ロケットエンジンの仕組み – H3ロケットのすごさとは?

爆音をあげながら凄まじい迫力で打ち上がるロケット。数百トンもあるロケットを打ち上げるには凄まじい大きさの推力が必要になります。一体どのようにしてそんなにも大きな推力を出しているのでしょうか。今回は液体ロケットの仕組みに着目して、エンジンサイクルについて説明していきたいと思います。そして、それを踏まえてH3ロケットに搭載される新型エンジンLE-9の魅力をお伝えしていきます。

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ロケットの大まかな分類

はじめに、ロケットが推力を得る過程を簡単に説明してみましょう。ロケットには推進剤(燃料と酸化剤) が搭載されており、これを化学反応 (=燃焼) させることで高温高圧のガスを発生させます。これが高速に噴出されることでロケットは推力を得ます。

搭載する推進剤の状態によって、ロケットは大まかに固体ロケットと液体ロケットに分類されます。固体ロケットでは推進剤をあらかじめゴムに練りこんで成型し、これを燃やします。一方、液体ロケットでは液体の燃料と酸化剤を分けておいて、それぞれ燃焼室に送り込んで燃やします。

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固体ロケットでは一度点火すると最後まで推進剤が燃え続け、推力の調整をすることができませんが、液体ロケットでは推進剤の流量を変えて推力の調整をすることができるため、衛星等を狙い通りの軌道に打ち上げることができます。

大型の液体ロケットでは高圧の燃焼室に推進剤を送り込むためにターボポンプ(液体を高圧にする装置)が必要となるので、液体ロケットは複雑な構造となります。そして、そのターボポンプをどう駆動させるかで液体ロケットはさらに分類されます。

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液体ロケットのエンジンサイクル

大別すると、ターボポンプを駆動するガスの発生方法と処理方法はそれぞれ2通りあります。

駆動ガスの発生方法は

  1. 副燃焼室での燃焼ガス:
    推力を生み出す主燃焼室とは別に副燃焼室を用意し、燃料と酸化剤の一部を用いて高温高圧の燃焼ガスを発生させる
  2. ノズル冷却に用いた燃料蒸気:
    液体燃料で高温のノズルを冷却し、その熱交換により燃料を気化させる

処理方法は

  1. 主燃焼室に戻す
  2. 外に捨てる

これらの掛け合わせで4通りのサイクルに分類することができます。

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まず、副燃焼室を用いる方法について説明します。駆動ガスを主燃焼室に送り込むのが二段燃焼サイクルで、外に捨てるのがガスジェネレータサイクルです。いずれも副燃焼室で駆動ガスを発生させるので大きな力でターボポンプを動かすことができるため、大推力が求められる1段目のロケットエンジンに採用されることが多いです。

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各サイクルの模式図を示しましたが、以下のことに注意して見てみるとシステムの流れがつかみやすいと思います。

  • 副燃焼室の燃焼ガスがタービンを回すことでターボポンプが駆動する
  • 推進剤はターボポンプを通過すると圧力が上がる
  • ターボポンプ以降は圧力が高い方から低い方に推進剤が流れる

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各サイクルでの圧力比較
(主燃焼室圧力が同じでも、二段燃焼サイクルの方が高圧なシステムが要求される)
三菱重工 技術資料より作成
https://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/e484/e484036.pdf

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それぞれのサイクルを簡単に説明していきます。

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二段燃焼サイクル

副燃焼室で駆動ガスを発生させるので大きな力でターボポンプを動かすことができ、駆動ガスを捨てずに利用するので効率が良いです。しかし、圧力が主燃焼室<タービン下流<タービン上流<副燃焼室<ターボポンプ下流となるため、ターボポンプでの圧力増加が非常に大きくなります。そのためシステム全体が高圧環境下で作動することになり、開発が困難になります。

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ガスジェネレータサイクル

副燃焼室で駆動ガスを発生させるので大きな力でターボポンプを動かすことができますが、駆動ガスを捨てるので効率が少し落ちます。しかし、ターボポンプ下流で求められる圧力は主燃焼室の圧力以上で済み、二段燃焼サイクルよりも要求が易しくなるため、開発コストを抑えることができます。

次に、ノズル冷却後の燃料蒸気でタービンを駆動する方法について説明します。駆動ガスを主燃焼室に送り込むのがフルエキスパンダーサイクルで、外に捨てるのがエキスパンダーブリードサイクルです。ノズル冷却時の熱によるエネルギーを用いているため、あまり大きな力でターボポンプを駆動することはできないとされていますが、副燃焼室のための複雑な構造が不要となります。

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フルエキスパンダーサイクル

駆動ガスを捨てずに利用できるため効率が高いですが、燃焼室圧力をあまり大きくしようとするとタービンの排圧(タービン下流の圧力)が大きくなりバランスが取れなってしまうため、大きな推力を出すことはできません。そのため、上段のロケットエンジンに採用されています。

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エキスパンダーブリードサイクル

駆動ガスを捨てるため効率は少し落ちてしまいますが、タービンの排圧が小さいため高い効率でターボポンプを駆動することができ、さらに燃焼室圧力を高くすることで大きな推力を実現することができます。このエンジンサイクルは、H-Ⅱロケットの2段目エンジンとして日本で初めて実用化されました。

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H-IIAロケット42号機
1段目は二段燃焼サイクルで2段目はエキスパンダーブリードサイクル
Crdit:三菱重工
三菱重工 | MHI 打上げ輸送サービス: H-IIA 42号機 カウントダウンレポート

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H3ロケットの新型エンジンLE-9のすごさ!

では、ここまでの話を踏まえてH3ロケットのエンジン開発について紹介します。H3ロケットとはH-ⅡA/H-ⅡBロケットに次ぐ新たな国産ロケットとして三菱重工が開発している新型ロケットです。H3ロケットは、日本の国際競争力を高めるべく、低価格で高い信頼性を持つロケットとして開発が進められています。

そして、そのH3ロケットの最も重要な技術は1段目に用いる新型エンジンLE-9です。H-ⅡA/H-ⅡBロケットにでは二段燃焼サイクルのLE-7Aというエンジンが1段目に使用されていましたが、H3ロケットで用いるLE-9エンジンはエキスパンダーブリードサイクルなのです。副燃焼室を持たないエンジンサイクルで1段目の大推力エンジンを実現するのは世界で初めてとなります。

エキスパンダーブリードサイクルであれば、副燃焼室を持たないためシンプルな構造となるため、製造コストが低減できます。また推進剤の制御も容易であり、故障した場合にエンジンが暴走するということもありません。こうしたことから、低コストかつ高信頼性を備えたエンジンを実現することができます。その他にも、製造コストを削減するために3Dプリント技術の新しい製造技術を導入するなど、これまでにはない試みが様々あり、見どころ満載となっています。

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H3ロケットの1段目LE-9エンジン
Credit: 三菱電機

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まとめ

今回は、液体ロケットの主要なエンジンサイクルについて紹介しました。そしてその解説をもとに、エンジンの観点からH3ロケットのすごさについて解説しました。この記事を通じて、ロケットエンジンの技術に興味を持ってくれたら幸いです。

世界の各社のロケットについても、是非どんなサイクルのエンジンなのか調べてみてください。きっと、ロケット開発のニュースをより一層楽しむことができるはずです。