ソニーグループ株式会社(以下、ソニー)は、誰でも人工衛星で写真を撮影ができるプロジェクト「STAR SPHERE」を発表しました。このプロジェクトはソニーが東京大学、JAXAと共同で取り組んでおり、2022年10月以降に人工衛星の打ち上げが予定されています。なぜソニーは宇宙事業に参入し、人工衛星を打ち上げるのか、同社の担当者である関根知美氏と武藤陸氏に具体的な取り組みやそこにかける想いについてお話を伺いました。
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「宇宙を解放する」STAR SPHEREプロジェクト
STAR SPHEREプロジェクトは、地上からの操作で誰もが気軽に宇宙や地球などの4K動画・写真撮影を行うことで、宇宙の視点を解放し、新たな価値観や感動体験の創出を目指すプロジェクトです。
ソニーは2022年秋頃、同社製カメラを搭載した人工衛星の一種であるCubeSatと呼ばれる小型衛星を打ち上げる予定で、2023年春頃には一般の方でも利用できるようなサービスを開始する予定になっています。
ソニーがカメラシステムやシミュレーターなどの全体構築を開発し、小型衛星の技術を持つ東京大学が人工衛星の主要部分を担当―JAXAは開発に関連した技術サポートや事業モデルの設計に関するアドバイス等を行っています。
STAR SPHEREプロジェクトの「宇宙を解放する」というコンセプトに込められた想いについて、関根氏に伺いました。
(以下、関根氏)
「“宇宙を解放する”をコンセプトに、今までは宇宙飛行士しかできなかったような宇宙から地球を見たり、星々を見渡せる視点を、すべての人に解放することを目指しています。
弊社はもともとモノづくりの会社なので、人工衛星やシミュレーターといったところを開発していますが、それだけではなくコトづくりやイミづくり、体験づくりをしていきたいと思っています。
Mission2(体験づくり)の一環として京都芸大とコラボレーションをし、宇宙をアート視点で捉えたときにどのような表現ができるのかというのを学生に考えていただいたり、芸術家の杉本博司氏に宇宙から撮影した写真を使った作品づくりをしていただいたり、というのも考えています。」
STAR SPHERプロジェクトでは、すでに杉本博司氏を含むアーティストとのコラボ検討を開始。さらに今後はもっと多くの人に広げていく予定です。
Credit:Sony
プロジェクト「STAR SPHERE」が生まれたきっかけについて
ソニーは定期的に有志による勉強会を開催しており、2017年に宇宙ビジネス講演会を主催しました。
これを機会にJAXAと話が続き、2018年に宇宙イノベーションパートナーシップJ-SPARCが発足したのをきっかけに共同開発がスタート―2020年5月、宇宙エンタテインメント準備室(現推進室)として正式にJAXA、東京大学と共同開発の契約を締結しました。
カメラやゲーム機器で第一線を走るソニーはなぜ宇宙事業に参画したのか、その背景についてこのように語ります。
(以下、武藤氏・関根氏)
「現在、宇宙業界にはどんどん民間企業が参入し始めています。
そのような新しい業界に進出していくというところは、会社として常に新たな領域にチャレンジしていくという理念と親和性が高いため、社内の後押しもあり宇宙業界に参画しました。
また、ソニーグループ全体のPurpose(存在意義)として“クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす”というのを掲げています。
まとめると、新しいテクノロジーとエンターテイメントを通して感動を広げていくということを目指しています。
宇宙といった新しい領域でのエンターテイメントを通して、感動を届けるというのが本プロジェクトの一つのゴールです。これはソニーグループならではの取り組みであり、なぜ弊社が取り組むのかといった理由であると思います。」
皆さんも宇宙から撮影してみませんか?
ソニーが開発をしている人工衛星は、カメラではなく衛星そのものの姿勢操作することで、地球方面だけでなくあらゆる方向に撮影が可能となっています。
通常、地球の方向に向けられている人工衛星の視点ではなく、ISSで活動している宇宙飛行士と同じ視点で様々な景色を眺めることができます。
開発中の人工衛星には、ソニー製のフルサイズカメラの搭載を予定しています。この人工衛星の特徴について武藤氏と関根氏にお話を伺いました。
(以下、武藤氏・関根氏)
「宇宙は太陽光や放射線があり、地球の環境とは全く異なるため、既存のカメラに耐久性の面での変更などを行いました。
推進機は、環境に負荷をかけない水を推進剤とするものを使用する予定です。
また地上シミュレーターを開発しており、今までJAXAやNASAが操作してきた複雑なコマンド操作ではなく、UI面でも初めて衛星を触る人が簡単に衛星を操作できるようなユーザーフレンドリーなシステムを目指しています。
現在行われている何千万円とかかる宇宙旅行のようなサービスではなく、一般の誰でもが使える、コストを抑えたサービスを検討しています。」
開発中のシミュレーター
Credit:Sony
また宇宙で写真撮影を行うこのサービスは、アートだけでなく様々な使い方もあると関根氏は語ります。
(以下、関根氏)
「例えば、記念日とかに気軽にサービスを利用していただきたいです。
子供が生まれた日に撮影して、その日だけの宇宙や地球の写真を撮影するような使い方をしてほしいと思います。
それはオリジナルなもので、その時間、その瞬間しか見ることができない景色です。
宇宙の長い歴史の中での、1スナップを撮影するという大きな時間軸の中で貴重な経験になるはずです。」
多くの可能性を秘めており、わくわく期待が膨らむようなサービス。利用するユーザーのアイディアによっては今後、予想もできなかったような面白い使い方や作品が出てくるかもしれません。
Credit:Sony
ソニーが手掛ける宇宙×エンターテインメント
STAR SPHEREが手掛ける宇宙エンターテイメントという業界は、世界的に見てもまだ始まったばかりです。この先、ソニーはエンターテイメントでどのように宇宙を変えていきたいのか、展望についてお聞きしました。
(以下、武藤氏・関根氏)
「自分の手で人工衛星の姿勢を自由に変えられるというのは、宇宙に出たときの宇宙飛行士の視点により近づいているので、既存の人工衛星では実現できない体験だと思います。
ユーザーの方が、自分がシャッターを切りたいときに撮影できるとか、自分が表現したいように衛星を設定するだとか、その面では非常に特別な体験になると思います。
人の数だけ人の想う宇宙があって、それを表現して多くの人に届けることで、宇宙そのものが科学的・軍事的視点ではなく、より人々に身近な存在になっていくのではないかと思います。
また、このプロジェクトで協業できるクリエイターさんを大募集しています。
弊社はモノづくりだけでなく、体験づくりも手掛けている会社なので、皆さんが考える宇宙というものを弊社と一緒に実現していくのも楽しいのではないかと思います。
アーティストさんもそうですが、今後は他社さんとの取り組みも不可欠になってくると思います。
ソニーだけでは実現できない世界なので、多くの企業を巻き込んで宇宙業界を盛り上げていきたいと思います。」
SPACEMedia編集部