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人とモノがつながる世界へ!ソフトバンクが掲げる「NTN構想」

Credit:ソフトバンク

現在インターネットは、私たちの暮らしに欠かせない存在となっています。さらに豊かな暮らしにするために、次世代通信規格「Beyond 5G/6G」の実現に向けた研究が世界中で始まっています。それに重要な役割を果たすのは、地上ではなく「宇宙空間」や「成層圏」から通信ネットワークを提供する「NTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)」です。

今回は、ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)のサービス企画技術本部 グローバル通信事業統括部 統括部長の木村潔(きむら きよし)氏に、ソフトバンクが掲げるNTN構想についてお話を伺いました。

世界とつながる「NTN構想」とは

―本日はよろしくお願いいたします。まず始めに、ソフトバンクが提供するNTN構想についてお聞かせください。

木村氏 NTN構想のポイントは大きく3つあります。
1つ目は、皆さんが使われているスマホの「モバイルネットワーク・オペレーター(MNO)」の支援です。2つ目は、現在電波が届いていない地域など、広域におよぶカバレッジを作り、今までよりも便利な世の中を構築する「デジタルデバイドの解消」があります。そして3つ目は、これまでは地上のネットワーク整備に重点を置いてきましたが、これからは「モビリティ」と呼ばれる、ドローンや自動車などの「オートノマス(自律システム)」にもコネクティビティを提供する「非地上(NTN)+地上が融合したネットワークの環境」を作って、提供していきたいと考えています。

―そもそも、NTN構想に至った経緯についてお伺いできますでしょうか。

木村氏 NTNの必要性を痛感したのは、2011年の東日本大震災です。当時、ソフトバンクのネットワークもかなり損傷して、完全に普及するまでに1ヵ月ほどの期間を要しました。その時にも、所有している衛星回線などをフル稼働して対応したのですが、利用者の方になかなか満足して頂けない状況があったので、「空のネットワーク」を強化する必要性を感じ、NTNの確立に向けて取り組み始めました。

―ちなみに、現在の通信サービスは日本中の何%をカバーできているのでしょうか。

木村氏 日本全体のモバイルネットワーク・オペレーターに関して、国土では約60~70%、人が住んでいるエリアの電波は99%以上をカバーできていると思います。その一方で、森林や海上などといった人が住んでいないエリアには、電波が届いていないところが多くあるというのが実情です。

NTN構想を支える「2つの通信サービス」

―ソフトバンクが提供するNTNソリューションは、どのような通信サービスなのでしょうか。

木村氏 ネットワークのソリューションは数多くありますが、ソフトバンクは、2つの通信サービスを考えています。
1つ目は、「スペースX」のスターリンクと同様に、高度1,200キロにある低軌道の衛星コンステレーションから通信サービスを提供する「OneWeb(ワンウェブ)※1」です。もう1つは、高度20キロに位置する成層圏を飛行し続ける無人飛行機が基地局となり、モバイル端末に直接電波を届ける成層圏通信プラットフォーム「HAPS(ハップス)※2」です。

この2つの通信サービスによって、グローバルで「空のネットワーク」を構築し、デジタルデバイドをなくすというビジョンを掲げています。

Credit: ソフトバンク

※1)「OneWeb」:イギリスの企業「OneWeb Ltd.」が提供する、低軌道衛星コンステレーション。
※2)「HAPS」:成層圏通信プラットフォーム。

―2つの通信サービス、低軌道衛星「OneWeb」および成層圏通信プラットフォーム「HAPS」の特徴をお伺いしてもよろしいでしょうか。

木村氏 まず低軌道衛星による高速大容量衛星通信「OneWeb」は、高度1,200キロにある極軌道上に衛星を打ち上げ、高速かつ低遅延な衛星通信サービスの提供を目指しています。静止軌道衛星よりも、地球に近い「低軌道」に多くの衛星を打ち上げることで、従来の衛星通信と比較しても、高速かつ低遅延の通信を実現します。

また「HAPS」を導入することで、普段使うスマホなどでの通信が可能となります。上空20キロという地上に近いところに基地局を搭載した無人航空機が滞空するため、より強い電波が広域に渡り地上へ届くようになります。さらに、通信速度も比較的早くなります。現在、設計しているHAPSは、1機体で直径200キロのカバレッジを作ることができるので、これまで圏外だったエリアにも電波が届くようになります。

ソフトバンクは、HAPSに力をいれており、成層圏におけるルール作りや利用できる周波数拡大の標準化活動など、世界に先駆けて取り組んでいます。

Credit: ソフトバンク

「HAPS」を利用した通信サービス

―「HAPS」の運用化について、いつ頃から取り組まれていたのでしょうか。

木村氏 2000年頃に、世界的にHAPSが盛り上がった時期がありました。けれど当時は技術的に実現には至らず、20年の時を経て、技術面も成熟してきたので目を付けました。
成層圏は、気流が安定していて、大気も薄く、さらに宇宙空間に近いエリアです。そこに基地局を積み、電波を発射するという構想です。
今後は、低軌道衛星(OneWeb)、静止軌道衛星、成層圏通信プラットフォーム「HAPS」を接続して、空のネットワークを構築して、地上で災害などが発生した際にも、地上に通信を届けたいと考えています。

また、2017年にソフトバンクの子会社として「HAPSモバイル株式会社(以下、HAPSモバイル)※3」を設立し、本格的に取り組みを始めました。HAPSモバイルは、安全性の確保や関連制度の確立を目指して、通信・テクノロジー・航空・宇宙航空など、様々な企業が加盟する業界団体「HAPSアライアンス」を創設しました。これには、エアバス、ノキア、スカパーJSAT、NTTドコモ、KDDIなど、世界15か国、約50社が参画していて、業界の課題の解決にも取り組んでいます。また、HAPSの理解促進に向けたイベント運営なども行っています。

※3)「HAPSモバイル株式会社」:HAPSの機体開発から通信試験などを行う、ソフトバンク株式会社の子会社のこと。

―とても多くの企業が参画されているのですね。「HAPS」が期待されているポイントはどのような点でしょうか。

木村氏 静止軌道衛星や低軌道衛星(OneWeb)などの衛星回線の場合は、地上のアンテナを経由してから、私たちのスマホにモバイル通信が届くようになっています。一方「HAPS」の場合は、地上のアンテナを経由せず、直接スマホにつなげることが可能になります。そうすることで、現在電波が届かない場所に行っても、ダイレクトにネットワークとつながることができるようになります。

また、通信の提供だけでなく、光学カメラやセンサーなどを搭載してさまざまな検証や観測を行うことも期待されています。

Credit: ソフトバンク

―「HAPS」の商用化に向けて取り組まれていますが、現状どのような試験などをされていますでしょうか。

木村氏 HAPSモバイルは、固定翼の太陽光発電で飛行する成層圏通信プラットフォーム向け無人航空機「Sunglider(サングライダー)」を開発しました。Sungliderは、無線通信機器(ペイロード)を搭載した、78メートルほどの巨大な翼を持つ大型機になります。大型であればあるほど、重いペイロードを運べることになり、より広域に通信エリアを提供できるようになります。

会社の設立から3年後となる2020年9月、Sungliderは成層圏でのテスト飛行に成功し、高度約19kmに到達しました。テスト飛行は20時間16分に及び、成層圏での滞在時間は5時間38分と長い時間を飛行して、搭載していたペイロードも損傷がないまま地上へ戻すことに成功しました。

さらに、このテストフライト中に、実際に地上のスマホから発信し、HAPSを経由してインターネットをつなぎ、日本とアメリカでスマホ同士でのビデオ通話を実施して、自律型航空式のHAPSによって、成層圏飛行中のLTE通信を世界で初めて成功させ、技術的にも立証されました。その実績に基づいたデータを含めて、商用化に向けた、機体の開発などをしているのが大枠のアウトラインになります。

世界初となる通信試験の様子
Credit: ソフトバンク

―テストフライトも成功している「HAPS」ですが、技術的な課題などがあれば、お聞かせください。

木村氏 「HAPS」の商用化に向けての課題は、安全面の確保です。成層圏という地上から近い距離を飛行することで、強い電波が届く利点がある一方、私たちの頭上を飛行するので、本当に安全面が重要な課題です。現在、安全面の確立に向けて、実績を積み上げています。

また、上空で長時間滞空するためには、エネルギー密度が高いバッテリーの開発も、今後の課題になってきます。それらが世の中に出てくると、安定した電波を提供することができます。HAPS業界全体に言えることですが、現在は「周波数の確保」や「成層圏におけるルール作り」があまり行われていないので、そこも将来的に必要になってくるのが課題です。

さらに「HAPS」は数ヵ月間上空を飛行した後、地上へ降りてきて、それに代わって別の機体が飛行して、という流れを繰り返します。どのくらいの期間を飛ばすことが安全であるかを見定めていかないといけないですし、技術面やレギュレーション的な側面の調整などといった課題もあります。長期間滞空することは、ネットワークの安定につながりますので、実現したいと思っています。

―実際に運用開始するのは、いつ頃を想定されていますでしょうか。

木村氏 現在はまだ明確には言えませんが、2027年頃に日本とは限らず世界のどこかでサービスを提供したいと思い、その実現化に向けて進めています。

成層圏を飛行するということで、やはり安全面が大事です。そのため、安全面が確保された機体を数多く作らなくてはいけません。HAPSの機体数は、各国のデマンドがあるので、それに合わせて数は決まります。現状では、どのくらいの機体を飛ばすのかはまだ決まっていません。

技術的な話になりますが、HAPSは太陽光のエネルギーを使います。上空で長期間滞空するためには、昼間は太陽光をエネルギーに変えて滞空することができますが、夜間は昼間に充電したエネルギーを使わないといけません。そのため、24時間365日滞空させようとすると、「赤道」を中心とした緯度の低い地域から、運用を開始すると思っています。

どうしても日本は冬の期間が長く、昼間よりも夜間が多いですよね。現在のバッテリー技術ですと、このままでは滞空できなくなってしまいます。

そのため技術が進歩して、その点をカバーすることができれば、終日サービスを提供することができますし、また24時間365日も提供しなくてもいいとなれば、季節ごとなど期間限定で飛ばすという可能性もあります。

成層圏を飛行する「Sunglider」
Credit: ソフトバンク

・Sungliderのテストフライトの動画はこちら:https://youtu.be/9G_h_fDyYAk

今後の展望について

―「NTN構想」によって、私たちの暮らしは大きく変わりますか。

木村氏 カバレッジが増えれば、どこに行ってもスマホが使える環境になるので、人々の生活も大きく変わります。将来的には、スマホに入っているインターフェースをそのまま「モノ」に搭載することも可能になり、「自動運転」の世界が実現化されると考えています。
自動運転のコネクティビティによって、そのような世界の実現が可能になるのです。
NTN構想は、その世界を実現化するために欠かせない存在です。

NTN構想と向き合うきっかけにもなった「災害対策」はもちろんですが、現代はインターネットなしで生活することは考えられないと思います。そのため、安定的なインターネットの接続環境を構築して、その環境を維持、さらに高めていくことが重要です。

現在、スマホは「人」と結びついていますが、そこを「人ではなく“モノ”」と結びつけることが目標です。そうすることで、今までできなかった「マシン(モノ)」が頭脳をもった形でインターネットに接続することになり、世界は一変すると思います。どこでも、いつでも、地球上のすべての人、そしてモノがつながる社会を目指しています。

現在、多くの会社が「HAPS」の開発を行っていますが、ソフトバンクが提供したいのは、あくまでネットワークです。私たちとしては「電波をより広域に届ける」というのが、1番の目的になります。

6Gネットワークのインフラとして重要な役割を果たすHAPS
Credit: ソフトバンク

以上、ソフトバンクの木村氏のインタビューでした。

半世紀前には、ほとんど知られていなかった「インターネット」ですが、現在は私たちの暮らしになくてはならない重要な存在になりました。今後、さらなる発展を遂げることでよりいっそう欠かせない存在になるでしょう。ソフトバンクが掲げる「NTN構想」がもたらす新しい生活に期待が膨らみます。皆さんも世界中の人やモノがつながる暮らしに、想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

木村潔 Kiyoshi Kimura
ソフトバンク株式会社
サービス企画技術本部
グローバル通信事業統括部
統括部長

                                   SPACEMedia編集部