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国際宇宙ステーション「きぼう」利用シンポジウムDay2  本当にビジネスになるのか?地球低軌道ビジネスが挑む壁

「国際宇宙ステーション「きぼう」利用シンポジウムDAY2」が1月26日にYouTubeでのLIVE配信で開催されました。4日間を通して、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の利用について、サイエンス利用やビジネス利用、技術実証利用など、熱く議論が繰り広げられます。

第2日目は、ボストンコンサルティンググループの丹羽恵久氏をモデレーターに迎え、Space BD株式会社 代表取締役社長 永崎将利氏を始めとした宇宙業界を代表するメンバーがパネラーとして登壇し、「本当にビジネスになるのか?地球低軌道ビジネスが挑む壁」をテーマにパネルディスカッションが行われました。 今回はそのパネルディスカッションの一部を紹介します。

 

<イベント概要:Day2> 開催日時:2022年1月26日(水)19:00~ 会場:YouTubeでのLIVE配信(無料)

出演者:

[総合司会] 榎本 麗美(宇宙キャスター/「J-SPARC」ナビゲーター)

[モデレーター] 丹羽 恵久(ボストンコンサルティンググループ マネージングディレクター&パートナー)

[パネラー] 本原 守利(JAXA 有人宇宙技術部門 きぼう利用センター 技術領域主幹)

永崎 将利(Space BD株式会社 代表取締役社長)

朴 正義(株式会社バスキュール 代表取締役)

千葉 功太郎(千葉道場ファンド・DRONE FUND 代表パートナー / ホンダジェット国内1号機オーナー 兼 航空パイロット)

笹川 真(株式会社電通 ソリューションクリエーションセンター クリエーティブディレクター)

議題1:地球低軌道利用のマーケットは伸びている実感はあるか

議題1では、きぼう利用をした事業を行っている企業の方々から、具体的な事例とともに宇宙利用の裾野が広がっている実感について語られました。

 

きぼう船内に宇宙スタジオを設置してISSと地上をつないだ双方向コミュニケーションを実現し、ライブ配信番組などを実施している株式会社バスキュールの朴氏と、衛星打上げサービスやISSでの実験サービスを行っているSpace BD株式会社の永崎氏のコメントを紹介します。

 

バスキュール・朴氏 初めてライブ配信番組を行ったのが2020年の8月で、その時に連携したのが既に宇宙事業を行っているスカパーJSATでした。そこで技術実証に成功し、エンターテイメントとしてどのようなものになるのかを形にすることで、多くの人々に興味を持ってもらうことができました。当初、参画企業を集めるのは大変でしたが、いまでは宇宙が根本的に持っているメッセージが浸透していて、協力を得やすくなっています。また、始めた頃は新しいものとして1度きりのイベントだと認識されていましたが、最近は継続してこそ意味があると言われるようになり、宇宙の持つ可能性が伝わってきていると感じています。

ライブ配信番組の様子

Credit:バスキュール

 

ライブ配信番組の様子

2010秒頃

【KIBO宇宙放送局】開局特番 全編 – YouTube

 

年越しライブ番組の様子

KIBO宇宙放送局 THE SPACE SUNRISE LIVE 2021 | WORK – Bascule Inc.

 

Space BD・永崎氏 地球低軌道利用のマーケットが伸びてきている実感はあります。伸びを実感する指標の1つとして、宇宙利用をする企業の多様性が増しているということがあります。去年、預かった物を宇宙環境に暴露させて持って帰ってくるというプロジェクトを立ち上げ、6社の企業に参加していただきました。内訳としては、大学による研究目的の実験が2件、アドマンド並木の工業用ダイヤモンドの実験、マーケティング・ブランディングを目的とした東亜合成のアロンアルファの暴露、一般人から記念品を預かって宇宙に晒して持ち帰る損保ジャパンのサービス、佐賀県の取り組みであるSpace SAGAの記念品の暴露となっており、多様性の広がりを感じています。一方で、打上げの依頼者や我々サービス提供者が利益化できるのかという課題はあると思っています。

 

議題2:地球低軌道利用のマーケットを拡大していくには?

議題2では、宇宙利用をさらに拡大していくには何が重要であるかについてディスカッションが行われました。宇宙ビジネスの当事者として感じてきた課題や、宇宙利用の拡大を間近で見ている実感を基にしたお話であり、非常に説得力のある議論となりました。

 

バスキュール・朴氏 一般の人々と宇宙との繋がりを深くしていく取り組みがもっと必要だと思います。例えばバスキュールでは、宇宙から初日の出を見る年越しライブを実施していますが、こういうイベントは企業の協賛を得やすく、一般の方々にとっても関心を持ちやすいと感じています。宇宙事業は難易度が高く、我々プレイヤーはプロジェクトが成功することばかりに集中してしまうので、一般の方々にそれがどう伝わるのか、みんなをどう宇宙に繋げていくか、ということをもっと考えていく必要があると思います。現代の人々は世界との繋がりを実感しているから世界について当たり前に考えている、というように、さらにその上の、宇宙との繋がりを感じているから宇宙について当たり前に考えるというようなことになったら良いなと思います。

 

Space BD・永崎氏 利用者とそのビジネスモデルの多様性がカギになってくると思います。朴さんが指摘したように、今は宇宙が遠いものであるというイメージがまだまだあるので、どのように利用できるのかを可視化することが大事だと思います。そうして、人と知恵とお金が増えて、そこでビジネスの成功事例が生まれ、さらに参加者が増えるというサイクルを回してどんどん大きくしていきたいですね。

 

千葉道場ファンド・千葉氏 投資家の観点からいうと、宇宙事業を行うスタートアップへの投資というのはいまでは普通になっています。私は、小型衛星の地上基地局サービスを行うインフォステラや、軌道上でのデブリ除去や衛星修理サービスを行うアストロスケール、宇宙商社であるSpace BDにも投資をしていますが、これらは「ポスト宇宙利用マーケット」なのではないかと思っています。つまり、宇宙の利用が当たり前になった社会で必要な事業の可能性があるということです。ロケットのシェアリングサービスなど出てきましたが、これはインターネットでは当たり前のこと。あとは、前澤さんは宇宙で暇な時間をなんとか潰していましたが、宇宙での暇な時間を潰すエンタメもすごく重要。地上では当然のサービスが宇宙にはまだない、だからこれを作りましょう、これだけでもスタートアップの可能性がありますよね。

ロケットや人工衛星の開発を行うスタートアップは往々にして資金調達が課題になりますが、現在アメリカではSPAC上場というものが大ヒットしています。これは、SPAC(特別買収目的会社)を上場させて資金調達をし、その資金でスタートアップを買収することで、資金調達と上場を同時に達成するという手法です。去年この方法で上場した企業のほとんどが宇宙スタートアップでした。これまで株式市場では業績が目に見えていないと評価されませんでしたが、この方法によって、目に見えない潜在価値を評価してくれる人々から資金を調達する仕組みができたのではないかと思います。これは宇宙ビジネスと本当に相性が良くて、宇宙スタートアップにとっては革命的なことです。こうした動きが日本でも活発になってくれたらいいと思います。まさにクラウドファンディング的な考え方です。

 

電通・笹川氏 私は2015年から、月面探査ローバーを開発しているispaceを担当していますが、当時全く宇宙のことをわかっていませんでした。その時、宇宙ビジネスに関して情報収集をしようと思っても全然見つからず、JAXAの人から何度もレクチャーをしてもらいながらなんとか取り組んでいました。この経験から、情報をわかりやすく発信してみんなが宇宙ビジネスに参加しやすくしていくことが大事だと感じています。

 

スペースデリバリープロジェクトの対象品
Credit:SpaceBD

 

議題3:地球低軌道利用ビジネス拡大のためにJAXAがすべきことは?

議題3では、今後のマーケット拡大を推進するためにJAXAが何をすべきなのか、パネリストの方々による意見交換が行われました。

 

バスキュール・朴氏 宇宙業界では、プロトタイピング環境をつくるのさえとても困難なことです。宇宙ではそもそもやってみないとわからないという実態がある中で、仮に失敗した場合でも原因究明には時間もお金もかかります。この現状が多くの企業にとっての参入障壁になっていると思います。やってみないと分からないという環境であるがために、挑戦しやすい環境を整備することが必要ではないでしょうか。

 

Space BD・永崎氏 一つは、場を持ち続けていただきたいということで、ISSの運用延長をお願いしたいです。二つ目として、思い切って解放してほしいと思います。宇宙ビジネスでは儲けるということが未だに難しい業界です。宇宙では計画して打ち上げて実証すると非常にリードタイムが長いため、遅れがクリティカルになります。米国ではNASAが顧客として企業に発注をし、企業はNASAに対して利用料を払う必要がありません。そのため売り上げを利用してそこから勝負していくことが可能になっています。しかし日本の場合、JAXAに利用料を支払う必要があり、かつユーザーにはお金がつかないため、赤字で資金調達を繰り返すという課題があります。利用料を免除する形、あるいはユーザーにお金をつける仕組みに変えていただくと、時間の価値というのもさらにアレンジが効くのではないかと思います。

 

千葉道場ファンド・千葉氏 投資家という立場からしても、利用料は非常に高いと感じました。インターネットのように最初はフリーミアムから始め、大きくなった後にビジネスがあるのではないかと思います。大きくなっていない段階で、利用目的も明確ではないまま利用料は支払わなければいけないというのはマーケットとしての可能性が非常に低いのではないかと思います。まずは、フリーミアムプラットフォームを構築することが日本のスタートアップ企業にとってよいのではないでしょうか。

キーワードとして「小さく・早く・くだらなく」が思いつきました。とにかく小さいものも受け入れる、朝に申請をしたら夕方には実現ができるような早さ、そしてくだらないサービスでも受け入れるということが重要だと思います。くだらないものほどバズりがあり、裾野を広げていきます。そのようなプラットフォームであってほしいと思います。

 

電通・笹川氏 ISSというのは、宇宙の中での一つのやり方です。JAXAの方々は知っているので説明はしないと思いますが、新規ユーザーになるような方にとっては、ISSで行うことのメリットや違いが分かりにくいと思います。JAXA全体で取組んでいることや、ISSの位置づけがどのようなものか、膨大な情報の中で理解しやすいシステムになっているといいのではないかと思います。

 

JAXA・本原氏 米国はNASAのバックアップが強力なため、民間がかなり活性化しています。一方で、日本は公金が少ないということと、人手が足りていないという状況の中で、「きぼう」戦略にある5つのプラットフォームのように実験できるシステムを増やしていき、民間に技術移転を行っていくのが大事であると考えています。また、現在構築中である減免制度を成立し、新しい民間企業がユーザーインテグレーターとして参入するところをしっかりサポートしていきたいと思います。

またJAXAは公的機関であるため、手続きも煩雑であり、制約を減らすのには限度があります。民間がサービス展開の主体として入り、自由度を保ったまま利用展開することができれば、参画障壁を低くすることができるのではないかと思います。そのためにJAXAでは減免制度を確立し、技術移転を行い、人的サポートを行うことでバックアップをしていきたいと考えています。

 

今回は、パネルディスカッションの一部をご紹介しました。

 

下記のURLからすべてのパネルディスカッションの様子をアーカイブ映像で視聴可能です。ぜひご覧ください。

 

アーカイブ:https://www.youtube.com/watch?v=RU6PSCT34UY 

 

また、最終日のDAY4のスケジュールは以下の通りです。YouTubeでのLIVE配信が予定されています。

 

Day42022216() 19:00~

 

ご興味のある方はぜひご視聴ください。

公式サイト:https://iss-kibo.space/2021/