宇宙開発の技術といえば皆さん何を思い浮かべますか?爆音を上げて打ち上がるロケットでしょうか?それとも精密な機器を搭載した人工衛星でしょうか?宇宙開発では様々な技術を結集して困難なミッションを成し遂げていますが、これらを共通して支えているもののひとつが”材料”の技術です。今回は“CFRP“という材料に着目し、材料の技術がどのように宇宙開発を支えているのかを解説していきます。
CFRPとは?何がすごい?
CFRPとは、Carbon Fiber Reinforced Plastics (炭素繊維強化プラスチック)の略であり、その名の通り、炭素繊維で強化されたプラスチックのことです。炭素繊維は「軽くて強い」素材として知られていますが、繊維単体のままでは構造材料として使うことができません。そこで、炭素繊維をプラスチックに埋めて固めることで、軽くて強い構造材料として使うことができるようになります。また、CFRPは炭素繊維の方向によって性質が変わるため、この方向を様々に組み合わせることで材料全体の性質を変えることもできます。
炭素繊維
Credit:帝人
https://www.teijin.co.jp/products/carbon-fiber/
CFRPは「鉄よりも強くアルミより軽い」と称されています。強度と剛性(強度:どれくらいの力で壊れるか, 剛性:どれくらい硬くて変形しにくいか)をそれぞれ密度で割った値である比強度と比剛性を比べてみましょう。CFRP・アルミ・鉄の比強度と比剛性を下のグラフに示します。グラフから分かるように、CFRPは圧倒的に軽くて強い/軽くて硬い材料なのです。この特徴を生かして、ゴルフシャフトなどのスポーツ・レジャー用品から航空機や自動車などの工業製品にいたるまで、幅広い分野で利用されています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/66/9/66_448/_pdf
(株)産業技術サービスセンター,新版 複合材料・技術総覧,2011,p.155
宇宙開発で活躍するCFRP
宇宙開発では軽量化が非常に重要です。少しでも軽くすることで打ち上げのコストを大きく下げることができるためです。そこで活躍するのがCFRPです。ロケットでは衛星フェアリングや段間部、固体ロケットブースターケースに使用され、人工衛星では太陽電池パネルやアンテナ、トラス構造部材に使用されています。耐熱性や耐衝撃性の観点から金属も上手く活用しながら、CFRPによって軽くできるところはできるだけ軽くして作ることで、宇宙開発を支えています。
H-IIAロケット42号機
Crdit:三菱重工
三菱重工 | MHI 打上げ輸送サービス: H-IIA 42号機 カウントダウンレポート
準天頂衛星システム「みちびき」(QZSS)
Credit:三菱電機
三菱電機 | 準天頂衛星システム「みちびき」(QZSS) (mitsubishielectric.co.jp)
「ゼロ熱膨張」によって実現する高精度観測
CFRPの特徴は軽さだけではありません。CFRPは、炭素繊維とプラスチックをうまく組み合わせることで、熱を加えても膨張しない「ゼロ熱膨張」の性質を持たせることができます。通常、物質は熱くなると膨張し、冷えると収縮するという性質を持ちます。しかし炭素繊維は、熱くなると縮み、冷えると伸びるという、逆の性質を持っています。この性質をうまく利用することで、CFRP全体として熱くなっても冷たくなっても伸び縮みしない「ゼロ熱膨張」を実現でき、温度変化があっても変形しない構造を作ることができます。
では、この性質はどのように宇宙開発に役立つのでしょうか。
人工衛星は地球の周りを回っていますが、太陽光を直接受ける時と地球に隠れて日陰になる時があり、この時の温度差は200°Cにも達するといわれています。すると、普通の材料を使っている場合、その温度差で構造の形が微妙に変わってしまい、通信アンテナや光学機器の性能が落ちてしまうことが問題となります。そこで、ゼロ熱膨張の性質を持つCFRPを用いることで、温度変化があっても変形せずに、本来の性能を維持することができるようになります。
「そら」の技術を身近に感じて 空と宙, JAXA
https://www.aero.jaxa.jp/topics/magazine/pdf/sorasora_no38.pdf
まとめ
今回はCFRPという材料について解説し、軽くて強い/軽くて硬い性質によって打ち上げコスト削減に貢献していることや、「ゼロ熱膨張」によって高精度な通信や観測を実現しているということをお伝えしました。実はこの他にも、電波を透過させたり熱が伝わりやすかったり放射線の遮蔽効果が高かったりなど、CFRPは面白い性質をたくさん持っています。皆さんが次に宇宙開発のニュースを見た時には、それを支えている材料の技術にも思いを馳せて、より深く宇宙開発の面白さを味わってもらえたら幸いです。
SPACEMedia編集部