最大で10連休となった2024年のゴールデンウィーク。そんな中でも宇宙業界ではさまざまなニュースが発信された。
今日は4月下旬から5月初旬に発表された主要な情報を紹介する。
目次
ispaceの米国法人、2基のリレー衛星を活用したデータサービス開始を発表
株式会社ispace(東京都中央区、代表取締役 袴田武史、参考記事)は、4月25日、同社の米国法人、ispace technologies U.S., incが、2基のリレー衛星を活用した新たなデータサービスを開始すると発表した。
リレー衛星とは、通信の中継を担う衛星のことで、今回発表された2基のリレー衛星は、月の南極付近に位置するSchrödinger Basin(シュレーディンガー盆地)に着陸する予定の月着陸船・APEX1.0ランダーと地球との間の通信を可能にする。
このリレー衛星は、ispace U.S.が2026年に予定しているミッション3で打ち上げられ、APEX1.0ランダーにより月周回軌道に展開される計画となっている。
2基のリレー衛星は月のほぼ全球をカバーする月の極軌道、高円極軌道を航行し、7割近くの月面南極域と地球の間の通信が可能となるため、貴重なデータサービスの利用機会を提供できるようになるという。
「宇宙戦略基金」の基本方針・実施方針が決定
4月26日、10年間で総額1兆円規模の支援を行う「宇宙戦略基金」の基本方針と実施方針が決定された(内閣府サイト)。
事業全体として、1)宇宙関連市場の拡大、2)宇宙を利用した地球規模・社会課題解決への貢献、3)宇宙における知の探究活動の深化・基盤技術力の強化、の3つを目標とし、JAXAに設けられた基金を活用していくことになる。
基金で支援が行われるテーマについては、今年3月に策定された「宇宙技術戦略」の内容が参照されており、総務省では1)衛星量子暗号通信技術の開発・実証、2)衛星コンステレーション構築に必要な通信技術(光ルータ)の実装支援、3)月面の水資源探査技術(センシング技術)の開発・実証、4)月-地球間通信システム開発・実証(フィージビリティスタディ)の4テーマが、文部科学省では1)宇宙輸送機の革新的な軽量・高性能化及びコスト低減技術、2)将来輸送に向けた地上系基盤技術、3)高分解能・高頻度な光学衛星観測システム、4)高出力レーザの宇宙適用による革新的衛星ライダー技術、5)高精度衛星編隊飛行技術、ほか13テーマが、経済産業省では1)固体モータ主要材料量産化のための技術開発、2)宇宙輸送システムの統合航法装置の開発、3)商業衛星コンステレーション構築加速化、4)衛星サプライチェーン構築のための衛星部品・コンポーネントの開発・実証、5)衛星データ利用システム海外実証(フィージビリティスタディ)の5テーマが計上されている。
H3ロケット3号機、6月30日に打上げ ペイロードは先進レーダ衛星「だいち4号」
4月26日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2024年6月30日に種子島宇宙センターからH3ロケット3号機を打ち上げると発表した。
ロケットのペイロードは先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)。陸域観測技術衛星2号「だいち2号」の後継機であり、3メートルという空間分解能を維持しつつ、観測幅を4倍の200キロメートルに拡大することで、平時における地殻・地盤変動などの観測頻度が向上している。
打ち上げの詳細は下記の通り。
打上げ予定日:2024年6月30日(日)
打上げ予定時間帯:12時6分42秒~12時19分34秒(日本標準時)
打上げ予備期間:2024年7月1日(月)~2024年7月31日(水)
打上げ場所:種子島宇宙センター 大型ロケット発射場
商業デブリ除去実証衛星が軌道上で撮影したデブリの画像を初公開 アストロスケール
同じく4月26日、デブリ除去をはじめとする軌道上サービスの提供を目指す株式会社アストロスケール(東京都墨田区、代表取締役社長 加藤英毅)は、同社の商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」がターゲットとして接近している大型デブリの画像を初公開した。
デブリから数百メートルという近距離で撮影した画像が公開されるのは世界初だという。
今回の実証の対象となっているのは、2009年に打ち上げられたH2ロケットの上段(参考記事)。画像が撮影されたことで、デブリの姿勢や表面の劣化状況も明らかとなった。
こうした知見は今後の実証フェーズに活かされる重要なもので、デブリ捕獲に挑むCRD2フェーズⅡが待たれる。
光学衛星による「撮影サブスクリプションサービス」の提供を開始 アクセルスペース
小型衛星の製造・運用や地球観測プラットフォームを展開する株式会社アクセルスペース(東京都中央区、代表取締役CEO 中村友哉、参考記事)は、4月26日に同社が開発した5機の光学衛星・GRUS(グルース)による撮影ができる「撮影サブスクリプションサービス」の提供を開始したと発表した。
このサービスはユーザーが画像購入を前提とせず、手軽に衛星による撮影を行える点が特徴で、既定の期間内に、場所とタイミングを指定することで撮影を行うことができる。
同サービスを株式会社読売新聞東京本社が採用したこともあわせて発表された。読売新聞では、画像を分析してウクライナ情勢などの調査報道に活用しているという。
アストロスケールHD、東証グロースへの上場が承認 上場日は2024年6月5日を予定
5月1日、株式会社アストロスケールホールディングス(東京都墨田区、代表取締役社長兼CEO 岡田光信)は、同日に株式会社東京証券取引所から、東京証券取引所グロース市場への新規上場を承認されたと発表した。
上場予定日は2024年6月5日。
同社は現在、衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去、既存デブリの除去、衛星の寿命延長、故障機や物体の観測・点検といったサービスの開発に取り組んでいる。
同社が取り組む軌道上サービスはもちろん、宇宙ビジネスは国内だけでなく世界的な展開が望めるビジネスであり、さらに後に続く企業が増えることを期待したい。
スペースシードHDがSPACE FOODSPHEREのプログラムに参画、発酵・医療・養殖の3領域で技術開発を推進
新技術のテーマ探索やスタートアップへの投資育成、アカデミア等との共同研究を行うスペースシードホールディングス株式会社(東京都港区、代表取締役 鈴木健吾)は、5月2日、同社が4月に一般社団法人SPACE FOODSPHERE(スペースフードスフィア)が実施する「SPACE FOODSPHERE」プログラムに参画し、宇宙と地球上における「完全資源循環型かつ超高効率な食料供給システム」に関連する研究開発ならびに事業開発を推進することを発表した。
SPACE FOODSPHEREは、産学官の共創でフードテック等、食に関連する技術を発展・統合させて極限環境である宇宙での暮らしの課題解決を図るとともに、そこで得られた技術や知見を地球上の課題解決にも活かすことを目指した団体。
スペースシードホールディングスでは、「SPACE FOODSPHERE」プログラムにて、宇宙×発酵、宇宙×医学、宇宙×養殖の3領域における、宇宙と地上それぞれの課題解決につながる研究開発テーマに取り組むことを想定。
「宇宙×発酵研究」としては特殊な環境下での発酵菌の生育状態と発酵効率を評価するための基礎実験、「宇宙×医学」では異なる環境下においた培養細胞やヒト臨床試験におけるオミクス関連の解析とエクソソーム(細胞から分泌されるナノサイズの顆粒状物質)の詳細な分析、「宇宙×養殖」では宇宙空間を前提とした養殖種、養殖技術の開発といった研究開発を進めていくという。