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ECが主催するコペルニクス・マスターズの日本大会を初開催

地球観測データの利用に関する革新的なビジネスアイディアを競うCopernicus Masters(コペルニクス・マスターズ)、これまでに欧州各国からの参加者による競争が行われていましたが、今年から日本でも開催されます。本SPACEMediaを運営する株式会社DigitalBlastが共催パートナーとして日本大会を運営します。これを機会に、コペルニクス・マスターズの大会概要と、これまでに創出されたアイディアについて解説します。

 

 

コペルニクス・マスターズとは

ご存じの方も多いと思いますが、コペルニクスは、ESA(欧州宇宙機関)などが運用する地球観測衛星から得られるデータに、船舶や航空機などから取得する観測データを加え、統合的な地球観測データ利用システムを構築し、運用するプログラムです。このコペルニクス・プログラムの中で革新的なビジネスアイディアを公募するため、2011年にESAを中心としてコンテストが開始されました。

 

コンテストの趣旨は、宇宙からのビッグデータを活用した社会とビジネスのための革新的なソリューション、開発、発想に対して賞を授与し、日常生活にメリットをもたらす新しい製品とアプリケーションの可能性を提供することです。異なるいくつかの課題(the Challenges)毎に各賞が設けられており、各賞の受賞者には、ESAからの支援、協賛企業からの賞金やビジネスサポートなどの支援が与えられます。総合大賞者には、各賞での特典に加えて賞金(€10,000)が与えられます。

 

ワールドクラスのパートナーが予め設定する課題分野は、スマートモビリティ、農業、環境、エネルギーなど多岐にわたります。参加者は複数の課題の中から一つを選択し、その課題を解決するビジネスアイディアを提案します。提案されたアイディアは、the Challenges部門でワールドクラスのパートナーによる評価が行われ、優勝者が決定されます。希望者は同じ内容でthe Prizes部門に応募することも可能です。the Prizes部門は、各国/地方パートナーがアイディアを評価し、地方大会毎に優勝者を決めます。つまり、優秀なアイディアはどちらの賞も受賞する可能性があります。the Challenges または the Prizesの受賞者は自動的に世界大会にエントリーされ、Overall Winner 2021(総合大賞)の選考に進みます。今回の募集要項の詳細につきましてはこちらをご参照ください。(https://copernicus-masters-japan.digitalblast.co.jp/

 

 

 コペルニクス・マスターズで受賞されたアイディア解説

本コラムでは全4回に分けて、過去にコペルニクス・マスターズ総合大賞などを受賞したアイディアを紹介する予定です。今回は2011年(初回)から2015年までの総合大賞アイディアを解説します。

 

2011年は、オランダのGeodanが提案した”DeforestAction Earthwatchers”が総合大賞を受賞しました。(https://dfa.tigweb.org/about/?section=earthwatchers

Earthwatchersは、数百万人の学生がウェブツールと地球観測データを用いて熱帯雨林を監視し、違法な森林伐採や森林破壊を食い止めるための有用な情報をリアルタイムで提供する画期的な新しいソフトウェアです。形だけのプロジェクトや講義ではなく、学生たちが実際のデータにアクセスすることで、保護活動に直接参加させるという教育の新しいアプローチを提供しています。1985年に設立されたオランダのIT会社であるGeodanが開発したもので、現在では、世界的な共同プロジェクトであるDeforest Actionの重要なツールとして役に立っています。

 

2012年は、オランダのBlackShoreが提案した”Cerberus”が総合大賞を受賞しました。

https://www.blackshore.eu/crowd-generated-maps

Cerberusは、何千人ものユーザーが地図の作成に参加できるようにしたクラウドソーシングとeラーニングのプラットフォームで、ユーザーの目をセンサーとして活用できるようにしたものです。既存のゲームからヒントを得たものですが、ゲーム要素を取り入れることで数千人の参加者のモチベーションを高め、専門家よりも早く、より詳細に、よりコストを抑えて、衛星画像を地図に変換することを可能にしています。衛星写真の上に、氷の割れ目、送電線の損傷状況、干ばつ地域、失われたピラミッドなどの場所をマークすることができます。このように、複数の地球モニタリングシステムのデータを扱うことができるので、気候変動の研究などさまざまな分野でのマッピングに役立ちます。2011年に設立されたBlackShoreCEOであるHans van ‘t Woud氏が開発を行いました。

 

2013年は、ドイツのGerman Aerospace CenterDLR:ドイツ航空宇宙センター)が提案した” Landmark Navigation”が総合大賞を受賞しました。(https://copernicus-masters.com/winner/landmark-navigation-radar-fix-points-satellites/

Landmark NavigationはGPSのような全球測位衛星システム(GNNS)信号を利用するナビゲーションとは異なる新しい自動運転車用のナビゲーションシステムであり、道路を走行する車から容易に見ることができるランドマークを利用してナビゲーションを行います。これらのランドマークの位置はTerraSAR-XSentinel-1などのレーダーを利用するリモートセンシング衛星画像から正確に導き出され、車内のデータベースに保存される仕組みになっています。GNSS信号は対流圏での遅延などによりナビゲーションに誤差を生じることがありますが、本技術とGNSSデータを組み合わせることで、ナビゲーションの信頼性を高めることができます。高度な自動運転のための高精度測定手法として、DLRの地球観測センター(EOC: Earth Observation Center)のHartmut Runge氏が革新的なリモートセンシングの仕組みとクラウドソーシングを活用した斬新なソリューションとして創出したものです。

 

2014年は、イギリスのUniversity of Nottingham(ノッティンガム大学)が提案した”PUNNET”が総合大賞を受賞しました。

https://www.nottingham.ac.uk/grace/researchdevelopment/projects/punnet.aspx

PUNNETは、探査、建設、環境保護業界向けに、衛星干渉合成開口レーダー(InSAR: Satellite Interferometric Synthetic Aperture Radar)データを使って土地の安定性を監視し、マッピングするソリューションです。このサービスでは、衛星データから作成した一連の画像を用いて、ミリ単位の精度で地表の変形マップを作成することができるため、石油・ガス、工業、探査などの分野における土地変形モニタリングを大きく進化させ、作業安全性を向上させます。ノッティンガム大学の2人の研究者が開発を行ったもので、2015年に同大学のNottingham Geospatial Instituteからスピンオフし、新しくGeomatic Ventures Limitedを設立しました。同社が提供するソフトウェアであるPunnet Geoは、世界最古の国立地質調査所である英国地質調査所(BGSBritish Geological Survey)で使用されています。

 

2015年は、ドイツの”Building Radar”が総合大賞を受賞しました。(https://buildingradar.com/

Building Radarは、衛星を利用した建設プロジェクト向けの検索エンジンで、100万件以上の建設プロジェクトに関する情報を検索することができます。検索アルゴリズムと機械学習、地理情報学、そして衛星画像解析を組み合わせ、世界中の建物や建設プロジェクトに関する情報をリアルタイムに提供します。建設業界向けに自動化された監視、検知サービスを提供することに特化しており、衛星画像をソリューションに組み込むことで、建築物の進捗状況の確認、監視、新たな建設現場の検知を可能にします。2015年に設立されたBuilding Radarは、現在、世界150社を超える会社にサービスを提供しており、約130億円以上の売り上げを達成しています。

 

このように、2011年から始まった初期(2011~2015年)のコペルニクス・マスターズでは、2014年の地球観測衛星Sentinel-1の打ち上げなどを見据えて、SAR画像や高分解能の画像をビジネスに利用することを目指したアイディアが評価されている傾向が見られます。

次回は、2016年から2020年(昨年)までの総合大賞アイディアを解説します。

 

参照:コペルニクス・マスターズ大会HP

Photo credit:  Copernicus Masters Japan

 

SPACEMedia編集部