前回は、コペルニクス・マスターズで賞を受賞した提案の中から、衛星データ利用分野における受賞アイディアを紹介しました。4回にわたったコラムは今回で最後になりますが、今回はビジネスフィールドの中で、農業、土壌分析、ヘルスケアに関する受賞アイディアについて解説します。
・コラムNo.3(https://spacemedia.jp/2021/07/06/no.3)
DigiFarm
2020年、ノルウェーの“DigiFarm”がスウェーデンの地方賞を受賞しました。国連によると、世界の人口は2050年には100億人近くまで増加すると予想されており、食料需要は70%増加し、作物生産量は2%減少すると言われています。DigiFarmが提案したソリューションは、農家に正確で信頼できる精密地図を提供することで、農家がコストを削減しながら生産レベルを最適化するのに役立ちます。さらに、作物分類、ゾーニング提案、植生指標、過去のフィールドパフォーマンスツールも含まれており、Copernicus Sentinel-1および-2のデータを活用して、畑の各エリアを低・中・高などの生産ゾーンに基づいて分類し、各畑の境界を検出します。DigiFarmが開発したディープニューラルネットワークモデルにより、これまでのSentinel-2の10m解像度よりも10倍の高精度(1m)を実現し、小さな畑も正確に分析することを可能にしており、世界の農地の80%以上を占める2ヘクタール未満の畑を分析することができます。DigiFarmのCEOであるNilsはノルウェーの15代目の農家であり、共同出資者でCTOのKonstantinは農作物の収穫量を予測する機械学習モデルの開発者として豊富な経験を持っています。Konstantinが開発したアルゴリズムは、栽培シーズンの1.5カ月前に98~99%の収穫量予測精度を実証し、米国農務省(USDA)に提供されています。DigiFarmの目標は、農家に実用的なデータを提供して、投入コストの削減、収穫量の増加、生産性の高い地域への分類、畑の過剰施肥の防止などを実現することです。
Credit: Digifarm
Audili
2019年、オーストリアの“Audili”が土地調査・開発を専門とするBayWa社のSmart Farming賞を受賞しました。Audiliは露出土壌のマルチスペクトル衛星画像を使用した斬新な遠隔土壌分析方法を開発し、宇宙から非常にスケーラブルな土壌情報を提供します。農家、科学者、国家機関は、世界中の農業にとって妥当なスケールで、過去および最近の土壌の実態に初めてアクセスできるようになりました。Sentinel-1、2、3のデータと、日付と時間が記録された土壌ライブラリを組み合わせて、土壌モデルを作成しています。土壌は、地球上のすべての生物にとって必要不可欠なものですが、土壌情報は、未だに手作業による土壌サンプル採取あるいは、場合によっては機械採取で収集されています。2019年、出資者であるArmin、StefanおよびPatrickのソフトウェア開発者はSmart Farming賞を受賞後、ESA BIC Austriaの選考委員会でも認められ、2020年のインキュベーションに選ばれました。さらに最近では、PARSECアクセラレーターの地球観測スタートアップ上位100社にも選ばれています。肥料の誤用は大きな環境破壊を引き起こします。その一方で、増え続ける人口を養うために、肥料は重要な役割を果たしています。環境への影響を最小限に抑えるためには、効率的な使用を可能にするデータが必要です。Audiliは、スペクトル衛星画像を用いて宇宙から表土の栄養状態を把握することで、費用と時間のかかる土壌調査のプロセスを排除します。そのため、Sentinel-1、2、3、LANDSAT7、8、および過去の土壌調査結果の記録を利用して、農家や科学者、国家機関が世界中の過去の土壌情報や最新の土壌情報にアクセスを可能にしました。
Credit: Audili
UV-Bodyguard
2019年、ドイツのAjumaが提出したアイディアである”UV-Bodyguard”がEnvironment, Energy and Health賞を受賞しました。UV-Bodyguardは晴れた日のプランニングツールであり、肌の露出部分の紫外線量を継続的に監視し、危険な状態になる前に警告を発するウェアラブル機器です。リアルタイムの紫外線測定、季節による気候変化、個人データを組み合わせることで、個人が皮膚がんのリスク要因を増やさずに太陽の光を浴びることができる時間を計算します。ユーザーは、スマートフォンのアプリに接続することで、現在の紫外線や紫外線量の情報をリアルタイムに得られるほか、日差しから身を守るべきタイミングの予測や、日焼けや皮膚がんのリスク増加から身を守るための警告を得ることができます。また、冬にはうつ病を回避し、免疫システムと骨の健康を強化するために必要なビタミンDを生成するための最適な日光浴時間を知らせてくれます。いずれの機能も、Copernicus Sentinel-5Pによるオゾン濃度の観測結果と、Copernicus Atmosphere Monitoring Serviceによる紫外線予報を利用しています。さらに、地域のデータセットを追加することで、UV-Bodyguardはヨーロッパ中のユーザーにとって、より信頼性の高いものとなっています。
Credit: ajuma
今回は、ビジネスフィールドとして、農業、土壌分析、ヘルスケアを取り上げて解説をしました。衛星データは環境問題の解決策としてだけでなく、私たちの日常生活を豊かにするツールとして活用することも可能であるということが分かります。
本コラムでは、全4回にわけてコペルニクス・マスターズで賞を受賞したアイディアと、その傾向について解説しました。来年度の本大会への皆様のご参加と、革新的なアイディアをお待ちしております。
SPACEMedia編集部