「国際宇宙ステーション「きぼう」利用シンポジウムDAY1」が1月19日にYouTubeでのLIVE配信で開催されました。4日間を通して、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の利用について、サイエンス利用やビジネス利用、技術実証利用など、熱く議論が繰り広げられます。
第1日目は、テレビ東京の大江麻理子アナウンサーを総合司会に迎え、東京大学の中須賀真一教授を始めとした宇宙業界を代表する方々がパネラーとして登壇し、「未来への挑戦状~「きぼう」の全貌に迫る~」をテーマにパネルディスカッションが行われました。
今回はそのパネルディスカッションの一部を紹介します。
<イベント概要:Day1>
開催日時:2022年1月19日(水)19:00~
会場:YouTubeでのLIVE配信(無料)
出演者:
[総合司会・モデレーター]
大江 麻理子(テレビ東京/『WBS(ワールドビジネスサテライト)』キャスター)
[パネラー]
山本 雄大(三井物産株式会社 輸送機械第四部 宇宙事業開発室 プロジェクトマネジャー)
中須賀 真一(東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 教授/内閣府宇宙政策委員会委員)
青木 節子(慶応義塾大学大学院法務研究科 教授/内閣府宇宙政策委員会 委員)
関 光雄(株式会社竹中工務店 技術研究所 未来・先端研究部 高度空間制御グループ グループリーダー)
小川 志保(JAXA 有人宇宙技術部門 きぼう利用センター センター長)
佐々木 宏(JAXA/理事・有人宇宙技術部門長)
白川 正輝(JAXA/有人宇宙技術部門 きぼう利用センター きぼう利用企画グループ グループ長)
議題1:ISS「きぼう」はどのようなことに使われているのか
議題1では、これまでISSがどのように利用されてきたのかについて、実際にISSの活用事例が紹介され、民間利用の広がりを感じさせました。
JAXA・小川氏 JAXAは「きぼう」利用サービスのプラットフォームの構築を行いました。利用機会を増やし、簡単に利用できる仕組みをつくることでビジネスにおけるスピード感の実現。また、民間企業の方々が利用したいとなった際に相談できるワンストップの窓口「J-SPARC(宇宙イノベーションパートナーシップ)」も立ち上げました。その結果として、ここ数年民間利用の取り組みが増えてきているのではないかと思います。
三井物産グループでは2018年よりJAXA民営化案件第1号として世界中の大学や研究機関向けに超小型衛星放出の枠を提供しています。
三井物産・山本氏 衛星が小型化し、ISS「きぼう」からの衛星放出のコストが下がるにつれ、宇宙へのアクセスがいろいろな方にされやすくなりました。2000年中ごろまでは、宇宙関連機器を輸入し国内で販売するいわゆる商社の役割を担っていましたが、規模が縮小していきました。民間の知見やアイディアが取り入れられるようになってきたこのタイミングで、再度宇宙に挑戦しようという流れになりました。
また、竹中工務店は袋栽培を開発。実際にISSにおいて、袋栽培を用いてレタスを栽培しました。現在は栽培したレタスを地上に持ち帰ってきて、分析を行っています。
竹中工務店・関氏 人が長く住むという観点において、食と住というのはセットで非常に重要なものであると考えています。そこに着目し、今回実験に至りました。
袋栽培でレタスが生育している様子
Credit:竹中工務店
議題2:ISS「きぼう」のこれまでの成果は今後どのように役立ちそうか
議題2では、これまでISSの利用で得た成果から、今後期待されることについて議論されました。ISSの利用は、超小型衛星放出事業の可能性やISSでの事業を通した人材育成、はたまた国際協力の場へと、期待は膨らむばかりです。
東京大学・中須賀氏 ISSから衛星を放出できるということは非常に柔軟性が高いです。また、竹中工務店が開発を行っている袋栽培も地球上の辺鄙な土地や砂漠でも技術の応用にも繋がり、地球上へのスピンオフもあるのではないでしょうか。このような研究を活発化していこうということで、農林水産省は「スターダストプログラム」というものを立ち上げ、積極的に動いています。今後も、宇宙そして地球にも役に立つ研究開発を行っていきたいと思います。
慶応義塾大学・青木氏 多くの国が人類史上、宇宙における最も複雑で巨大なものを建設し、ISSを国際協力のもと動かす法規則を作り上げてきました。原則として変更することができない政府間の協定(条約)では、国際協力でどのようなことをするのかというのが定められています。一方で、超小型衛星などの新しい動きに対するルールは全て文書で、柔軟に作ることが可能になっています。原則と柔軟な部分を組み合わせ、これを多国間で行ったということは非常に素晴らしいことです。この経験は今後、低軌道から月面へ有人活動が拡大する際の素晴らしいモデルとなるのではないでしょうか。
大江アナウンサー 地上では状況によって国家間の関係は悪化するときもあるが、宇宙では常に協力をしていく必要があります。そういった意味でISSは、人類の知恵の結晶のようなものなのではないでしょうか。
ISS(国際宇宙ステーション)
議題3:ISS「きぼう」を活かすためにJAXA・民間・研究機関はどのように動いたらいいのか
議題3は、ISSを活用するため、それぞれの立場でどのように活動したらよいか、具体的なアイディアが述べられました。ISSの将来を国際協力の観点から、JAXAへの提言まで、議論は幅広く繰り広げられました。
慶應義塾大学・青木氏 多国間協力を民間とともに拡大していく必要があります。多国間で宇宙を切り開いていくというモデルを示すことが重要になると思います。
東京大学・中須賀氏 安全審査をスマートなものに改正し「きぼう」利用をもっと広めていくことが重要です。また、宇宙への輸送コストを削減することも必要です。宇宙飛行士の代わりにロボットを活用するロボティックス宇宙ステーションもいいのではないでしょうか。
さらに、東京大学・中須賀氏は様々な用途でISSが活用される世界をつくっていくことの大切さを主張しました。
東京大学・中須賀氏 今後、発展途上国や新興国の子どもたちの教育のために宇宙をもっと活用していくべきだと考えます。理科や科学の教育、そして宇宙から眺めると地球には国境が何もないというのを社会の教育に使うなど、様々な教育ができると思います。ISSをひとつのキーステーションとしてそのような教育のアイディアを出していくことで、宇宙を様々な分野で利用しようという動きが活発になると思います。今後、JAXAそして民間企業が一緒になって発展させていくことができるといいですね。
2021年度 第2回「きぼう」ロケットプログラミング競技会
Credit: JAXA
振り返りセッションでは、大江アナウンサーがJAXA・白川氏に対し、「今後の「きぼう」利用について」「宇宙ビジネス領域について」「幅広い分野で利用されるISS」に関するお話を伺いました。
JAXA白川氏 近年、民間企業が主体的に利用するようになったのは大きな転換であると感じています。今後、地球低軌道に民間企業が関わっていくことを見据え、シームレスに利用可能な仕組みや制度を構築していく考えです。また、SDGsへの貢献や、アジア唯一のISS参加国として、アジア諸国にも成果を共有していくのが重要であると思っています。さらに、地上にいる方にも成果を感じていただけるよう、JAXAだけでなく「きぼう」を利用した方々の意見を反映していくことが必要不可欠ではないでしょうか。
商社から人材育成、国際協力まで幅広い意見を聞くことができ、非常に興味深かったです。
今回は、パネルディスカッションの一部をご紹介しました。
下記のURLからすべてのパネルディスカッションの様子をアーカイブ映像で視聴可能です。ぜひご覧ください。
アーカイブ:https://www.youtube.com/watch?v=rCGvctUzY1c
また、次回以降は以下のスケジュールで、すべてYouTubeのLIVE配信が予定されています。
・Day2:2022年1月26日(水) 19:00~
・Day3:2022年2月2日(水) 19:00~
・Day4:2022年2月16日(水) 19:00~
ご興味のある方はぜひご視聴ください。