月面開発、そして火星探査を見据えたアルテミス計画が現在進行中です。このような天体の探査はアメリカや中国などの国々が得意としていますが、一方で小惑星探査の分野では日本がトップを走っています。
この記事では日本の小惑星探査をテーマに、その実績や技術について特集していきます。
※本記事は『僕たちはいつ宇宙に行けるのか』という書籍の内容を踏まえたSPACE Mediaとしての見解です。
『僕たちはいつ宇宙に行けるのか』
日本が成し遂げてきた小惑星探査
2003年5月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」は、長い旅路を経て2005年9月に小惑星「イトカワ」に到着し、周囲から観測して表面のサンプルを持ち帰り、大きな反響を呼びました。その旅路は約20億kmで、イオンエンジンによる惑星間航行や地球スイングバイに成功しながら、ミッションを果たすことができました。
イトカワの観測により、小惑星がどのように衝突を繰り返してきたのかの歴史がわかり、それは地球や太陽系の歴史に関する研究にもつながっていきます。地球の重力が及ばないほど遠くの小惑星に着陸してサンプルを地球に持ち帰るというのは、世界初の試みでした。
続いての「はやぶさ2」は2014年12月に打ち上げられ、2018年6月に小惑星「リュウグウ」に到着しました。はやぶさ2のミッションでは、リュウグウ表面に衝突装置を投下することによる人工クレーター作成、それによって飛散した地下物質の回収、さらにはリュウグウの気体回収など、多くの世界初を達成しました。2020年12月に地球に帰還させた後、再び別の小惑星に向かって次のミッションを行おうとしています。
日本の小惑星探査の近年実績
2003年 5月 「はやぶさ」をM-Vロケット5号機で打ち上げ
2004年 5月 地球に最接近してスイングバイを行う
2005年 11月 小惑星イトカワに着陸。カプセルにサンプルを採取
2010年 6月 「はやぶさ」地球へ帰還
2014年 12月 「はやぶさ2」H2Aロケット26号機で打ち上げ
2015年 12月 地球に最接近してスイングバイを行う
2019年 2月 「リュウグウ」への着陸に成功。人工クレーターを生成しサンプル採取
2020年 12月 「はやぶさ2」が地球にカプセルを投下。再び別の小惑星へ
なぜ小惑星探査なのか
多くの成果を小惑星探査により残してきた日本。ではなぜ小惑星を目指したのでしょうか。その理由は、より少ないコストで達成できるのが小惑星探査だからです。
月や火星といった天体を探査するには、周回軌道に入る際に少しでも時間やコースのズレがあると失敗してしまいます。深く入れば重力に引っ張られて地面に衝突してしまいますし、浅く入ればはね返されて到達することができません。
失敗を防ぐためには、予備の機器やシステムをたくさん用意しなければなりません。これではミッションにかかるコストが膨大になってしまいます。アメリカや中国のような大国であれば、多額の費用を宇宙開発に投じることができますが、そうでない日本のような国が月や火星の探査に挑むのは有利ではありません。
そこで、重力がはるかに小さい小惑星の探査を行うということになりました。小惑星であれば大きな重力の影響を受けて墜落したり、周回軌道にうまく乗れずに飛んでいったりしてしまう心配はほとんどありません。しかしながら、当然小さい天体ですから、非常に高度な制御技術が求められることになります。はやぶさ2では、地球から約3億kmも離れたリュウグウで、60cmという高い精度での着陸を実現し、これは他のどの国も達成したことのない技術です。
「はやぶさ2」がリュウグウに接近する様子のCGイラスト。衝突装置を発射してつくられた人工クレーターも描かれている
燃料を節約できる「スイングバイ」
はやぶさでもはやぶさ2でも、宇宙空間を移動する技術として「スイングバイ」という方法を用いました。これは、星の重力を利用して速度を上げたり進む方向を変えたりする技術であり、推進剤を大幅に節約しながら目的地まで到達することができるようになります。
はやぶさ及びはやぶさ2が行ったのは「地球スイングバイ」と呼ばれるもので、地球からの打上げ後に地球の重力と公転する力を利用して探査機に勢いをつけ、それから小惑星に向かっていきました。
スイングバイは日本が得意としている技術です。まず、簡単にスイングバイの考え方を説明したいと思います。あちこちにくぼみがあるコートをビー玉が転がっていく様子を思い浮かべてみてください。推進剤を噴射してうまく制御しながら、そのくぼみに落ちないようにふちのぎりぎりを通っていくと、勢いがついて遠くまで行くことができます。
宇宙でいうと、そのくぼみは星の重力に相当します。くぼみの真ん中にあるのが星で、大きい星ほど重力が大きくなり、くぼみも深く大きくなります。星の重力につかまって落ちないよう、ふちをうまくまわり込んでいきます。この方法だと、燃料をほとんど使わずに加速や方向転換ができるのです。少しでもタイミングがずれると望み通りの加速や方法転換ができないため、非常に複雑で細かな軌道計算が必要となってしまいますが、代わりに、大きな省エネが図れるわけです。
実は、加速を考えるにはくぼみの動き、つまり星の公転運動を考えなくてはなりません。上の図で中央のくぼみについて考えてみましょう。ビー玉が通り過ぎる時にくぼみ全体が左に動いたとします。そうすると、右側から左上に向かっているビー玉は、その斜面に押されて加速するというイメージが持てると思います。
方向転換はくぼみを回り込む、加速はくぼみ全体の動きに引っ張られてぐんと速度が上がる、こういう力を利用して、うまく節約しながら小惑星探査を達成させてきたわけですね。大規模な予算が無くても大きな成果を上げてしまう技術力で、小惑星探査の分野で日本は世界をリードしているのです。
参考:https://sorabatake.jp/?s=%E5%B0%8F%E6%83%91%E6%98%9F%E6%8E%A2%E6%9F%BB
SPACE Media編集部