となり、現在に至る。

原子力発電の副産物を、宇宙探査・宇宙開発の推進力に

高野氏が所属するNXR開発センターは、「Nuclear(原子力)」と「Renewable(再生可能エネルギー)」の頭文字から名付けられました。原子力と再生可能エネルギーを二者択一ではなく、組み合わせて利用することを目指す研究拠点です。その活動には3つの柱があり、共通するのは「原子力発電の中では価値が低いものの、ほかの分野で有効活用できる資源」に着目している点です。

例えば、使用済み核燃料の中には、白金族などの貴金属や、がんの診断・治療に使える放射性物質が含まれています。また、天然ウランを燃料に濃縮する過程で生じる「劣化ウラン」の化学的特性を利用した蓄電池(ウランレドックスフロー電池)への応用も研究されています。現状、放射性廃棄物として地中深くに埋める地層処分が検討されている放射性物質を資源として活用できるようにしようというのがセンターのねらいです。

そして3つ目の柱が、高野氏が率いるアメリシウム(Am)を用いた半永久電源の開発です。

「使用済み核燃料の中には、アメリシウムという元素が生成されます。これは自ら熱を出す性質をもつため、地層処分する際には厄介な廃棄物の一つとされてきました。しかし、その発熱を逆に利用し、原子力以外の分野で役立てようというのがわれわれの開発の趣旨です」(高野氏)

これまで核燃料の研究者として、アメリシウムを核分裂させて減らす「核変換」という技術開発に長年携わってきた高野氏。アメリシウムを熟知する経験から、この電源開発の責任者に選ばれました。意外にも、これまで宇宙開発との接点はなかったといいますが、基金事業への採択前から、探査機用の原子力電池に関する問い合わせなどはあったとのこと。こうした経緯が基金での技術開発の下地になっているといえそうです。

半永久電源開発の全体像。プルトニウム(Pu)からのアメリシウム(Am)の分離、アメリシウムのペレット化、発電という実証済みの技術を用いて宇宙向け電源の開発を行い、将来的に宇宙と地上の両方で活用するねらいです
提供:日本原子力研究開発機構

放射性物質の熱を利用した発電 「半永久電源」の仕組み

「半永久電源」とは、どのようなものでしょうか。これは「原子力電池」や「RI(放射性同位体)電池」とも呼ばれ、放射性物質が崩壊する際に放出する熱を電気に変換する装置です。

開発で用いられるのはアメリシウム241(Am-241)という放射性物質。これをペレットに焼き固めて金属製のピンに密封し、発熱体とします。アメリシウム241は「アルファ崩壊」という現象によりヘリウムの原子核(アルファ粒子)を放出しながら熱を発生させます。この熱を、半導体素子である「熱電変換デバイス」に伝えることで電気が発生します。

「熱電変換デバイスは、温度差を与えると電気が発生する仕組みになっています。電圧をかけると片面が冷たく、もう片面が熱くなる冷却装置『ペルチェ素子』がありますが、われわれはその逆の使い方をしています。発熱体にデバイスを取り付け、放熱板で反対側を冷やすことで温度差をつくり、電気を得るのです」(高野氏)

高野氏らの研究チームが開発を進める半永久電源の試験装置の構成イメージ(左)と、LED電源を点灯させた様子(右下)
提供:日本原子力研究開発機構

この電源が「半永久」と呼ばれる理由は、アメリシウム241の半減期にあります。アメリシウム241は、放射能(熱量)が半分になるまでに432年という非常に長い年月を要するため、一度設置すれば数百年、利用可能です。メンテナンスも不要で、太陽光の有無にかかわらず安定して電力を供給できる点が大きな利点です。

実は、同様の電源は1960年代からアメリカで宇宙探査機に利用されてきました。1977年に打ち上げられたボイジャー1号・2号が星間空間から今なお信号を送り続けているのも、この原子力電池のおかげです。

ただし、アメリカが用いているのはプルトニウム238。これはアメリシウム241に比べて約5倍の発熱量をもつ一方、核兵器用プルトニウムと同等の高度な製造技術が必要な上、規制上も核燃料物質として厳重な管理が求められます。そのため、現状プルトニウム238による原子力電池を実用化しているのはアメリカ、ロシア、中国の3カ国に限られます。

対してアメリシウムは、日本国内の規制上、プルトニウムよりも取り扱いのハードルが低いという利点があります。ヨーロッパでも同様にアメリシウムに着目した開発が進んでおり、日本は純国産の原料と技術でこの分野をリードしようとしています。

アメリシウムは国内にあるプルトニウムから分離・精製することができるため、原料自給の面でも利点があるといいます

宇宙へ飛ばすための最大の課題、「安全性」への挑戦

半永久電源の発電原理自体は古典的な技術の集大成であり、新たな技術的ブレイクスルーが必要なものではないと高野氏は話します。しかし、宇宙用電源として開発するうえで最も難しい課題は、「安全性」の確保にあるといいます。

「ロケットでの打ち上げには、必ず事故のリスクが伴います。爆発や指令破壊、軌道投入に失敗して大気圏に再突入するといったさまざまなシナリオを想定し、どのような事態が起きてもピンの中からアメリシウムが漏れ出ない設計にすることが最も重要です」(高野氏)

爆発の衝撃に備えて内部をタングステンという重金属の容器で守ったり、ロケット燃料の火炎に耐えるため、炭素繊維複合材でできた断熱材(アブレータ)で覆ったりと、多重の防護策が検討されています。2026年度中に、産業技術総合研究所の協力のもと、探査機に搭載された推進剤の爆発を想定した爆破試験も計画されているとのことで、極限状況での耐久性を検証する予定です。

また、高野氏の研究チームはアメリシウム特有の課題の解決にも取り組んできました。アメリシウムの酸化物は温度や周囲の酸素濃度によって結晶構造が変化しやすく、安定したペレットの作製が難しいという性質があります。これに対し、研究チームは、添加物を混ぜて均一に溶け込ませる「固溶」という手法で結晶構造を安定化させることに成功。高品質な発熱体の製造に道筋をつけました。

これらの基礎検討を経て、開発は宇宙戦略基金事業として2029年2月までの計画で本格化しています。最終的なゴールは、実際にアメリシウムのペレットが封入されたピンを入れた電源のプロトタイプを作製し、技術的に打上げ可能なレベルにあることを実証することです。

アメリシウムの試作ペレット(右)と、遠隔操作でペレットを作製する様子(左)。ペレットが密封されたピンは紙タバコ1本ほどの大きさです
提供:日本原子力研究開発機構

宇宙でも、地上でも。半永久電源のニーズ開拓

今回開発される半永久電源は、まず1基あたり熱量8ワット、電力0.5ワットという小さな出力から始まります。これは、放射性物質の輸送に関する国内規制の枠内で、比較的簡便な手続きで運べる上限から設定されたものです。そのため、より大きな電力が必要な場合は複数基を搭載することを想定しているといいます。

具体的な半永久電源の活用シーンとしては、月面探査用の機器類や、太陽光がほとんど届かない木星・土星といった深宇宙を航行する探査機の電源などが挙げられます。さらに月面では、マイナス170℃にもなる極寒の夜間に機器を保温するための熱源としても役立ちます。

そして、半永久電源の応用先は宇宙に限りません。高野氏らは、地上でのニーズ開拓も視野に入れています。

「人が容易に近づけない海底の地震計や、南極の気象観測装置など、長期間メンテナンスフリーで稼働させたい機器への応用を考えています。また、海底を移動する無人探査機のための『充電ステーション』といったアイデアもあります。海洋や極地の研究機関ともコンタクトし、ニーズの開拓を進めていきたいと思っています」(高野氏)

地上でのニーズ開拓は、エネルギー源となるアメリシウムの将来的な供給体制の構築にも重要な観点です。アメリシウムを国内で安定的に製造するには、プルトニウムから化学的に分離するための専用施設が必要となり、その建設には多額の費用がかかります。宇宙と地上、双方のニーズを掘り起こすことは、原子力電源の燃料自給に向けた第一歩といえます。

厄介な廃棄物と見なされていた物質をエネルギー源に変え、宇宙と地球の双方で役立てる。半永久電源の開発は、原子力技術の幅を広げる挑戦であるともいえます。宇宙探査・宇宙開発を支えるエネルギーの開発に向け、研究チームは着実に歩みを進めています。

宇宙はもちろん、深海底や南極など、人が到達することが難しい環境に半永久電源の活躍の場があると語る高野氏。今後の開発の進展が注目されます

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