一言で「宇宙」と言っても、具体的にどこからどこまでが「宇宙」で、どれほどの広さがあるのか想像できる人は少ないのではないでしょうか。米国科学財団・国立光学赤外天文学研究所(NSF/NOIRLab)は、40万個ものの「銀河」を映し出す「三次元宇宙地図」の公開を開始しました。それぞれの「銀河」の位置を把握することができる「三次元宇宙地図」ですが、一体どのような方法や経緯で作られたのでしょうか。今回は、「三次元宇宙地図」が作成された目的や今後期待されることについて解説していきます。
左は従来の宇宙地図。右は今回公開の宇宙地図。
Credit: Berkeley Lab/DESI data
「銀河」の正体とは
多くの人が一度は耳にしたことのある「銀河」ですが、どのように定義されたものが「銀河」であるのか、説明できる人は多くはないでしょう。「銀河」とは多数の星やガス、ダスト(塵)及びダークマターなどで構成された天体を意味します(天文学辞典参照)。
たとえば地球は太陽を中心とした太陽系の惑星ですが、太陽系は「天の川銀河」と呼ばれる「銀河」に属します。そして、宇宙上にはその他にも「銀河」は限りなく存在しています。「アンドロメダ銀河」や「大マゼラン銀河」などは、聞いたことのある人がいるかもしれません。また、「銀河」同士がお互いの重力の影響で集まり、形成された集団は「銀河団」とも呼ばれます。NASAの研究によると、観測可能な宇宙の範囲にある「銀河」の数は2兆個にのぼるそう(*1)。まさに天文学的な数値ですよね。
Credit: ESA/Hubble&NASA
「三次元宇宙地図」はどのように作られたのか
無数に存在する「銀河」ですが、二次元の宇宙地図であれば、撮影した天体の分布をそのまま記録するだけで済みます。しかし、今回のような「三次元宇宙地図」となると、天体までの「距離」も必要とします。そのため「三次元宇宙地図」の作成は、これまで難易度の高い作業とされてきました。しかし今回、米国科学財団・国立光学赤外天文学研究所は40万個の「銀河」の位置を示した「三次元宇宙地図」を作成に成功しました。そのような「銀河」の位置を正確に映し出した宇宙の地図は、一体どのような目的で、どのような方法で作成されたのでしょうか。
「DESI」によるデータ取得
「三次元宇宙地図」作成に用いられたデータは、アメリカのアリゾナ州にあるキットピーク国立天文台に設置された観測装置「DESI」が取得しました。この「DESI」は「Dark Energy Spectroscopic Instrument」の略称で、宇宙が膨張するスピードを速くするとされる「ダークエネルギー」の影響を測定するために設置された観測装置となります。現時点で「三次元宇宙地図」は、地球から半径100億光年以内に位置する40万個の「銀河」を映し出していますが、2021年5月から始まった「DESI」の測定では、すでに110億光年先までの「銀河」を観測できています。
「銀河」の位置を測定
「三次元宇宙地図」を見ると、赤や黄色の点が、グラデーションとなり無数に広がっているのが分かります。この1つ1つの点が「銀河」を示しています。これらの「銀河」は地球から半径100億光年以内の宇宙に位置しているとされ、このように「銀河」までの位置関係を測定することで「三次元宇宙地図」は作成されています。では、実際どのように「銀河」の位置測定をしているのでしょうか。
宇宙にある天体は、それぞれ光を発しています。そして、宇宙はダークエネルギーによって膨張しているとされていますが、実際に「銀河」を出た光が地球に届くまでの間に、長い距離を進むほど波長が伸びていることから、宇宙は膨張していると解釈できます。この考えを「宇宙論的赤方偏移」と呼び、「三次元宇宙地図」の作成に使用する「DESI」は、この「宇宙論的赤方偏移」を調べる役割も担っています。「DESI」は緻密に配置された5,000本もの光ファイバーでできており、この光ファイバーのネットワークが、先の「宇宙論的赤方偏移」をとらえます。これにより宇宙の奥行きを測定でき、地球から「銀河」までの距離を測ることが可能となるのです。
綱嶋 直也