スペースX社がインターネットを世界中に届けるために1万機の人工衛星打ち上げを計画するなど、人工衛星の打ち上げ数は近年急激に増加しています。特に、多くの人工衛星が打ち上げられているとされる、地球表面から2,000km以内の地球低軌道には、約7,500機もの人工衛星が周回していると言います。
これらは人々の通信環境構築や、宇宙上の生物や天体を観測するといった重要な役割を持つ一方で、数が増えすぎることによる弊害も発生しています。それが「スペースデブリ(=宇宙ゴミ)」の発生です。そしてこの「スペースデブリ」は、人々が地球で暮らし続けるために必要な持続可能な開発目標「SDGs」達成に向け、解決しなければならない問題となっています。
今回は、「スペースデブリ」が「SDGs」の目標達成に対してどのような課題を持っているのか。そして、その課題に対してどのような具体的策がなされているのか、紹介していきます。
目次
「スペースデブリ」はなぜ発生するのか
そもそも「スペースデブリ」は、地球低軌道上に残り続けている人工衛星の残骸を指します。人工衛星は、任務の途中で故障や破損をしたり、あるいは任務完了後も大気圏で燃え尽きず、低軌道上に残ってしまう場合があります。そのようにして、「スペースデブリ」が発生してしまっているのです。
「スペースデブリ」は何が問題か
増え続ける「スペースデブリ」ですが、一体それらが増え続けることはどのような悪影響を及ぼすのでしょうか。地球低軌道上に浮かび続ける「スペースデブリ」ですが、まず他の人工衛星同士との衝突が考えられます。また、「スペースデブリ」は秒速約8kmの速さで軌道上を周回していると言います。この速さの「スペースデブリ」が国際宇宙ステーションに衝突すれば、行われている多くの研究を損失してしまう恐れも考えられます。もちろん、「スペースデブリ」が地球低軌道上の多くの範囲を遮ってしまえば、今後の宇宙進出も妨げられてしまいますよね。
この問題は、「SDGs」の目標達成に対しても重要な課題となってきます。「SDGs」では、「自然の豊かさを守る」ことが、1つの目標として掲げられています。そして、宇宙も自然の1つと考えれば、宇宙の「持続的な活用ができなくなる」ことは、「SDGs」の目標達成を阻害することとなります。したがって、「SDGs」の目標を追求するためにも「スペースデブリ」の問題を解決することが必要なのです。
「SDGs」の目標達成に向けた取り組み
「SDGs」の目標達成に不可欠な「スペースデブリ」の課題解決。ではこの課題に対して、現在どのような施策が行われているのでしょうか。すでにさまざまな企業が、課題解決に向けて具体的なアクションを起こしています。ここでは、それらの具体的な取り組み事例を紹介していきます。
株式会社アストロスケール
2021年3月、スペースデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」打ち上げに成功した「株式会社アストロスケール」。民間として世界初の、低軌道上で行う実証ともあって、ますますの注目を浴びています。
この「ELSA-d」での実証では、「サービサー」と呼ばれる磁石を活用したデブリ捕獲機、そして模擬デブリを使用してきました。模擬デブリを宇宙空間に切り離した後、サービサーが磁力で模擬デブリを捕獲。そして回収に成功したことで、同実証の有効性が確認されました。
Credit:アストロスケール
同社は他にも、「人と地球と宇宙を持続可能にする」ことを目標に掲げるプロジェクト「#SpaceSustainability」を始動しています。さらには人気漫画「宇宙兄弟」ともコラボを図ることで、「スペースデブリ」の問題を民間に広く伝える役割も、同社は担っています。
スカパーJSATグループ
世界初のレーザーによる「スペースデブリ」除去を試みているのが、「スカパーJSATグループ」です。これまでは、「スペースデブリ」回収の際の衝突の恐れや、回収に使う燃料費に対する懸念がありました。一方、同社のレーザーであれば、これらの懸念を払拭できるといいます。
Credit: スカパーJSAT
物体にレーザーを照射する時、レーザーの当たった部分はプラズマ化、気化し、物質が放出されます。その際に反力が生まれ、その反力を利用することで「スペースデブリ」を動かすことができるのです。そしてそのまま大気圏へ動かせば、大気圏の熱で「スペースデブリ」は焼失します。そうすることで、レーザーであればわざわざ「スペースデブリ」に近づく必要もなく、また「スペースデブリ」自体が燃料となり動くため、従来の懸念は払拭されることとなるのです。なお、同プロジェクトは2026年の実用化を目標としています。
川崎重工業株式会社
「スペースデブリ」の除去実証衛星を打ち上げることを前提に、2019年より地上局にアンテナ設置し、データ送受信や解析技術の研究を進めてきた「川崎重工業株式会社」。そして2021年には、超小型実証衛星「DRUMS」がイプシロンロケット5号機により打ち上げられ、地上局のアンテナとの通信に成功しました。
Credit: 川崎重工業株式会社
では、2021年の打ち上げ時には、どのようにして「スペースデブリ」の除去を実証したのでしょうか。「DRUMS」はまず、軌道上で模擬デブリを分離します。そして、カメラによって画像解析を開始し、模擬デブリを探知していきます。画像解析によりターゲットを認知後、搭載されていた2メートルのアームを使うことで、模擬デブリを捕獲していくのです。このようにして、同社による「スペースデブリ」の除去の実証が成功しました。
宇宙の問題は身近な問題
「スペースデブリ」が増え続けることは、私たちにとっても遠い話ではありません。「スペースデブリ」が使用中の人工衛星と衝突すれば、私たちが普段見ているテレビの電波が届かなくなったり、位置情報を送るGPS機能も使えなくなる恐れもあります。私たちの“当たり前”に影響してくる問題なのです。
現在、大小さまざまな企業がこの問題の解決に向けて研究を進めています。そして、たとえ民間であっても、宇宙の問題に取り組むことはできます。持続可能な宇宙環境への取り組みについて、この機会にぜひ関心を持ち、周りの人に拡散していきましょう。
綱嶋 直也