Credit :ビットラン株式会社
ブラックホールを初めて撮影したという2019年のニュースを覚えていますでしょうか?今年の5月には、天の川銀河の中心にあるブラックホールを撮影したというニュースもありましたね。天体が新たに観測されるというのはそれだけで大きな意義があり、私たち人類の宇宙に対する理解を深めることにつながります。
ブラックホールの観測は大きなニュースでしたが、この他にも様々な天体観測が研究者によって行われています。その観測には、カメラの技術力が欠かせません。今回のインタビューでは、宇宙開発に用いられるデバッグツールや天体観測用カメラの開発を手掛けるビットラン株式会社(以下、ビットラン)のCCD事業部・橋本氏にお話を伺いました。
ビットランと宇宙との関係
―本日はよろしくお願いします。はじめに、貴社の事業概要についてお伺いしてもよろしいでしょうか。
橋本氏 ビットランではマイコン開発支援装置と冷却カメラの事業を柱としています。マイコン開発支援装置とは、コンピュータを開発する際に使用するデバッグツールで、開発中の電子基板で試験を行って不具合を見つけることに用います。マイコン開発支援装置のひとつである私たちのICE(インサーキット・エミュレータ)は、H-Ⅱロケットの開発でも採用されました。H-Ⅱロケットは初めての純国産液体ロケットであり、搭載するコンピュータも当然国産でということで、ICE開発の依頼を受けました。他社大手のICEメーカーとの競合もありましたが、高い技術力を買われて採用に至ったのだと思います。その他には人工衛星の開発にも私たちのICEが使われていると聞きます。
―冷却カメラはどのようなものでしょうか?宇宙分野で重宝されていると聞きましたが、具体的にどのような場面で使われているのでしょうか?
橋本氏 冷却カメラはノイズを抑えることで暗い被写体でも綺麗に撮影することができるものです。普段皆さんが目にするようなカメラではなく、研究用途などに用いられます。微量な光を鮮明に写すことができるものなので、明るい星を綺麗に撮るというよりは、地上に届く光が弱い未発見の星を見つけるという目的などで、アマチュア天文家をはじめ国立天文台やJAXAなどで研究者に使ってもらっています。他には地上から人工衛星を確認したり、スペースデブリを撮影したりするのに用いられます。
―地上からスペースデブリを見られるとは、すごいですね。宇宙以外の分野でも使われているのでしょうか?
橋本氏 化学や医療の分野で使われています。微量の光をくっきり捉えることができるので、普通では見えないものを顕微鏡で見るということで、こちらもやはり研究者の方々に使ってもらっています。
冷却CMOSカメラ BJ-70シリーズで撮影した画像①
Credit:Nakanishi Akio(N.I.L.)
冷却カメラが綺麗に撮影できる仕組み
―冷却カメラについて詳しくお伺いしたいと思います。そもそも、なぜ冷却すると微量の光を綺麗に撮影することができるのでしょうか?
橋本氏 一言でいえば、ノイズを抑えることができるからです。センサは発熱することで30~50℃以上になる場合がありますが、そうするとノイズ、いわゆる熱雑音が増えます。ノイズがあると、微弱な光はノイズに埋もれてしまって写らなくなってしまうんです。大体マイナス20~30℃ぐらいまでセンサを冷やすことにより、熱雑音の発生を抑えています。
―冷却カメラを開発する上で何か工夫している点などはあるのでしょうか?
橋本氏 日本の夏の気候に合わせて結露しないようにしているというのがありますね。夏は湿度が高いので、単にカメラを冷却するとレンズが曇ることや濡れることがあります。そうすると撮影できないので、結露をいかに発生させないかというところに私たちの冷却カメラの強みがあります。
―具体的にはどのように防いでいるのでしょうか?
橋本氏 センサ部分を密閉して、真空にしてから窒素ガスを入れています。水を含んだ外気により結露してしまうことが原因なので、外気が流入しない密閉構造にすることで、冷却しても結露が発生しないようにすることができます。
冷却CMOSカメラ BJ-70シリーズで撮影した画像②
Credit:Nakanishi Akio(N.I.L.)
技術者集団ビットランの強み
―研究用途として高性能なカメラが重宝されているわけですが、他社にはない強みはどのような点にあるのでしょうか?
橋本氏 少人数の技術者集団なので小回りが利くというところにあると思います。個々の意見が言いやすく、素早い対応や実験ができます。特に改造や特注カメラなどは安価に短期間で対応することができます。
―営業はどのように行っているのでしょうか?
橋本氏 まず、ビットランに営業マンはいません。これは低価格化につながっていますし、技術者が直接商談するので素早い対応をすることもできます。外部への発信という点では展示会とホームページのみです。価格もすべてホームページで公開し、比較検討しやすいようにしています。あとは無料で製品の貸し出しも行っており、一度使用してみてから購入していただいています。実際に使って撮影できるかできないかが一番の問題ですから。
―顧客ニーズの取り込みなどはどのように行っているのでしょうか?
橋本氏 一つは展示会の時に直接お話を伺うことですね。あとは貸し出しの際や購入後のサポートの中で、ニーズをつかむことができます。会社としても小規模なので、それぞれが見聞きした話を密に社内共有することで次の開発につなげていくことができます。
―なるほど、小規模ならではの利点ですね。最後に、貴社のカメラの中で橋本さんがおすすめしたいものはありますか?
橋本氏 天体撮影用の冷却カメラとしては「BJ-70」シリーズ、産業用の冷却カメラとしては「CS-70」シリーズになります。特に16bit冷却CCDカメラを使っていた方には、「BJ-73」「CS-74」が代替えとしておすすめです。
ビットラン株式会社公式サイトスペックページ:https://www.bitran.co.jp/camera/spec_tabel.html
冷却CMOSカメラ CS-70シリーズ
Credit:ビットラン株式会社
ロケットや人工衛星のコンピュータは私たちがなかなか目にすることのない部分ですが、実はその開発を陰から支えているのです。ICEは電子回路の不具合を見つけるためにも重要な役割を担っています。
また天文学での新しい発見は、微量な光をとらえることができる超高性能の冷却カメラが支えています。次に天文学のニュースを目にしたときは、是非冷却カメラの技術にも思いを馳せてみると一味違った楽しみ方ができるかもしれません。
SPACEMedia編集部