特殊印刷加工分野での顧客のニーズに応える設備や技術を提供している三鷹製版株式会社(以下、三鷹製版)。
航空宇宙防衛品質マネジメントの認証を取得しており、国内だけではなく海外からも信頼を得られる様にしていこうとしている企業です。
製品の品質コントロールだけでなく、顧客を第一に考えた製品開発や取組みを行っています。
今回は、同社 代表取締役副社長 鷹巣 太地氏に製品開発にかける想いや同社の強みについて、SPACEMedia編集部の伊藤がお話を伺いました。
Credit:三鷹製版株式会社
——伊藤)本日は宜しくお願いします。
御社は多岐にわたる事業を展開されておりますが、どのようなクライアント様が多いですか?
鷹巣氏)弊社は、金属やプラスチックに対する特殊印刷加工を行っています。
主な顧客層は産業用機器を製造するメーカーや商社です。
特に航空宇宙防衛機器分野や医療機器分野に注力し、グローバル企業の皆様にもご愛顧をしていただき、多岐に渡る分野の機器開発にも貢献してきました。
——伊藤)ありがとうございます。
製品開発を行う中で、特に航空宇宙防衛機器分野や医療機器分野に参入されたきっかけを教えて頂けますか?
鷹巣氏)航空宇宙分野は差別化という意味もありますが、様々な出会いや繋がりが参入のきっかけになりました。
医療機器分野に関しては、愛知県の地場産業として大きな医療関連企業があり、創業当時から深く密接な関係があったのが大きな理由です。
弊社が扱っているネームプレートや特殊印刷加工の分野には、多くの企業が参入していますが、顧客満足度の高い企業だけではなく、品質課題を抱えている企業などがあるのも現状です。
弊社では、その様な品質課題や顧客対応力に疑念を持っている企業様よりの高度品質要求にも対応し、管理する書類や規格の理解に特に注力しています。
お客様の求めるニーズに耳を傾け、差別化、高度化、付加価値という観点を強みに、多くの信頼をいただけたことが今に至っています。
——伊藤)特殊印刷加工と聞くと、あまりイメージがわかない方もいると思うので、
どのような場面で利用されているのか教えて頂けますか?
鷹巣氏)特殊印刷加工を利用した製品は多岐に渡りますが、弊社が製造する代表的な製品では、耐久性や特殊な機能を兼ね備えた金属や樹脂のネームプレート類になります。
多くの分野での機器類の部品として活用されていますが、特に開発された機器類の重要な部分を示す、決して消えてはならないネームプレート類等に利用されています。
——伊藤)それは非常に重要な部分の技術になりますね。
御社の特殊印刷加工技術の強みは何でしょうか?
鷹巣氏)弊社の強みは、航空宇宙防衛分野を主としての高度品質要求対応が可能なことです。そして塩水噴霧試験等の評価試験も自社内で行っています。
また、高度品質要求対応なスキルを活用した全分野の顧客ニーズ解決に向けた取り組みの大部分を、自社内でQCDコントロールをした上で供給することも可能です。
顧客特有の高度品質要求を理解し、それらを達成していく社員の育成に教育訓練も注力していて、顧客のニーズを実直に受け止めて活動出来る組織体制が弊社の強みだと思います。
※QCD:一般的に、製造業において生産管理を行う上で考えるべき「Quality(品質)」「Cost(コスト)」「Delivery(納期)」の3つの要素の頭文字を取った造語
——伊藤)御社が航空宇宙防衛分野に参入されたのはいつ頃でしょうか?
鷹巣氏)弊社が初めて本格的に航空宇宙防衛分野に参入したのは2010年代です。
とある同業者の社長をされている方からの紹介でしたが、同業者と取引関係のあるお客様のサプライヤーが廃業され、協力要請があったことが始まりです。
当初は、ISO9001(商品やサービスの品質向上を目的とした品質マネジメントシステム規格)も有していなかったので大変苦労しました。
Credit:三鷹製版株式会社
——伊藤)本当にゼロからのスタートですね。
特に航空宇宙防衛領域は特殊な環境だと思うのですが、開発を進めていく上で困難に感じたことはありましたか?
鷹巣氏)同業者の廃業から始まり、まずは納期に合わせて作ることが依頼されていたので、JISQ9100:2016(航空宇宙・防衛産業に特化した品質マネジメントシステムに関する国際規格)の要求に準拠する為にお客様よりかなりの支援をして頂きました。。
最終的にはやはりJISQ9100:2016が顧客のサプライヤーに対するニーズにおいて必要だから取得してほしいと要望がありましたが、同規模の同業者でももともとISO9001も有している企業もそれ程多くなく、正直無理な挑戦であると感じていた社員も多かったと思います。
逆に私はその時がチャンスだと気がつき、JISQ9100:2016の取得を目指しました。
——伊藤)そのような経緯があって認証を目指したのですね。
JIS Q 9100の認証を受け、現在はNadcapの認証取得に向けて取り組んでいると伺いました。Nadcapに関しても具体的に教えていただけますでしょうか?
鷹巣氏)
Nadcapは航空宇宙産業独自の品質認証の枠組みで、航空宇宙産業界の国際的な工程認証プログラムです。
特殊工程の一つでもあるアノダイズ工程(アルミ表面に酸化皮膜を人工的に形成させる表面処理法)における品質認証となります。
弊社はJISQ9100:2016認証を取得し、2022年後半にはNadcap認証に向けて取り組みを開始していきます。
——伊藤)さらに上の認証を目指すということですね。
このタイミングでNadcapの認証を目指したのには何か背景がございますか?
今までの旧世代の飛行機は、基本的にNadcapの認証を受けていなくても実績のある企業やコンペに勝ち残っていった企業が仕事を得ていましたかもしれませんが、時代も変わり、企業によって今では実績やQCDだけではなく、Nadcapの認証を得ている企業に対して優先的に仕事を依頼するような取組みも行われているそうです。
私達は民間航空機関連も含めて、次世代の航空宇宙防衛産業における機体・装備品関連製品受注に向けてNadcapは必須だと考えています。
——伊藤)実際、認証を受けたことで何かメリットは感じましたか?
鷹巣氏)組織や社員の未来や夢や方向性を示すことにも大きく寄与出来たと感じています。認証を受けたことで止まらず、内容の濃い品質マネジメントシステムに成長させていくことが出来てこそ、お客様のメリットに繋がり、弊社のメリットに繋がると思っています。
しかし、まだまだメリットを享受していけるには、弊社の航空宇宙防衛品質に関する取組みを盛んにさせなければならないと思っています。
——伊藤)御社のどのような製品や技術が宇宙で利用されているのでしょうか?
製造している製品は、航空宇宙防衛に関係する機体や装備品に貼り付けられるネームプレートに関連する製品が多いです。
特に過酷な場所で使用する製品は要求事項も多いため、銘板向けのアノダイズやエッチング(マスキングによる防食処理を施したうえで、腐食液によって不要部分を除去する)技術等が利用されています。
——伊藤)過酷な場所というのは、極度に暑かったり寒かったりする環境のことでしょうか。
鷹巣氏)そうですね。やはり地上とは違い、上空1万メートルの気温はマイナス50度もの極寒の世界ですし、エンジン回りは熱をもつので、シールのような熱に弱い素材は使うことができず、特殊印刷加工物も仕様によっては劣化が早いペースでやってきてしまいます。
それらを考慮した上で開発者の方がそれらに耐えうる特殊印刷加工の指示を図面にてされているのだと考えています。
Credit:三鷹製版株式会社
——伊藤)上空1万メートルの気温マイナス50度は想像を超えていますね…
今後新しい技術や製品開発について、どのような展望をお持ちでしょうか?
鷹巣氏)航空宇宙防衛産業に参入し、今日に至るまで基礎的な設備更新や、高度設備投資を中心に行ってきました。
今後は、製造革新が大幅に可能な高度加工技術に関する設備導入を更に検討しています。
また小ロット品であっても金型を必要としない難加工品等も手仕上げではなく、機械加工出来る様な設備・技術導入をし、1個の製品を仕上げる上でも従来のコストより低減出来る技術を導入し、お客様の製品開発に貢献をしたいと考えています。(大型のファイバーレーザー加工マシンと大型の超高速UVインクジェットプリンターを来春に導入予定です)
——伊藤)お客様第一に考えていらっしゃるというのが非常に伝わってきます。
最後に、これからどのようにして航空宇宙防衛産業を盛り上げていきたいでしょうか?
鷹巣氏)弊社では、モチベーションが高くやポテンシャルを持った仲間たちが苦労を重ね、問題・課題と戦いながら活き活きと活動をしています。
航空宇宙の業界で製品をつくっていて、日々新しい発見多いですが、みんなで一緒にチームビルディングをしながら目標に到達しようとしている毎日です。
昔と現在を比較すると、航空宇宙の業界に入ってから会社全体が明るくなったような気がします。(高度なことが出来る様になったメンバーは特に待遇改善にも繋げられました)
銘板を製造し、自分が作ったものが空を飛ぶ飛行機についているのを見たら感動しますよね。
また愛知県のあいち・なごやエアロスペースコンソーシアムに参加させて頂き、航空宇宙防衛産業に携わるということは後発ではありますが、他にはないような中小企業づくりをしっかりしていきたいと思います。
航空宇宙防衛産業に通ずる為にもハイグレードな特色のある中小企業を目指していきます。
そして地元の方達や利害関係者の方、特に働く人にも愛される様な、この会社で働きたいと思える企業づくりをして参りたいと存じます。
三鷹製版株式会社HP: https://www.mitaka-seihan.co.jp/
SPACEMedia編集部