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宇宙開発が経験できる学生活動3選 – 朝ドラ「舞いあがれ!」にも登場

『航空宇宙工学と大学』をテーマとした本連載では、各大学の紹介とともに学生団体の活動についても何度か触れてきました。今回の記事では、学生のうちから航空宇宙のモノづくりができる活動として、CanSat、モデルロケット、人力飛行機についてまとめて紹介いたします。人力飛行機はNHK連続テレビ小説「舞い上がれ!」にも登場しますね!

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CanSat

CanSatとは教育用の小型模擬人工衛星のことで、実際に宇宙にはいかないものの人工衛星と同じ機能を持ったロボットとなっています。ジュースの空き缶サイズに始まったことからCan (缶) とSatellite (人工衛星) を合わせてCanSatと呼んでいます。各大学のサークルや研究室で製作されたCanSatは、上空から気球やモデルロケットから投下されて、落下する間にミッションを行います。

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缶サット・超小型衛星を用いた創造的科学技術人育成ネットワークの構築」の成果について
ジュース缶サイズのCanSat
Credit: 文部科学省

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CanSatの開発では人工衛星の開発を一通り経験できます。人工衛星は、一度ロケット搭載したならば、それ以降点検や修理などはできません。ミッションを行う前に何度も試験を繰り返し、1発で成功させなければなりません。また、地上からコントロールすることもほとんどできないため、搭載した衛星自身で判断して姿勢制御やミッション遂行をしなければなりません。CanSatも、一度気球やモデルロケットに搭載したならばやり直しはきかず、遠い上空で自分たちの開発したCanSatが正常に作動してミッションを成功させることを祈るしかありません。

現在では一回り大きいサイズ (直径約15  cm/高さ約25 cm) のCanSatもあり、大学ごとに工夫を凝らした様々な種類のCanSatがあります。主なイベントとしては秋田で開催される能代宇宙イベントと、アメリカのネバダ州ブラックロック砂漠で開催されるARLISSがあり、各大学の団体が集まってそれぞれの技術を披露する場となっています。ブラックロック砂漠の過酷な環境は火星にもたとえられます。

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打ち上がるロケットとCanSat (ARLISS, ブラックロック砂漠)

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盛んに実施されているのはカムバックコンペティションと呼ばれる競技で、地上の定められた目標地点にどれだけ近づくことができるかということを競います。着地してから地上を走行するローバー型、空中から直接飛行するパラフォイル型や飛行機型などがあり、各団体が毎年新技術の実証や記録更新を目指しています。

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ローバー型のCanSat
Credit: 中央大学精密機械工学研究部 Cansat班

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飛行機型のCanSat ロケット収納時
Credit: 東京大学

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飛行機型のCanSat ロケット展開時
Credit: 東京大学

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学生時代にCanSatの開発を経験して現在宇宙開発に携わっている方は数多くいらっしゃいます。はやぶさ2のプロジェクトマネージャを務めた津田雄一氏や、超小型人工衛星を開発する株式会社アクセルスペース社長の中村友哉氏などが有名です。

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モデルロケット

ロケットを製作して打上げている団体もあります。学生の製作するロケットは実際に宇宙まで到達するわけではありませんが、数百メートルから数千メートルといった高度まで到達することができます。国内の最高記録は神奈川大学の10.7キロメートルであり、全長4メートルにも達するロケットでした。

ロケットは固体ロケットと液体ロケットに大別されます。

(参考)ロケットエンジンの仕組み – H3ロケットのすごさとは?https://spacemedia.jp/technology/4209

それぞれに特徴がありますが、固体ロケットは一度点火すると燃焼を止めることができず、液体ロケットはターボポンプなどのシステムが非常に複雑であるという課題があります。そこでそれらの課題を補うロケットとしてハイブリッドロケットというものがあり、ほぼ全ての学生ロケットでハイブリッドロケットが採用されています。

ハイブリッドロケットとは、固体の燃料を持ちながら、液体の酸化剤を用いるロケットであり、酸化剤の流量を調節することで推進力を制御することができます。固体ロケットよりも安全であり、液体ロケットよりも開発しやすいのがハイブリッドロケットです。

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ハイブリッドロケットの概要
JAXAホームページより作成
https://www.isas.jaxa.jp/j/forefront/2012/shimada/

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ハイブリッドロケットの打上げは能代宇宙イベントや伊豆大島共同打上実験といったイベントで実施されます。試行錯誤を繰り返し、燃焼実験など数々の試験をクリアして本番に臨み、実際に自分たちの手で作ったロケットが打ちあがった時の達成感は非常に大きいものです。団体によってはロケットエンジンを1から自作しているところもあり、本格的なモノづくりを経験することができます。

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バットを持った人

中程度の精度で自動的に生成された説明
学生団体COREのハイブリッドロケット打上げの様子
Credit: 東京都立大学

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学生時代にハイブリッドロケット制作に取り組んでいた方として有名なのは、インターステラテクノロジズ株式会社社長の稲川貴大氏です。稲川社長は東京工業大学でロケットサークルCREATEを立ち上げ、その活動での経験が現在のロケット開発に直結しています。

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飛行機が空を飛んでいる飛行船のcg

低い精度で自動的に生成された説明
ハイブリッドロケット C-53J
Credit: 東京工業大学ロケットサークル CREATE

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人力飛行機

最後に紹介するのは人力飛行機です。各大学のサークルが、毎年琵琶湖で開催される「鳥人間コンテスト」に出場し、記録を残すことを目指して活動しています。鳥人間コンテストは、人力飛行機は動力を持たない滑空機と、ペダルを漕いで推進力を得る人力プロペラ機の二つの部門に分かれています。現在放送中のNHK連続テレビ小説「舞い上がれ!」では「イカロスコンテスト」という名前で登場し、人力飛行機サークルなにわバードマンでは人力プロペラ機を開発していますね。

CanSatやロケットのように、直接宇宙に行くモノを模擬しているわけではないですが、航空工学と宇宙工学は非常に密接な関係にあります。また、チームで試行錯誤しながら性能の向上や軽量化を目指して開発を進めていく経験は、宇宙開発そのものです。人力飛行機サークルでの経験も、宇宙開発に携わる人には将来必ず活かせます。

学生時代に人力飛行機に取り組んでいた有名な方としては、宇宙飛行士の若田光一氏がいらっしゃいます。若田宇宙飛行士は九州大学鳥人間チームで滑空機の開発に取り組んでいました。また先述の稲川社長も、ロケット開発を始める前は人力プロペラ機の開発に取り組んでいました。お二人とも鳥人間コンテストに出場した経験を持っています。

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本学鳥人間チームが鳥人間コンテストで優勝 | トピックス | 九州大学(KYUSHU UNIVERSITY)
九州大学鳥人間チームの滑空機
Credit: 九州大学

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練習中のMeister
東京工業大学のものつくりサークル「Meister」の人力プロペラ機
Credit: 東京工業大学

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まとめ

以上、大学時代に経験できる航空宇宙のモノづくり活動の紹介でした。大学選びをする際、このような活動をしている団体があるかどうかも判断基準の一つになるかもしれません。CanSatとロケットの団体についてはNPO法人大学宇宙工学コンソーシアムのホームページで一覧になって紹介されています。

http://unisec.jp/unisec/member

なお、COREという団体はインカレサークル (所属する大学に関わらず加入できるサークル) として活動しているため、どの大学に入学してもこうした活動に携わるチャンスはあります。

人力飛行機については、鳥人間コンテストのホームページから検索することができます。

https://www.ytv.co.jp/birdman/history/

大学生活をどう過ごすかは自分次第です。既に大学生であるという方も今から挑戦したっていいわけです!興味が湧いたのなら、是非ご自身の大学のサークルに連絡して、飛び込んでみてください!