民間へと開かれつつある宇宙ビジネスでは、人工衛星やロケットといったハードウェア開発に注目が集まりますが、多くのシステムがデジタルで処理されるようになっている現在、それを担うソフトウェアの役割を見逃すことはできません。
ソフトウェア開発企業として宇宙事業に参入したFusicは、IoTやクラウド、AIといった多様な技術を強みに、宇宙産業にソフトウェア技術を実装することを目指しています。
ソフトウェア業界から見た宇宙産業の課題と伸びしろとは何か。そして、ハードとソフトが融合する未来に、どのような展望を描いているのか。Fusic共同創業者で取締役副社長の浜崎陽一郎氏に聞きました。

株式会社Fusic 取締役副社長
大阪府出身。九州大学大学院 システム情報科学府 情報工学専攻修了。2003年に同級生の納富貞嘉氏(Fusic 代表取締役社長)とともにFusicを創業。IoT、クラウド、AIなど幅広い領域のシステム開発を手がけ、2023年に東京証券取引所グロース市場と福岡証券取引所Q-Boardへ上場。九州経済フォーラム理事、三千年の未来会議理事のほか、RKB毎日放送「サンデーウォッチ」「タダイマ」コメンテーター、KBC朝日放送「アサデス。ラジオ」コメンテーターを務める。
目次
東京ではなく、福岡で 「あえて」の選択が生んだ強み
2003年に、九州大学大学院で情報工学を学んでいた浜崎氏と納富氏が2人で立ち上げたFusic。当時は長引く不況による就職氷河期のまっただ中で、大卒者の就職率は50%台に低下するなど、社会全体が後ろ向きな空気に包まれていました。
こうした中で、就職という選択肢に疑問を抱いたことが起業の原点だったと浜崎氏は振り返ります。
「幸いなことに、僕も納富も就職の内定自体はいただいていて、企業に勤めるという選択肢はありました。でも、大学にリクルーティングでやってくる社会人があまり楽しそうに見えなかったんですよね。後ろ向きな環境に飛び込むより、自分たちで前向きな器をつくった方がいいのではないか。それがゆくゆくは福岡という地域のためにもなれば、という漠然とした思いがありました」

友人の多くが東京や大阪の大手企業へ就職していく中、あえて福岡で起業する。それは事業としての合理性だけを考えれば、ハンディキャップだったかもしれません。しかし、その選択が結果的に同社の強みを育むことになります。
「東京はソフトウェア開発の案件数が多く、多様なベンダーをとりまとめるコンサルティング企業なども多いので、特定領域の技術を磨いて提供すれば事業が成り立ちます。一方、福岡では案件の量自体が限られています。クライアントからすれば、複数社にバラバラに発注するより、我々のような会社にまとめて頼んだ方がオペレーションコストを下げられる。だから、僕らは一つの技術に特化するのではなく、IoT、クラウド、AIといった複数の技術に対応できる体制を整えてきました。地域のクライアントのニーズに応え続けることで、技術の幅が広がっていったのです」
かつてはネットワーク、デザイン、ソフトウェア、ハードウェアと専門分化していたIT業界。しかし、さまざまな技術がコモディティ化するにつれ、それらを統合して提供できること自体が価値をもつ時代へと変化しました。
福岡という土地で事業を営むための生存戦略であった多角的な技術展開が、技術と技術、企業と企業をつなぐ「コネクター」としての役割をFusicにもたらすことになったのです。実際に、今ではAI企業から「クラウド技術を提供してほしい」、クラウド企業から「AI技術を提供してほしい」という依頼があるそうで、ある種、競合ともいえる企業と協力関係が築けているという事実に、同社の特異性が見えます。
宇宙事業への挑戦、きっかけは「すぐ近くのビルの宇宙ベンチャー」
Fusicがソフトウェア開発企業として多様な技術を扱うようになった背景には、別の観点もあります。浜崎氏はかねてから「一歩先の技術」を意識して取り組むことを掲げており、すでに実装の段階にあるAIに加え、現在では量子コンピューティングなどにも取り組んでいます。
そんな同社が次なるフロンティアとして参入したのが宇宙ですが、ビジネスチャンスを感じたというより、代表・納富氏の純粋な興味と、それに連なる偶然がきっかけだったといいます。
「納富は以前から宇宙好きだったんです。そんな中、本当に偶然に、当時はFusic本社ビルのすぐ近くにQPS研究所があったんです。同じ九州大学発のベンチャーということで、お互い存在は知っていたのですが、メッセンジャーで『一緒に何かできませんか』と連絡したのが始まりです」

提供:Fusic
このとき、衛星事業にソフトウェアがどう役立つかというビジョン、さらには宇宙産業全体の解像度も十分にあったわけではなかったと浜崎氏は語ります。しかし、人工衛星開発を手がけるQPS研究所との対話を通じて、大きな可能性に気づきます。
「衛星は、宇宙に打ち上げることが目的ではありません。そこからデータを取得し、活用することが本当の価値です。そう考えたとき、大量のデータを保管・活用するクラウドコンピューティングやAIといった我々の技術が、実は非常に重要になるのではないか。将来的に、ソフトウェアが主役になる時代が来ると感じたのです」
浜崎氏は、現在の宇宙産業は、インターネット黎明期における通信ケーブルの敷設やネットワーク回線の整備、PCの普及といったインフラ整備の段階と似たフェーズにあるといいます。ロケットや衛星といったハードウェアのインフラが整いつつある今、そうしたインフラ上でデータを活用し、価値を生み出すソフトウェアの重要性が高まっているのです。
「我々が本当に活躍する時間軸は、もう少し先かもしれません。しかし、来るべきソフトウェアの時代に備え、ハードウェア企業の皆さんと一緒に、裏側を支える仕組みを構築していく。それが今の我々のミッションだと考えています」
ハードとソフト、相反するカルチャーの接点をどこに見出すか
異業種から参入した浜崎氏に、宇宙産業はどのように見えているのでしょうか。
「ハードウェア業界は、自分たちで全てを賄う垂直統合型のビジネスが強みであるケースが多いです。一方で、ソフトウェア業界は共通化できるものを『民主化』し、誰でも使えるようにすることで多様なサービスが生み出され、発展してきました。いわば水平分業型の世界で、視点はかなり異なります」
こうしたソフトウェアの観点で見ると、ハードウェア開発の文化が色濃い現在の宇宙産業では、各社が似たようなシステムを個別に開発してしまう、いわば「車輪の再発明」という状況に陥ってしまうおそれがあります。各社が本来注力すべきコア技術以外の部分にもコストやリソースを割いてしまっているのではないか、と浜崎氏は指摘します。
「本当に注力すべき部分に人やお金を注げるようにする。ソフトウェアの部分で共通の課題があるのであれば、我々が民主化の担い手になれたらと思っています」
民主化を進めるにあたって、文化の違いは大きな壁となります。 一度製造工程に入ると簡単には修正できないハードウェアと、トライ・アンド・エラーを繰り返しながらアジャイルに完成度を高めていくソフトウェア開発。ものづくりに際して根底に流れる思想は、対極にあるものだといえます。しかし浜崎氏は、「一部でも、ソフトウェアのカルチャーがはまる部分はあるはず」と、その価値を訴え続けていきたいと語ります。

ハードウェア文化とソフトウェア文化の接点を見出す活動として同社が取り組んでいるのが、同社主催のイベント「SPACE DAY」です。衛星製造・運用、地上局、宇宙輸送など、多様な事業領域の企業を集め、一日かけて宇宙産業でのソフトウェア実装を議論。業界全体での知見蓄積と関係者のネットワーキングの場として機能しています。

提供:Fusic
宇宙データの価値を高める、フロンティアテックとしてのAI活用
宇宙は先端的なテクノロジーを実装するのに適した場でもあるといえます。「一歩先の技術」のキャッチアップを旨とするFusicですが、浜崎氏は宇宙とかけ合わせるテクノロジーとして何に注目しているのでしょうか。
「やはりAIだと思います。現在、衛星データだけでなく地上にもさまざまなセンサーが取得したデータがあり、地球をよりよく知ることができるようになっています。地球の解像度を上げるためには衛星データだけでなく、複数のデータを組み合わせて解析・分析することが効果的だと思いますが、それをAIが担う時代になっていくと考えています。複雑かつ多様なデータをかけ合わせ、より付加価値の高いデータをユーザーに提供できないか。AIは衛星データの価値を高めるためのツールになると思っています」
インフラとしてのハードウェアが整い、その上で動く多様なソフトウェアやサービスが生まれる未来に向けた現実的な課題として、浜崎氏は宇宙産業で働くソフトウェアエンジニアの不足が課題だとし、Fusicがその不足を埋めるピースになれれば、といいます。
そして、宇宙産業の中でソフトウェアが主役となる時代が到来したとき、その一角を占めるプレイヤーになることを長期的な展望として掲げます。
「未知を開拓する」ベクトルがある宇宙業界 ハードとソフトのつなぎ手として
インタビューの最後に、浜崎氏は宇宙産業に参入して感じた印象をこう話してくれました。
「宇宙業界では、企業規模の大小や競合関係にかかわらず、皆に『宇宙という未知の領域を開拓していく』という共通のモチベーションがあると感じます。ソフトウェア業界では、数ヶ月前までもてはやされていたものがあっという間に別のものに塗り替えられることも多く、皆が同じ方向を向いている感覚はありません。宇宙業界には、地球の中での競争ではなく、地球を飛び出したベクトルを感じますね」

未知の領域を拓くという大きなベクトルの中で宇宙ビジネスが成長していく今、ソフトウェアはさまざまなハードウェアをつなぐ要素としてますます欠かせないものになるはずです。宇宙という未知の領域へと踏み出したFusic。宇宙とソフトウェアのかけ合わせから生まれる新たな物語が動き出しています。
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